それは大雨の降ったあとの夜のこと。
いつものようにご機嫌で夜さんぽにでかけた、
こんちゃんとわたし。
ここのところ毎日、黒い彼女に会うために、
同じようなコースが続いていたが、
大雨で足元の悪いし、こんちゃんのボケ防止のために、
最近行かないコースにしてみようか、と思いつき、
ちょっと歩いて、すぐUNCが出たので、
さあ、と、ふだんとは反対の道を歩き出した。
橋を渡って、信号を待つ。
横断歩道を渡って、久しぶりに公園へ。
あれ?
なんだかかわいい音が小刻みに聞こえてくる。
ぷっぷっぷっぷっぷ
あれ、この音はなんだっけ?
ぷっぷっぷっぷっぷ
ああ、こんちゃんのおならだ。
おかしくなって、「大きいのしたのにまだ出るの~?」と、
顔を見ると、なんだか不安そうな顔。
ちょっと震えてるし。
おなか痛いのかなあ、と心配になって屈んだときに、
それは雷が落ちてきたみたいな感覚で、気が付いた。
こんちゃん、捨てられると思ってる。
そうだ。
よく見れば、ここは、あの公園に似てる。
ワゴンがすーっと止まり、中から犬を抱いた人が下りてきて、
しばらくして人だけが戻り、車がさーっと、どっかへ消えたという、
こんちゃんが捨てられたという、あの場所に、とても似てるんだ。
季節は違うけど、こんちゃんは多分、思い出したんだ。
家から外にでたときは、スキップするほど元気で、ご機嫌だったのに、
今は、ぶるぶる震えてる。小刻みに、おならしながら。
おなか痛くなるほど、不安になったんだ。
「違う違う違う。お母さんはこんちゃん絶対捨てたりしない。生きてる限り一緒だから。
お母さん絶対死なない。こんちゃんが生きてるうちは絶対ぜったい死ななないから」
雨あがりの公園の脇で、老犬をぎゅーっと抱いて、気が付いたら、
「101回目のプロポーズ」のタケダテツヤさんみたいなことを口走っていた。
(このドラマ、一度も見たことはないんだけど、あのシーンだけは知っている)
こんちゃんの体をさすりさすり、頭をなでなでし、
体を離して、目を見ると、じんわり涙が浮かんでた。
もう体は震えてなかった。
よっこいしょ、と、歩き出し、あっちこっち好きなだけによいをかがせてあげた。
不安が消えたからなのか、久しぶりのコースだからか、とても楽しそうにしていて、
私のほうを、ふりかえり、ふりかえりして、ご機嫌で歩く、こんちゃんだった。
もちろん、おならは一度も出なかった。
オレコは「いや!」というのを全面に出すからわかりやすいけど、
こんちゃんのように表現が控えめだと、わからないことが多い。
元気そうだったのに急におなかの具合が悪くなったり、吐いたりするときや、
車酔いする子なんかも、もしかしたら、いやな思い出があるのかもなあ。
ミグノンさんで引き出された子たちも、センターから移動するとき、
車の中で、プーしたり、シーしたり、ゲーしたり、と、大変そうだ。
「わたしどうなるのかな?」
という不安のピークの中で、車に乗ったりするんだから、当然ともいえる。
なんでもそうだけど、犬だって、人間と同じなんじゃないだろうか。
車酔いする子は、車に乗ると楽しいことがあるよ、という経験を積むしかない。
飼い主さんが粘り強く、教えていくしかないだろうなあ。
わたしはこんちゃんをもっとよく見守って、安心してもらえるように、しようと思う。