(書評)
志村有弘『新編 百物語』(河出書房新社)
歴史とは強者の物語のことだ。
弱者の物語を怪談と呼ぶ。
*
戸川肥後守の四、五歳になる娘の乳母と料理人とが密通した。そのことが露見して、まず料理人を討ち果たし、次に乳母を呼び出した。乳母は、どういうわけか、
「わかりました」
と言い終わらないうちに、男の血をすすり、その吸った血を天井に吐きかけた。そこを逃すまいということで討ち果たしてしまった。
その夜から乳母と料理人ふたりの幽霊が出た。それは、娘の眼にだけ見えた。
(「第四十九話 幽霊の復習」)
*
芸術は復讐だ。
(終)