ちょこっと考えてたんですが、千早赤坂村に行ったので、帰りの車の中で構想を練りました。
超短編です。
3回に分けます。超短編といっても1回では長すぎます。
挙 兵
城に籠って幾日過ぎたか覚えていない。
赤坂城の弱点は水だった。井戸を掘ってもほとんど水が出なかった。先年の戦ではその弱点に気づかれる前に城を焼き捨てた。それと同時に大塔宮と自分が死んだという噂も流させた。さすがに六波羅は信じ切ってはいなかったろう。それでも7万の軍勢を引きつけてよく戦ったとい評価が流れただけで良かったのだ。
しかし今回は違う。北条幕府は再び7万の軍勢を関東から押し出して来た。赤坂城は密かに節をくり抜いた竹を地中に埋めて川からの水を送り込めるようにしている。水源が発見されない限り赤坂は落ちない。しかし言い換えれば水源が見つかれば、赤坂は10日も持たないということだった。
水源が発見され、赤坂が落ちた。城将の平野将監は幕府側に投降したが、六条河原で斬られた。勢いに乗った幕府は征討軍をさらに増強させ、その数はついに10万を超えた。
千早城に10万を超える幕府軍が押し迫って来た。攻城戦は苦手とはいえ、目の前にする坂東武者の布陣は見事なものだった。谷を埋めた軍勢に思わず息を呑んだ。
都にはなった間者からの報告では、播磨の赤松円心が都を攻める様子を見せているという。さらに隠岐にいる帝が名和長高によって伯耆に入ったという報せも受けた。
包囲陣の後方が撹乱されている。大塔宮率いる軍勢が河内に進出して来たようだ。
あと少しだった。帝と悪党が組んで鎌倉にある武士政権を倒し、そして新しい国のカタチを創り出す。まもなくその夢の曙光が見えてくるはずだった。
「兄上」
正季が都にはなった間者と共に近づいて来た。長い籠城戦で頬はこけ、体力も精神力も限界のはずだが、眼光だけは鋭いままだった。
視線があった。みるみるその力が失われていった。
「まさか」
片膝をついた正季の肩が激しく揺れた。
「足利にございます。兄上、六波羅が高氏に落とされました」
(どういうことだ)
正成は破れるほど強く唇をかんだ。血が口中に広がっていく。
六波羅は赤松円心によって落とされなければならなかった。そして円心もそれをよくわかっていたはずだった。
武士が武士の政権を倒しても、結局違う武士の政権ができるだけだ。民の苦しみは救われることはない。正成が、大塔宮が見た夢の曙光が遠く霞んで行った。
坂東武者は10万も候へ、漢はひとりもなく候。
超短編です。
3回に分けます。超短編といっても1回では長すぎます。
挙 兵
城に籠って幾日過ぎたか覚えていない。
赤坂城の弱点は水だった。井戸を掘ってもほとんど水が出なかった。先年の戦ではその弱点に気づかれる前に城を焼き捨てた。それと同時に大塔宮と自分が死んだという噂も流させた。さすがに六波羅は信じ切ってはいなかったろう。それでも7万の軍勢を引きつけてよく戦ったとい評価が流れただけで良かったのだ。
しかし今回は違う。北条幕府は再び7万の軍勢を関東から押し出して来た。赤坂城は密かに節をくり抜いた竹を地中に埋めて川からの水を送り込めるようにしている。水源が発見されない限り赤坂は落ちない。しかし言い換えれば水源が見つかれば、赤坂は10日も持たないということだった。
水源が発見され、赤坂が落ちた。城将の平野将監は幕府側に投降したが、六条河原で斬られた。勢いに乗った幕府は征討軍をさらに増強させ、その数はついに10万を超えた。
千早城に10万を超える幕府軍が押し迫って来た。攻城戦は苦手とはいえ、目の前にする坂東武者の布陣は見事なものだった。谷を埋めた軍勢に思わず息を呑んだ。
都にはなった間者からの報告では、播磨の赤松円心が都を攻める様子を見せているという。さらに隠岐にいる帝が名和長高によって伯耆に入ったという報せも受けた。
包囲陣の後方が撹乱されている。大塔宮率いる軍勢が河内に進出して来たようだ。
あと少しだった。帝と悪党が組んで鎌倉にある武士政権を倒し、そして新しい国のカタチを創り出す。まもなくその夢の曙光が見えてくるはずだった。
「兄上」
正季が都にはなった間者と共に近づいて来た。長い籠城戦で頬はこけ、体力も精神力も限界のはずだが、眼光だけは鋭いままだった。
視線があった。みるみるその力が失われていった。
「まさか」
片膝をついた正季の肩が激しく揺れた。
「足利にございます。兄上、六波羅が高氏に落とされました」
(どういうことだ)
正成は破れるほど強く唇をかんだ。血が口中に広がっていく。
六波羅は赤松円心によって落とされなければならなかった。そして円心もそれをよくわかっていたはずだった。
武士が武士の政権を倒しても、結局違う武士の政権ができるだけだ。民の苦しみは救われることはない。正成が、大塔宮が見た夢の曙光が遠く霞んで行った。
坂東武者は10万も候へ、漢はひとりもなく候。