Quelque chose?

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映画「日の名残り」

2019-01-20 | 本・映画・テレビ

The Remains of The Day 「日の名残り」カズオ・イシグロ原作
ジェームス・アイヴォリー監督、1993年

だいぶ前に買ってあったDVDをようやく鑑賞。
というか、確か前にも一度この映画を観たことがあるのだけれど、カズオ・イシグロのノーベル賞受賞を機に、コレクターズ・エディションのDVDを買ったのだった。
主役の執事スティーブンス役はアンソニー・ホプキンス。 ミス・ケントンはミア・ファロー。

もちろん原作を先に読んでいると、映画ではだいぶカットされてるなあと思うところはあるけれど、それでも第二次大戦前後のイギリス上流階級と使用人や庶民の生活がありありと再現されるのに(使われている銀器一つ、洗面器一つなどにも)目を惹きつけられる。
クラシックカーが走るイギリス各地の風景や「ダーリントンハウス」の広大な屋敷など、現在だったら、間違いなくドローンを使って撮影されるだろうな。

主役二人の演技がさすがに素晴らしく、まなざしや手指の仕草だけで、言葉にできない感情を表現して互いに心で会話しているようである。
どこまでも仕事第一を貫くスティーブンスの気持ちにも、ミス・ケントンの切なさにも感情移入できるし、あるいは客人として現れるさまざまな立場の人物も、まるで同時代人であるかのような近さで見ることができる。
若手新聞記者として登場するヒュー・グラント始め、皆さん適役だったなあと改めて思うし、ルイス役を演じたクリストファー・リーブの当時の堂々とした体格を見ると、その後彼が脊髄損傷で半身不随となった運命を不思議に思わざるを得ない。

日は落ちる。それまで見ていた風景は色を失い、さざめいていた人垣もやがて散っていく。

しかし日の名残りに人は思いを馳せ、落ちていく日を見ながら明日を、再び日が昇る日を待ち望む。

また原作を読み返してみようかと思った。