書評
岸本裕史『ドラえもんの学習シリーズ ドラえもんの算数おもしろ攻略 改訂版 算数まるわかり辞典 1~3年生』(小学館)
引き算は難しい。
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もんだい
公園で9人の子どもたちが、あそんでいました。しばらくして、5人が帰りました。あと何人あそんでいるでしょう。
(p18)
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愚問。
「公園」と「しばらくして」と二つの「あそんで」は解答者を惑わす言葉だ。「あそんでいるでしょう」なんて、とんでもない。勉強をしているかもしれない。寝ているかもしれない。
適当な問題だと、〈ある部屋に9人の子どもたちがいました。5人がいなくなりました。残りは何人でしょう〉となる。
不適当な「もんだい」を適当な問題に作り替えることができなければ、式は立てられない。算数を学ぶ前に読解力が必要なのだ。ただし、算数専用の読解力。日常生活では役に立たない読解力。
さて、この「もんだい」を解こうとして、偽のび太は「9+5で……」とやり始める。すると、偽ドラえもんは「このもんだいはたし算じゃないよ」とお節介を焼いてくれる。やらせとけよ。のび太は〈9+5=14〉とやってみるべきなのだ。その結果、〈何か変だな〉と思いなさい。もし、思わなければ、計算を始めるのは早い。先に算数専用の日本語を学ばなければならない。
人数が増えるのか、減るのか。そのことを、ざっくりとわかっていないのに、計算の方法を知っても無駄だ。「たし算じゃないよ」と言われれば、1年生なら、〈じゃあ、ひき算〉と思ってしまう。だが、そんな癖が付いたら、算数であれ何であれ、考える力は養われない。
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ここがポイント
「ちがいはいくつ」に答えるときは、ひき算で計算するんだ。
(p20)
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ひどい!
偽ドラえもんにもひどいということは、わかっているらしい。だから、慌てたように付け加える。「ちがいはいくつ」は、記号の前触れだろう。
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もんだいに書いてあることを、そうぞうすることを「イメージする」というんだ。
(p19)
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無責任。
どうやって想像するんだよ。「そうぞう」ができないのに、「そうぞう」を「イメージ」と言い換えたら、なおさら難しくなるぞ。
そのことを心配した偽静香が「もんだいはかならず3回読んで、書いてあることを「イメージ」しましょうね!」(p19)と助言する。
ナンセンス!
どうやって「そうぞう」をするのか。
「文章題はすぐ式をたてようとするのではなくて、書いてあることを図に表すと、考えやすくなるよ」(p81)
「問題の中の数のかんけいがわかりにくいときは、図にかいて考えのがいちばんいいよ」(p122)
さっさと、そう言えよ。偽ドラえもんの意地悪!
実は、黒いタイル9枚と5枚(p19)が並べてある。だが、この方法は置き換えであって、想像ではない。想像の場合、人の姿がばらばらとあって、ふらふらと減る。減るということを漠然と想像することが初めの一歩だ。増えるのか、減るのか、そのことがおおまかにわかっていないのなら、図に置き換えても無駄だ。
じゃあ、どうやって想像するのか? 知らない。私は知らないよ。
さて、偽ドラえもんに応用問題を出してやろう。
〈誰もいない部屋に9人来た。5人出た。さらに5人出た。今、何人いるか〉
9-5-5=-1
「そうぞう」できるかな。マイナスの人数では幽霊をイメージするかい?
〈誰もいない部屋に9人来た。5人出た。さらに5人出た。最後に9人来た。今、何人いるか〉
来た人と出た人を別々に数えたら、マイナスの人数は出ない。
9+9-(5+5)=8
この計算なら、幽霊抜きでイメージできるかな?
(続)