東京のど真ん中、日比谷公園の中にある日比谷図書文化館コンベンションホールにて被災地支援コンサートが行われました。このコンサートは日本朗読文化協会会員の皆さんの朗読と一緒に行われました。以前から知り合いだった臼田敦子さんら4人の朗読家の皆さんが、被災者の皆さんの手記や、ノーベル賞作家パール・バックの「つなみ」を朗読してくれました。その後、黒坂と矢口で約1時間のコンサート。観客の皆さんは、朗読で被災地の具体的な状況を受け止めた後だったので、音楽が客席に染みこんで行く感じがしました。また、ホールがとても落ち着いた雰囲気だったのでしっとりと丁寧に演奏することができました。
それにしてもこのコンサートでは驚くべき事が起きました。楽屋がひとつしかなかったので、真ん中をパーテーションで仕切って、朗読の皆さんと、私たちでそれぞれに使わせていただきました。矢口はリハーサルが早めに終わったので、翌日(23日)のレコーディングに備えて、そのための練習を始めました。23日に彼女がコカリナ大合奏と一緒にレコーディングする事になっていたのは「Avide With Me(アバイド・ウイズ・ミー)」というイギリスの古い曲です。これは賛美歌としても使われている美しい曲ですが、日本では全くCD化もされておらず、ほとんど知られておりません。「Avide 」の意味は「とどまる、住む」。ですから「私と一緒にとどまりましょう」という意味の曲です。先日ある御方が「コカリナにとてもあっていると思うのでやってみたらいかがですか?」と楽譜を送って下さったので試奏してみたところ、本当にコカリナの響きにピッタリでしたので、急遽、今回のアルバムに大合奏曲+女声ボーカルスキャットとして入れる事にしました。 周美が楽屋で練習を始めたときです。パーテーションの向こうからいきなり「それアバイド・ウイズ・ミーですよね」と女性の声が飛んできました。パーテーションの向こうからですから、誰が話しているのか分かりません。でも僕は、日本ではほとんど知られていないこの曲を知っていた人がいたことに驚き「よくご存じですね」と応えました。するとその後です。パーテーションの向こうから信じられない言葉が返ってきたのです。「その曲を創ったのは我が家の祖先なのです」 と。 一瞬夢でも見ているのか、それとも、その方が何かの冗談を言っているんだろう、とさえ思いました。僕は半分笑いながら、「いやいやこれはイギリスの曲ですよ」と言い離しました。するとその方はまたパーテーションの向こうから平然と落ち着いた声で応えます。「我が家の祖先はイギリスです」。僕はパーテーションに手を掛けました。「ちょっと開けていいですか?」と 。「どうぞ」という声を聞かないウチに僕はパーテーションのキャスターを蹴っ飛ばすように開けてしまいました。そこにいたのは僕たちをこのコンサートに招いてくださった臼田敦子さんでした。そう言えば臼田敦子さんはご主人がイギリス人とのクウオーターでご自身も「ガントレット・敦子」とも名乗っていたのです。それからコンサートの準備そっちのけで、「Avide With Me(アバイド・ウイズ・ミー)」に、まつわる話を聞かせていただきました。それにしても不思議なことがあるモノです。日本で初めてのCD録音がなされるその前日に、その作曲者の一族に出会えるとは。作曲者「ウィリアム・ヘンリー・モンク」さんの仕業かもしれません。 おかげで収録はとても順調に行き、いいモノができつつあります。7月24日にキングレコードより発売になります。ご期待下さい。