こんにちは。
小説の続きです。
気温の変化が大きいので呼吸器に障害のあるわたしには辛い季節です。
風邪が流行ってます。インフルエンザの予防もお早めに。
小説 小松原法難 2
工藤館では当主吉隆が日蓮の来着の遅れを気にしていた。領地の境界まで出迎えようと郎党からの報告を待ったが、遂に居ても立ってもいられなくなって日蓮を迎えに出かけることにした。身重の妻が門前まで出てきたのを気遣いながら、吉隆は振り返ると笑顔で声をかけた。
「奥よ、生まれくる子が男の子であったならば聖人のお弟子にしてもらおう」
「まぁ、お気の早いこと」
利発で慎ましやかな女性であった。一族郎党の誰もがこの妻を大切にしてくれる。馬上の吉隆は天を仰ぐと大きく息を吸い込み「参る」と言うと数名の郎党と共に走り出した。
(そう決めた。男児ならば必ず聖人のお弟子に加えてもらおう)
しばらく進むと先行していた郎党の熊十が血相を変えて駆けてきた。
「御屋形様、一大事。一大事にございまする」
「どうした。何があったのじゃ」
馬から下りた吉隆は倒れ込む熊十を抱き起こすと、腰に付けた水筒の水を与え事情を訊いた。
「と、東条景信、郎党や念仏信者を引き連れて聖人を襲撃とのこと聞き及び、急ぎ引き返して参りました。よ、与次郎は詳細を調べると言って東条屋敷に張り付いております」
天地が動転した。何が何でも日蓮を窮地から救わねばならない。
「与兵衛、与兵衛はおるか」
与兵衛と呼ばれた壮年の郎党が吉隆の側に駆け寄った。
「はっ、与兵衛にござる」
「うむ。そなたはこれより熊十を伴って館に戻れ」
「急を知らせよ、とのことですな」
「そうじゃ。館の守りはそなたの手の者と熊十で当たれ。残りは全て押し出せ。よいな」
「お断りいたしまする」
与兵衛はきっぱりと断った。
「な、何と申した」
吉隆は気色ばんだ。与兵衛は父の代から工藤家に仕える郎党であった。戦闘よりはむしろ家宰として家を取りまとめる役柄が向いていた。そんな与兵衛がこの一大事に首を縦に振らないのである。
「御屋形様、わしは自分の手柄が欲しいわけではありません。ただただ幼少の頃からお仕えいたしておりました御屋形様とお別れし、一人館に戻るなど……」
与兵衛はぼろぼろと泣き出してしまった。吉隆は与兵衛の方に手を置いて語りかけた。
「与兵衛。そなたの気持ちは有り難い。すまんとも思う。しかし今館に戻って指揮を執れるのはそなたしかおらぬのじゃ。わかってくれ。東条景信は老獪な男ゆえ、わしが駆けつけるを計算してすでに一手を館に差し向けて居るやもしれぬ。先陣するは部将の役目、館にて指揮するは都督の役目じゃ。ここは与兵衛、そなたでのうては務まらなぬ。よいか、これ以上無理を言うてはならぬ」
与兵衛は館に戻ることを了解した。吉隆は残りの数名の郎党に声高に宣言した。
「よいか、東条景信が日蓮聖人を襲撃した。日蓮聖人のお命はそのままこの工藤吉隆の命でもある。これより逆賊景信を討つ。皆の者われに続け!」
おう、と言う返事を残して駆けだした。
「与兵衛、奥にのう、聖人は必ずこの吉隆がお救いいたす故、心配いたすなと伝えてくれ」
吉隆は熊十を肩に担いでこちらを見送る与兵衛にそう叫ぶと一気に駆けていった。
小説の続きです。
気温の変化が大きいので呼吸器に障害のあるわたしには辛い季節です。
風邪が流行ってます。インフルエンザの予防もお早めに。
小説 小松原法難 2
工藤館では当主吉隆が日蓮の来着の遅れを気にしていた。領地の境界まで出迎えようと郎党からの報告を待ったが、遂に居ても立ってもいられなくなって日蓮を迎えに出かけることにした。身重の妻が門前まで出てきたのを気遣いながら、吉隆は振り返ると笑顔で声をかけた。
「奥よ、生まれくる子が男の子であったならば聖人のお弟子にしてもらおう」
「まぁ、お気の早いこと」
利発で慎ましやかな女性であった。一族郎党の誰もがこの妻を大切にしてくれる。馬上の吉隆は天を仰ぐと大きく息を吸い込み「参る」と言うと数名の郎党と共に走り出した。
(そう決めた。男児ならば必ず聖人のお弟子に加えてもらおう)
しばらく進むと先行していた郎党の熊十が血相を変えて駆けてきた。
「御屋形様、一大事。一大事にございまする」
「どうした。何があったのじゃ」
馬から下りた吉隆は倒れ込む熊十を抱き起こすと、腰に付けた水筒の水を与え事情を訊いた。
「と、東条景信、郎党や念仏信者を引き連れて聖人を襲撃とのこと聞き及び、急ぎ引き返して参りました。よ、与次郎は詳細を調べると言って東条屋敷に張り付いております」
天地が動転した。何が何でも日蓮を窮地から救わねばならない。
「与兵衛、与兵衛はおるか」
与兵衛と呼ばれた壮年の郎党が吉隆の側に駆け寄った。
「はっ、与兵衛にござる」
「うむ。そなたはこれより熊十を伴って館に戻れ」
「急を知らせよ、とのことですな」
「そうじゃ。館の守りはそなたの手の者と熊十で当たれ。残りは全て押し出せ。よいな」
「お断りいたしまする」
与兵衛はきっぱりと断った。
「な、何と申した」
吉隆は気色ばんだ。与兵衛は父の代から工藤家に仕える郎党であった。戦闘よりはむしろ家宰として家を取りまとめる役柄が向いていた。そんな与兵衛がこの一大事に首を縦に振らないのである。
「御屋形様、わしは自分の手柄が欲しいわけではありません。ただただ幼少の頃からお仕えいたしておりました御屋形様とお別れし、一人館に戻るなど……」
与兵衛はぼろぼろと泣き出してしまった。吉隆は与兵衛の方に手を置いて語りかけた。
「与兵衛。そなたの気持ちは有り難い。すまんとも思う。しかし今館に戻って指揮を執れるのはそなたしかおらぬのじゃ。わかってくれ。東条景信は老獪な男ゆえ、わしが駆けつけるを計算してすでに一手を館に差し向けて居るやもしれぬ。先陣するは部将の役目、館にて指揮するは都督の役目じゃ。ここは与兵衛、そなたでのうては務まらなぬ。よいか、これ以上無理を言うてはならぬ」
与兵衛は館に戻ることを了解した。吉隆は残りの数名の郎党に声高に宣言した。
「よいか、東条景信が日蓮聖人を襲撃した。日蓮聖人のお命はそのままこの工藤吉隆の命でもある。これより逆賊景信を討つ。皆の者われに続け!」
おう、と言う返事を残して駆けだした。
「与兵衛、奥にのう、聖人は必ずこの吉隆がお救いいたす故、心配いたすなと伝えてくれ」
吉隆は熊十を肩に担いでこちらを見送る与兵衛にそう叫ぶと一気に駆けていった。