「すばらしい新世界」ハックスリー
人工授精後に瓶の中で育成されるベビー達。
妊娠、出産が存在しない為、母や子、夫や妻などの関係も存在しない。
特定の人に執着、依存する事のない、実にドライな人間関係。
子供達は誕生する前から階級が決まっており、
睡眠中に潜在意識に刷り込まれる標語の数々。
“~で良かった”“~でなくて良かった”“~は必要”
“今ではすべての人は幸福である”
幼児期に将来の職業や階級に合わせて条件反射の訓練が行われる。
そして、叶えられる欲望しか抱かない大人になり。
魔法の錠剤ソーマのおかげで悩みや憂鬱も吹っ飛ぶ生活。
徹底した管理のもと、何の疑問も抱かない幸せな人々しか存在しない世界。
劣等感を抱き、幸福なはずの世界に疑問を持つバーナード。
優秀過ぎて、この世界に物足りなさを感じるヘルムホルツ。
時々、居心地の悪さを感じても、疑問を抱くまでは至らないレーニナ。
ニュー・メキシコの蛮人保存地区からロンドンへ連れられてきた野蛮人ジョン。
気が弱く卑小な言動が痛々しいバーナード。
せっかく疑問を持っても、ここぞという時の小心さが悲しい。
この卑屈さ、読んでて辛い。。。
前半は生活や仕事ぶりなど文明が詳細に描写される。
しょっぱなの瓶入りベイビー部分はちょい読みづらい。
なんか読むのめんどくさい。
中盤は蛮人の生活やら行事やら、ジョンの辛かった過去など。
後半で、ジョンが文明に対し反旗を翻す!
と言っても、たったひとりで。
総統と野蛮人ジョンの対話が一種の幸福論になっとります。
ま、実際には幸福問答。のようなもの。
ジョンが原始的な生活をしようとするが、
誰からも理解されず。
おぉ、刷り込み教育の恐ろしさよ。
美、真理、自由の意味、存在を知らないという悲劇。
でも、幸せ。。。
知らないから幸せ…と言われると困りますな。
美、真理、自由って説明するの難しいもんなぁ。
運輸機関を利用し、工業製品を消費するように訓練される。
この刷り込みで経済が潤うっちゅう按配。
踊らされてる~。
ホントは要らない物、買わされてるぅ。。。
ジョンの思考や行動も、かなり首をかしげたくなりますが。
究極対究極…ってことなんでしょうな。
総統の話しぶり、細部に渡る説明っぷりがスゴい。
こりゃ反論すんの大変だでよ。
いじめか?
人間が生産される世界。
自我も個性も無く、もはや責務を負う物体と化した未来。。。
困った時に服用するソーマ。
なんだ錠剤かよ。
簡単な解決法過ぎるだろ~。
と思うと同時に、“幸福だ”と刷り込まれても、
どうにも出来ない気持ちになる事があるってのに驚き。
幸福と満足はまた違うもので、置き換えられない?
思い込まされても、感情はまた深いところに有るって?
妙な偏りとクセはあるものの、興味深い一冊。
傑作とまではいかんけど、中パ~ンチな出来。
すばらしい新世界─これほどまでに生きる意味のない世界って、ちょっと無いな。