モリッシーのニューアルバム
World Peace Is None Of Your Business
が世界的にリリースされた今週…
アルバムを手に入れた初期衝撃がやっと落ち着いて(笑)
1曲1曲を味わい、アルバム全体について考える余裕が出てきました。
海外のレビューなんかもいろいろ読んだりして。
日本での全体的な売り上げのことはまだよくわかりませんが、
英国ではハリポタのロンみたいなエド・シーランに次いで
僅差?で2位だったようで。
その他各国での、発売日初日のチャート・ポジションを見ると
Number 1: Argentina, Chile, Peru.
Number 2: Brazil, Denmark, Greece.
Number 5: Israel, Spain, Sweden.
Number 6: Hungary, Italy, Turkey, Norway.
Number 8: Luxembourg, Portugal, Poland.
Number 10: Belgium.
Number 11: Ireland.
…上位ポジションをとっているのは見事に英語圏ではない!
そして世界中いろいろ。すばらしいことだと思います。
レコード出さない間も地道に世界ツアーをやってきて
(キャンセル多いけど)
自分のまわりや祖国だけでなく世界規模のいちゃもんを
言い続けてきた活動が作った基盤があるからだと思います。
特に、アルゼンチン、チリ、ペルー、ブラジル…といった
つい先日のワールドカップを彷彿とさせる南米諸国での人気。
これは、南米でのモリッシー人気を考えると十分想像できることですが
あまりソロになってからのモリッシーを知らない友人からは
「なんでモリッシーが南米で人気なの??」と聞かれます。
知らない人からすれば「モリッシーってスミスでくねくねしてた
くら~いイングランドのヘタレ音楽の代表みたいな人でしょ!?
なんで明るい太陽のマテ茶飲んでるマッチョっぽい南米人が
なんで好きなの?」ってことなんでしょうなあ。
ライブでも、このニューアルバムでも、
「最近のモリッシーは、出がらしのテスコのティーじゃないんだよ、
すっかり濃い目の太陽のマテ茶なんだよ!!」
…というとますます混乱させるので、順番に説明していきたいと思います。
南米諸国だけでなく、南米にルーツを持つアメリカ在住のラティーノ
ファンが多いことは「モリッシー 25Live」のライナーにも書きましたが
(特にLA…ヒスパニック系人口が多いから)
その辺の詳しいいきさつは
passions just like mine(2010年)
というドキュメンタリーに詳しいです。
ドキュメンタリーでは、LAのモリッシーガチファンがどんなに
モリッシーを崇拝しているかを見せており、もうモリッシーに興味の
ない人にとってはただの拷問なのですが、ここで示唆されているのは
南米…メキシコ伝統的音楽の歌詞とモリッシーの書く歌詞のベース
に流れる、「生きる哀しみ」という共通点。
南米でのライブで、こぶしを聞かせて祈るように一緒に歌い
手拍子をして腰をくねらせているファンを見ると、寒い島国で生まれの
「イギリスからきた男」が体の中から絞り出しきっている熱いものに
深く同調・共鳴している様子が伝わってきます。
またアメリカにおいては、ヒスパニック系は故郷を離れた「移民」であること、
2世3世であっても、ここではないどこかの「魂の故郷」に思いをはせる
「マイノリティー」である…。
そんな出自を抱える人間にとって、マンチェスターの貧困の嵐の中を
生き抜いてきたアイルランド移民というマイノリティーである、
ていうかそもそも「人類のマイノリティー」であることを(誰も頼んでないのに…)
引き受けて宿命として生き、歌い続けているているおじさんこそ代弁者。
「聖人」とまであがめ、言葉をすべて「福音」ととらえ
体中にその顔を名前を歌詞を彫っている…。
(「やりすぎ」「好きになりすぎ」と人のことだと思うw)
ドキュメンタリーの中ではモリッシーの
「ラティーノはとても感情的で感情を表に出す人たち。音楽を
やっている人は多いが、自分自身をすべてさらけ出している
音楽をやっている人は少ない」
という見解が出ていました。
「自分自身をすべてさらけ出している」
これこそ、モリッシーの真骨頂。感情むき出しラティーノファン
でなくても、奥ゆかしい日本の大和なでッシーなファンたちにも
一番訴えかけてくる価値であると思います。
それは今回のアルバムでもまったく変わりないですが、
今回が「ラティーノさん感謝祭」なのか、ラテンミュージックっぽさが
全面に出ています。
フラメンコの仰々しさ、
ジプシーのアコーディオン、
マーチングバンドのトランペット。
メキシコ人のギタリスト、ジェシー・トバイアス大活躍!
前作までのイケイケグラム色、ロック色に
抒情的で哀調おびたメロディアスな「南米色」が
加味されまくっています。
南米マーケットをねらった「媚び」かと思えなくもないですが
モリッシーがそんな「狭い」ねらいをするとは思えず…
そもそも、ニューアルバムで歌われている現実、
「最も孤独な惑星」地球に生きる人間へのメッセージは
全世界に向けている「いちゃもん」です。
「World Peace」を免罪符にしている地球の上の人たちに
対するモリッシー流「反グローバリズム」の提示をひしひし
と感じます。
たまたま「自分自身をさらけ出す」フォーマットとして
昨今馴染みの深い「ラテンぽさ」を使っているのでしょう、
とても威勢が良く、気持ちいいです。
モリッシーの中身がどくどくあふれてくるのを
ばんざーいばんざーい!闘牛士が死んじまった~♪
とか、一緒に歌いながら感じられます。