それまではあっちこっち散歩のコースを自由に決めていた。
こんちゃんが恋に落ちてからは、別。
さんぽは毎回、黒柴の彼女の家の前を通ることになった。
これについては後日くわしく書くけれど、
こんちゃんが大嫌いな雨の日も、
「黒柴ちゃんに会いに行こうよ」
といって散歩をうながすと歩き出す。
そのくらい、黒柴ちゃんが好きなんだそうだ。
家の前につくと、
黒柴ちゃんのいそうなところを必死で探す。
雨が降っていたり、日差しがあると、奥の小屋にいることが多い。
彼女の姿が見えないと、こんちゃんは、あれ?あれ?と、必死で探す。
こんちゃんの目の届くところにいるときは、うれしくてうれしくて、
もぞもぞしてしまう。
はじめのころ、彼女は興味がなかったようだった。
来てもしらんぷりをしたり、うるさそうにしていた。
こんちゃんをみて、下がってしまうこともあった。
オレコと一緒に行くと、オレコと遊びたがったし、
あー、この恋は実らないなあ、と誰もが思っていた。
けさこんちゃんは
おおあめずぶぬれ
あのこんさがして
おとなりのいえも
おむかいのいえも
みつからないので
かなしくてくうん
おてがみかいたら
といわれてすぐに
むかいにしたため
いぬもおなじだね
ひとどおなじだね
ねこもおなじだね
かわいいにゃおんが
なぐさめてくれたのじゃ
きょうはいちども
あえんかったのう
さびしいのう
おはよう
おはよう
あれ?
あの
おはようなのじゃ
かのじょはおきあがり
こんちゃんのかおみて
あんただけか~
とまたねたよ
こんちゃんがっくし
おれこいなくて
かのじょがっくし (おれことかのじょ幼なじみ)
みつめあうふたり
柵のむこうのねこ会議
参加したかったのか
ほえたりくんくんないたり
ねこの気を引いているところに
こんちゃん通りかかる
「わしか~~わしの出番か~~」
舞い上がった老犬に
「おまえじゃない」
いい放つ黒い彼女
そういうみつめあい
いきもかえりもあのこがいない!
と嘆いています
ぶれているわけではありません
衝撃を表現した芸術写真です
そしたらである。
ある夜それは突然に、なぜかわからないけど、起こった。
こんちゃんが鼻を寄せると、黒柴ちゃんが、しっぽをふって立ち上がり、
近くまできて、お鼻チュ~をしてくれたのである。
その場にはオレコもいたが、オレコと間違った様子はなかった。
オレコを連れていた、お父さんに、吠えた。
ふだん犬にほえられることのない人なのだが。
こんちゃんは、夢見心地だったろう。
家まで小走りに帰り、横顔はえへえへと笑っていた。
そしてその晩は寝言が多かった。
それからより親密になっているかというと、
実はそうでもなくて、彼女の機嫌がいいときと、
そうでないときでは、こんちゃんへの態度は全然違う。
でも、一度目に家の前を通ったときにいなくて、
帰り道、二度目に通った時には、なんだか待っているような、
そんな様子でこちらを見ていて、近づいていくと立ち上がり、
ゆっくりまわって、挨拶をしているようでもある。
こんちゃんもそれを見てうれしそうにしている。
ついこないだまで、
「ごめんね、今度オレコ連れてくるね」
といったことに対してしっぽを振ってくれていたのだが、
今ではこんちゃんが表れて、近づくと、そうなる。
うちにきたときは老犬で、余命いくばくもないかと思って、
そんな子がまさか半年後に恋に落ちるなんて思いもしなかった。
恋をすると免疫が活性化するとかいうけど、益々若くなるつもりなんだろうな。
めでたいめでたい。
あんまり写真を撮ったり、動画をとったりして、
おうちの人に不審がられ、それがためにふたりが会えなくなったり、
こんちゃんの恋が悲しい結末になってはいやなので、
これからは写真はとらないつもり。
だけどふたりの恋のおはなしは時々しようと思う。