なんでかは忘れてしまった。
大体2週間くらい前からではないかと思う。
こんちゃんの散歩道。
コースは決まっていない。
ボケ防止のためにあちこち回ることにしている。
たまにいるけど、今はソト犬ってあんまりいない。
だからこんちゃんはオレコ以外のわんことは、
接触がほとんどない。なかった。のだけど。
その子はもともと、小さかったオレコと仲良しだった。
同年代か、ちょっとおねえさんだったと思う。
黒柴で、近所の子。女の子だけど外犬だった。
3歳を過ぎたオレコが生意気盛りを迎え、
何度か吠えたことがあったけど、彼女はやさしい子で、
オレコにはずっとよくしてくれていた。
オレコの体力が旺盛になり、
気難しさもピークに達し、
散歩についてはかなりわがままになってきた。
家の近所だと決められたところしか行かない。
彼女のおうちはオレコのコースからは外れた。
そういう状態で時が流れ、
こんちゃんは好奇心旺盛で、素直にどこでもついてくるので、
久しぶりに黒柴ちゃんのおうちの前を通ることにした。
もう少し若いころ、オレコを連れて挨拶をしにいってたころは、
気配を察すると、奥の犬小屋から飛んできてくれたものだが、
おじいわんのかそけき気配では、なかなか気付いてもらえないようで、
何度か通って、こんちゃんが黒柴ちゃんの存在に気付いたのは、
だいぶあとのことだった。
黒柴ちゃんも中年にさしかかっていて、
犬が通ったくらいじゃ体も起こさないが、
久しぶりに挨拶をすると、物憂げに顔をあげてくれ、
この子うちの子だからよろしくね、と、こんちゃんを紹介した。
ふーん、というふうに見て、またすぐに横たわる。
その短い間に、こんちゃんはどうも、
黒柴ちゃんに恋をしたようだった。
はじめて、しっぽを振ったのだ。
犬に対しても、人に対しても、
それは初めてのことだった。