Quelque chose?

医療と向き合いながら、毎日少しずつ何かを。

「信仰と医学」

2021-01-19 | 本・映画・テレビ
ふと、「聖地ルルド」というサブタイトルが目に留まり、帚木蓬生氏の「信仰と医学」を読んだ。


聖ベルナデットの聖母マリアとの遭遇、そして今日までの多くの巡礼者(そう言えば、コロナ禍の中で、聖地はどうなっているのだろうか)、

そういったあれこれを断片的に知識として知ってはいても、それをまとめて医学的な視点から記述した日本語の文献はあまり読んだことがなく、興味をもったのである。

箒木氏は仏文科卒後に精神科医となった作家であり、フランス留学の経験もある。
ルルドについて語るにはこの上ないバックグラウンドである。

この本では、まず氏が実際にルルドを訪れた時のエピソードをプロローグとし、

ついで、ルルドにおいて、ベルナデットという少女がいつ、どのようにして聖母マリアと出会い、語らい、それに対して周囲の社会がどう反応したかを詳細に綴っている。
この記録は一人の神父によるものとのことだが、まるでドキュメンタリーのように、当時のセリフの一言一言まで書かれており精細だ。

次いで、その後のルルドの発展や、「ルルド国際医学評議会」について、
また最終章は、おそらく皆が抱いているであろう疑問、「奇跡の治癒はプラセボ効果か」というタイトルで論じられている。

その疑問に、明確に回答を出すような書き方は、本書では注意深く避けられている、と思える。

しかし著者は言う、

「しかしルルドが(中略)他に類を見ない特異な場所になっているのは、そこでは宗教と医学が手を取り合って、お互いを、補完し合っているからである」。(“おわりに”より)

宗教と医学が並び立つからこそ、ルルドは特別であり、病者も健康な人も、いつか訪れてみたいと思える地なのであろう。

いつか、ベルナデットの見た風景を見に行きたい、と思う。

「50歳からの孤独入門」

2021-01-08 | 本・映画・テレビ


図書館でたまたま見つけて読んでみた本。

私も50代半ば。いわば“人生この先どうしよう感”に苛まれているので、このタイトルを見て興味を持った。
斎藤孝氏の著作は初めて読む。

…軽い。
すらすら読める。
ネタが幅広くて、趣味の話が続出するので読みやすいのかなと思う。

歴史上の偉人の話も面白いが、まあ昔の50歳と今の50歳とでは生物学的にも社会的にも違うし、

魚類の求愛ダンスと人間のダンスが同じなのか定かではないけれども、

そんな感じでいろいろな話題が繋がっている。

「プライドと折り合いをつけて生きる」

とか、

「美的な精神生活を獲得する」

とか、

悩み多き50代にとっては、知ってたけどまあそうだよね、と、言われて改めて確認するような事柄がいろいろ記述されている。

まあ、まだまだとりあえず頑張ろう。

とは言え自分は、

「50歳になったら物欲が整理される」

ことはなく、日毎Amazonやらをポチポチしてるけれども。

映画「キャロル」

2020-11-08 | 本・映画・テレビ
「キャロル」を観た。
2015年公開の映画である。



女性同士の恋愛を描いたもので、演技が素晴らしい…程度の前知識であったが、

確かに、
深く心を揺さぶられる作品であった。

1950年代のニューヨーク、クリスマスの時季。
華やいだデパートメントストアで買い物をする人々、
バーで語り合う若者たち、
クラシックカーのガラス窓を通して見るぼやけた街の光、
シガレットの煙、

そういった風景のなかで、

それぞれに葛藤を抱えたキャロル(ケイト・ブランシェット)とテレーズ(ルーニー・マーラ)が出会うのだ。

キャロルの美しさ、哀しさ、テレーズの若さ、迷い、
それらが渾然となって、
やがて二人の関係性が深まっていく。

女性と女性の恋愛ではあるのだろうが、
それは肉欲的な衝動というよりは人間同士が慰め合い、愛おしさを確かめ合う存在確認であったのかもしれない。

ラストシーンは余韻を残す。
「日常」が戻った二人がこの先どういう日々を過ごしていくのか、
映画の時代を歴史として知る我々はさまざまに想像することになるからである。

ケイト・ブランシェットもルーニー・マーラも素晴らしい。
撮影や音楽もスタイリッシュである。古き良き(密な!)ニューヨークをしばし体験できる。

大人が夜、ゆっくり観るのにおすすめである。特にクリスマスの頃に。





「オリエント急行殺人事件」

2020-10-03 | 本・映画・テレビ
見逃していた映画だったが、今日、地上波初放送というのでリアルタイムで観た。

エルキュール・ポアロと言えば、もうこれはデビッド・スーシェのイメージで決まっていたので、
ケネス・ブラナー? 草刈正雄?? それってどうなのか?と。

ストーリー自体は、知っていてもやはりスリリング。オリエント急行を巡る当時の風景、もちろん列車内の調度品や凝った衣装など、視覚的に大変ゴージャス。

ただこのポアロ、とってもスタイリッシュでアクティブ。
なんというか、かっこ良すぎる?
そのアクションシーン、いる?
それよりは、登場人物の書き込みをもう少ししても良くないか?と(ただ今日はテレビ放送なので多分大分カットされてるのであろうが)

あと、これは字幕版で観るべき。

あの(スーシェの)ポアロだと思わなければ、これはこれでいいのかも。

原作をまたじっくりと読み返したくなった。








トゥルーマン・ショー

2020-09-26 | 本・映画・テレビ
Netflixで「トゥルーマン・ショー」を観た。

もう20年以上前の作品なのだな。
でも、まったく古めかしくならない、むしろ個人情報やプライバシーがかまびすしく扱われる今日だからこそ、考えさせられるところの多いテーマだ。

トゥルーマンは美しい夕陽の見える海辺の街で、保険会社に勤めている。
美しい妻、気のいい隣人たち、そして幼い頃からの親友などと、毎日変わらない、平凡で平和な日々を過ごしている。

しかし…彼の生活は、どこかがおかしい。
何かがおかしいのだが、何がおかしいのかわからないトゥルーマン。

昔の辛い思い出を乗り越え、今は何も不自由なく、皆に愛されて暮らしているはずなのに…

実は、

彼は知らないのだが、

トゥルーマンの生活は、いや人生は、全世界に向けて発信されているのだ。

リアリティショー?
いや、彼を巡る世界は、それよりもはるかに壮大で、いとわしい。

ネタバレになるので細かく書かないけれども、
コメディと書いてある映画ではあるが、サスペンス、またはサイコホラーとも言える。
トゥルーマン自身にも、あるいはそれを観ている視聴者にも、どちらにも共感できそうで、はらはらする。
悪役(?)はどこか、スティーブ・ジョブズを思わせる風貌。

ジム・キャリーも、もちろんピーター・ウィアー監督もさすがと思える作品。
好みはあるかもしれないが、なかなかのお勧め。