『キケン』有川浩(新潮文庫)
ここのところの日本の「政治」区域には、まあ本当にウンザリなんで、いっそ今回は「文学」方面に逃避することにします。せっかくのゴールデン・ウィーク、楽しい気分で過ごしたいですしね。
ということで、有川浩さんの小説『キケン』です。
〈ごく一般的な工科大学である成南電気工科大学のサークル「機械制御研究部」、略称【キケン】。部長・上野、副部長・大神の二人に率いられたこの集団は、日々繰り広げられる、人間の所行とは思えない事件、犯罪スレスレの実験や破壊的行為から、キケン=危険として周囲から忌み畏れられていた。これは、理系男子たちの爆発的熱量と共に駆け抜けた、その黄金時代を描く青春物語である〉
*新潮社:有川浩『キケン』
→http://www.shinchosha.co.jp/book/127632/
・・・という内容でして、実際、単純に楽しめて、かつ、ちょっぴり懐かしかったり切なかったりする小説です。ワタクシが読んだのは、もう4、5年前になりますが、どういうわけか、ここにきて唐突に思い出したものでして、せっかくなんで、ちょっぴりご紹介しようかな、と。
はいっ、以下『キケン』第2話「副部長・大神宏明の悲劇」から、セリフのみの抜粋・引用です。賢明なるサイレント・マジョリティの皆さんには、これだけでも充分に物語の展開は伝わると思います(すなわちネタバレ注意でお願いします)。
「大神さん、うちに遊びに来ませんか?」
「来週の週末、両親が趣味の登山ツアーに出かけるんです、一泊で。だから・・・」
「大神さんが嫌じゃなかったら、泊まってくれてもいいし・・・」
「大神さん、お風呂に先に入りますか? 後になると面倒くさくなっちゃうでしょ」
「私もお風呂入ってきます、テレビとか適当に観てて」
「えっ・・・? あ、」
「や、だめっ・・・」
「あっ、いやっ!」
「・・・も、嫌ぁ・・・」
「やだ、もう。全然やめてくれないし。どうしてこんなことするのぉ」
「両親がいないからうちに泊まりに来て、って語尾ハートマーク付きで呼ばれていざ押し倒したら『いやっ! そんな恐い大神さんキライ!』って突き飛ばされたあげく振られたそうだ!」
「それはひどい! それは女の子のほうがひどいわ、とんでもないカマトトだわ!」
「いっくらお嬢さま学校でも、大学の二回生ならもう成人でしょ? 親がいないとき狙って彼氏引っ張り込んどいてそれはないわ! 大神さん、その子と長続きしなくてよかったわよ。天然の悪女よ、そいつ。なーにが『恐い』よ、本当のお嬢さまなら親がいない隙に男を泊まりで引っ張り込むなんてそもそもしないっての」
えー、「どうしてこんなことするのぉ」までは、お嬢さま女子大の学生・七瀬唯子、コトの顛末をまとめたのは「キケン」の部長・上野直也、そして憤慨しているのが「キケン」部員だった元山高彦の思い出話を聞いている妻・・・です。
いえいえ、単純に「面白そうでしょ。良かったら読んでみてくださいね」という話でございますよ。某事務次官のセクハラ疑惑やら、某タレントの書類送検について何か言いたいとか、まして、その「被害者」さんを批判しようなんて意図は全くありません。その辺、深読みしないでくださいね。
(ひょっとして、そのように読めてしまうという貴方となら、是非お友達になりたいとは思います)
そうそう、念のため申し添えておきますけど、著者の有川浩(ありかわひろ)さん、女性です。映像化された作品も数多く、例えば『空飛ぶ広報室』などがテレビドラマ化されました。相当に「男らしい」という噂ですが、女性です。『キケン』には「あとがき(単行本収録時)」がありまして、そこで有川さん、こんなこと書いてます。
全開状態の【機研】を女子は直に観測することができません。全開の【機研】は各自トモダチやカレシ、旦那さんから話を聞く形でしか窺うことができないのです。
どうやら老いも若きもすべての男子は自分の【機研】を持っています。『キケン』を発表して、私は一体何人の男子に「僕の学生時代もねぇ」と語られたか分かりません。自慢かお前ら!
【機研】を持っているすべての男子に羨望と敬意を表しつつ、女子の身からあなたがたの楽しげな自慢話を物語にしてみました。
男子も女子も楽しんでいただければ幸いです。
男子も女子も(そのどちらと言い切れない人も)楽しく過ごせる世の中であってほしい、いつまでも。と、素朴にそう思います。
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
おまけ。ここでも「作家さんのお口を借りてモノを言う」です。
〈若い時から苦労して社会に出て働いた女性がいる。その人が言うには「働くということはそういう男たちを、なんとかあしらっていくということなんですよ」なのだそうだ。全くその通りである〉
〈すぐセクハラに当たる、と騒ぎ立てること自体が、女性の未熟さを物語る場合もある。不愉快な言動をする男の傍らに、女性は留まる必要はない、だからその場を去ることだ〉
(産経新聞4/26大阪6版)
そして、こちら。「産経抄よ『#YouToo?』」ってところですかね。
前半はともかく、「ある意味で犯罪」「私にとって、セクハラとは縁遠い方々」「(福田氏は)はめられて訴えられたとの意見も世の中にはある」などの発言をご批判なさっているのですが、スミマセン、そのどれもがワタクシも考えたことです。今は何人かが輪番で書いてるという話の「産経抄」も、時々「ヤレヤレな日」があって「若い(かどうか知りませんが)って素敵!」とか思わされてしまいます。
(産経新聞4/27大阪6版)
昔(江戸時代「寛政の改革」の頃)「白河の 清きに魚も 住みかねて もとの濁りの 田沼恋しき」という狂歌があったそうですが、あんまり「品行方正」を求め過ぎるとね、世の中住みにくくなるだけです。というかですね、「#MeToo」に便乗する人とか「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)」振りかざす人とか、皆さんそんなに「清廉潔白」なんでしょうか?
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