木のぼり男爵の生涯と意見

いい加減な映画鑑賞術と行き当たりばったりな読書によって導かれる雑多な世界。

『兄弟!尻が重い』

2013-03-28 21:26:05 | 日記


「兄弟!尻が重い」山上龍彦

あまりにも、いいタイトルなので買わずにいられませんな。
7編収録の短編集。
雰囲気的には、中島らもに近いか?

深刻さに差は有れど、様々な悪夢をコミカルに描く短編の数々。

‘兄弟!尻が重い’
一旦、腰をすえて呑みだすとハンパなく居座る男の恐怖。
なんで恐怖なの?と思うかもしらんが。
「奴は最低一週間は動かないんだ」
って、どんだけ長っ尻じゃー。
ニコニコとご機嫌で飲む男に、帰れ!の一言が言えない…
家中の食料を食い尽くされ、それでも接待するしかない状況。
口が上手く、底なしに厚かましい男。
長っ尻列伝とか尻長人名録とかに(有ったとしたら)名を連ねるであろう人物。
迎える側の憔悴と、その後の過剰なトラウマが可笑しい。


他人ごとじゃない気がする一編‘隣人の華’。
近所に引っ越してきた、清く正しい一家の主にめんどくさいなぁと感じる。
言う事なす事、全てごもっともなれど、息苦しさを感じなんか白けてしまう…

 間違いはない。ボタンのかけ違えをさせたまま手足を縛り拘束しておくと
 発狂してしまうタイプ。

隣人観察の結果、上記の結論に至る。
彼に対する焦燥、いらいらがつのる。
あげくに妻からは
 「あなたの心組みが子供の頃からあまり進歩していないことには今さら驚かないけど、
 ご近所との仲たがいだけはやめてちょうだいね」
と言われる始末。

 「ただ慇懃無礼という言葉を、いやあれはそういうのでもないな、
 何と言えばいいのか、清廉潔白陰険無礼とでも言うか、輝いているのに無感覚、
 受け入れているかのようで黙殺、とにかく他人を拒絶する行為をやけに健康的で
 文部省推薦の顔でやるのがいかん。本人がそれを最良唯一のものと信じている
 らしいのが絶対にいかん。あの男は自分の慈愛に満ちた挙措の中に驚くべき悪意
 が秘められていることに気づくべきだ」

分かる、分かる。
居る居る、こういうタイプの人。
う~ん、なかなかの名編。

他には、ギックリ腰の眼も当てられない一日を描いた‘ロケットマン’
小津映画のような‘秋刀魚日和’
電車模型が蘇らせる恐怖に慄く‘モ 300’
最悪最低亭主の始末の仕方に右往左往する‘突きの法善寺横丁’
料理オンチの男のあがきを描く‘夢の宴’