~窓をあけよう☆~

~部屋に風をいれよう~

黄金のアフガニスタン展

2016-05-17 12:40:36 | 一期一絵


東京国立博物館の表慶館にて5月10日に鑑賞しました。


上の写真をアップにしました。
展覧会入口上方に掲げられた言葉「自らの文化が生き続ける限り、その国は生きながらえる」。再建されたアフガニスタン国立博物館の建物の入り口上方で実際に記されている言葉だそうです。

展覧会の副題も ~守り抜かれたシルクロードの秘宝~その輝きに隠された「命がけの物語」 と書かれてあります。

アフガニスタンは古代からユーラシア大陸の東西文化が出会い交流しあうシルクロードの中継地点、この国を通して東洋文化が西洋に波及し、西洋文化もユーラシア大陸の東の果てまで届き、さらには海を越えて日本にも波及する。
そして20世紀に入っても冷戦時代に軍事的にとても重要な地点の国となってしまった。それがアフガニスタンに厳しい運命を作ってしまう。始まりは1979年アフガニスタンが政情不安になり、ソ連軍が侵攻。国民は抵抗し、戦争は長引き泥沼化してしまう。

1989年ソ連軍がアフガニスタンから撤退して内戦状態となり、間もなくタリバンが政権を奪い取る。
タリバンが自国の大切な文化遺産を次々と破壊していったのはニュースで知り心が痛かったです。バーミヤンの大仏は爆破され姿を失ってしまう。

タリバン政権が樹立される直前の1989年にごく少数の博物館員で話し合い特に大切な古代の展示品を秘密裡に安全な場所の金庫に隠し、家族にも話さなかったそうです。その後博物館は爆破され破壊される。
さらに隠された展示品を奪い取るために隠した博物館職員「カギの番人」は厳しく尋問されたそうです。が、拷問されても知らせず殺されてしまった方もいたそうです。

タリバン政権が倒れたのち2004年4月にこの隠された収蔵品は金庫から姿を現したそうです。その金庫の鍵を持っていた人は、その時を一番心待ちにしていたでしょうに、殺されたり行方不明になってその場にいなくて、バーナーなどを使ってこじ開けたそうです。

自分達の国の文化を命がけで守り抜いた人々の思いが入口上方に掲げられた言葉に込められていて、その厳しいいきさつを知ると心に響きます。

15年ぶりに姿を現した秘宝は2006年のフランスのギメ東洋美術館での展覧会から始まって世界の博物館美術館に巡回されています。日本は11か国目だそうです。そしてこれからも世界を巡回するそうです。
そのことについて現アフガニスタン国立博物館の館長が、世界にアフガニスタンの古代文化の素晴らしさを知らせる為に、そして宝物の安全の為にでもあると話されてたインタビューを読みました。今アフガニスタンに戻してもまた秘密裡に隠すことになってしまうかもしれない。それよりも世界の手厚く保護してくれる国を周ったほうが安全であるという。博物館が再建されてもまだ安住の地はないのだと思うとアフガニスタンの国の情勢の厳しさを感じます。

展覧会は4つの遺跡の遺品を紹介してました。さらに盗まれた美術品のなかで日本に流れて保護された作品の展示がありました。
大きな作品ではありませんが246点もの展示品はみな素晴らしくて、命を懸けて守られたことを思うと、今私たちが鑑賞できることが奇跡のように思えました。

第1章 テペ・フロール(先史時代 前2100~前2000年)
メソポタミア文明とインダス文明を繋ぐ謎の遺跡

金の加工品が3点展示されていました。本当はもっといろいろ工芸品もあったのでしょう。金だけは朽ち果てることなく4000年の時を経て私たちに当時の文明を知らせてくれる。昔から人々が金を珍重した気持ちがわかる気がします。


幾何学文脚付杯  前2100年~前2000年頃
コップの部分に模様のある金の器。足の部分はなくなってます。
きっと祭事につかわれたのでしょうね。


第2章 アイ・ハヌム(グレコ・バクトリア王国時代 前3世紀~前2世紀)
アレクサンドロス大王の東征によって生まれたギリシャ都市

古代ギリシャ人てすごいなと思うのは遠征して作り上げたバクトリアの街を、自分たちの国の街とそっくりにしてしまう事。円形舞台や神殿も立てられ、大理石彫刻は顔も服装もギリシャ。だけどどこかに地元の文化が入り込んでいる。東洋と西洋の文化の融合はこんなところから始まったのだと感じました。


コリント式柱頭 前3-前2世紀
優美なギリシャ彫刻の柱頭。地方の都市でも柱一本一本にこんなに手の込んだ飾りを施すギリシャ人のこだわりの強さ。 


ヘラクレス立像 前150年頃
小さな像ですが、ヘラクレスらしく逞しい筋肉質。後ろを見るとお尻がプリッと立体的でやっぱり筋肉質。体のバランスの良い像でした。


胸像付碗把手 前145年
取っ手に女性像と葡萄の葉の飾りがついてます。なのでこの女性は酒の神ディオニュソスの信奉者マイナスではないかと言われてるそうです。でも、頭に角があるのは本来のマイナスにはあり得ない事なんだそうです。
印象に残った工芸品でした。


キュベーレ女神円盤 前3世紀
真中にギリシャの太陽神ヘリオス。勝利の女神ニケがライオンが引くペルシャ風の車の手綱を持ち、同乗するキュベーレは現地で信仰された大地の女神。そして左右の端には西アジア人というカオスな文化が著された円盤。
ところでギリシャの太陽神と言ったらアポロンじゃなかったっけ(?_?)と思って調べたら、アポロンはもともとは光明の神で紀元前4世紀ごろにヘリオスと同一視されるようになったのだとか。ギリシャの神々もカオスのようですね。


ギリシャ語刻銘付石碑台座 前3世紀はじめ
大理石の側面にギリシャ文字が刻まれてます。その中でも向かって右端にデルフォイの神託の文章が刻まれてます。
「幼きものは行儀よき者となり
 青年とならば自制知る者となり
 壮年とならば正義を知る者となり
 老年となれば良き助言者となれ
 されば汝、悔いなき死を得ん」

他にも日時計やこれからの制作の材料にする為に金製品を溶かして塊にしたものなどもありました。その塊にはテペ・フロールの金製品もあったのかも、と思いました。


第3章 ティリヤ・テぺ(サカ・パルティア時代 前1世紀~1世紀)
遊牧民の王族が眠る黄金の丘

アフガニスタンの北部の丘から手つかずの6基の墓が1978年に発見されたそうです。男性1人、女性5人が黄金や貴石で加工した見事なアクセサリーや愛用品をともなって埋葬されていたそうで「バクトリアの黄金」と呼ばれるそうです。
展覧会の中でも一番華やかで展示品が多かったです。
そのアクセサリーがとても美しく精巧で見ていてとても楽しかったです。
遊牧している人々は1か所に物を保管しないで旅の生活をするから、財産を身に着けて生活する、と前に聞いたことがあります。王族もそうだったのでしょうか。埋葬された6人は足元から頭まで金のアクセサリーを身に着け、服にも金の飾りを縫い付けてました。この世から旅立つ時の財産という意味も持つのかも、と思いました。
かなり多いので一部だけ載せます・・・それでも多くなってしまったけど・・・


牡羊像 1世紀
男性の飾りです。ムフロンという種類の羊だそうで5cmくらいの小さくてとても精巧な金製品です。この牡羊像がこの展覧会のマスコットキャラクターになってます。
ムフロンくん♪
最近は展覧会にゆるキャラが登場するようになってるんですよね。その中でもこのムフロンくんはチャーミングで親しみやすい♪。


メダイヨン付腰帯 1世紀
男性の腰につけてたベルト。立体的に作り上げた金の彫像がアクセントについている。


靴飾 1世紀第2四半期
その男性の靴にはこんな豪華な飾りが。金にトルコ石がはめ込まれてます。車の屋根を支えてるのは竹の幹なのが東洋的

男性のアクセサリーは他に瑪瑙で作ったカメオを真ん中に施した金のネックレスがありました。

首飾り 1世紀第2四半期
カメオは戦士のプロフィール像が白地に赤く浮き上がって彫刻されてました。が、縦長の楕円形のカメオなのに横倒しになってネックレスに繋がれていました。それがちょっと不思議でした。


ティベリウス帝金貨 14-37年
金貨の表と裏。とても小さいです。
その片面で、法輪を回すブッダの像が刻まれてます。世界最古のブッダの像だそうです。

女性の副葬品も豪華です


イルカに乗るエロス文留金具 1世紀第2四半期
向かい合っているエロスの向きが違うのです。だから弾むような動きを感じます。すごくお洒落。デザインも技巧もすばらしい。


首飾り 1世紀第2四半期
クルミを繋げたような形のネックレスが他にもデザインを少しずつ変えてありました。
 

ドラゴン人物文ペンダント 1世紀
1対になって耳の飾りになってました。女王や王女のかんばせを更に華やかに美しく演出したでしょう。


冠 1世紀
分解して持ち運びしやすい構造になってるのだそうです。この冠とほぼ同じデザインが日本の藤之木古墳からも出土(こちらは金銅製)されたそうです。


アフロディーテ飾板 1世紀
ブッダもいて、アフロディーテもいて、バクトリアは本当に東西文化の交流の地だったのですね


腕輪 1世紀第2四半期
シンプルだけどとても洒落ていて、これは欲しいなあと思ったブレスレット・・・いえいえ似たようなデザインがあったら買いたいなという事です(汗)


襟飾 1世紀
10代の女の子の副葬品。金とトルコ石とガーネットを使ってます。他の人物より副葬品が少なかったけど、襟にこんなに華やかな飾りを身に着けてました。
まだ少女のようなお姫様だったのでしょうか、それとも王様にお輿入れしたばかりのお妃だったのでしょうか。お気に入りのアクセサリーだったのかも。豪華な作りに早すぎる死を悼む人の気持ちがこもっているように思えました。



第4章 ベグラム(クシャーン朝時代 1~3世紀)
シルクロードの秘宝が集まったクシャーン朝の夏の都

クシャーン朝の夏の都市に入口をレンガで塞いだ2つの部屋から現れた作品だそうです。


エロスとプシュケ―のロゼット 1世紀
ギリシャ神話のかわいい恋物語。エロスは鳥の羽、プシュケは蝶の羽をつけて表されますが、この石膏のロゼットではプシュケは蝶になっていて、小さな子供のエロスが愛おし気に抱きしめている。
他にも石膏のハンサムな青年像が2点展示されてましたが、私はこの作品がいいなあとおもいました。

美しいガラス製品。

脚付彩絵杯 1世紀

魚型フラスコ 1世紀
ギリシャ・ローマの文化を感じるガラス器。彩色は今も鮮やかで洒落ている。


脚付杯 1世紀

双耳壺 1世紀
シリアやパレスティナといった東地中海地方の工房で作ったそうです。他にもミルフィオーリ技巧のお皿など、1世紀にはもうこんな高度なガラス工芸の技術があったのに驚きます。


魚装飾付円形盤 1世紀
銅板に魚が泳いでいる浮彫がされ、更にひれがユラユラ揺れる仕掛けになってます。
隣にレプリカが展示されて私たちも揺らすことが出来ます。海と接してない国のかわいい海体験。 


マカラの上に立つ女性像 1世紀
マカラはインドの神話に出てくる怪魚だそうです。象牙でできているそうです。


第5章 アフガニスタン流出文化財
日本で保護され、母国に帰る「文化財難民」

博物館から略奪された作品のうち、日本に流出した作品は「文化財難民」として保護され、アフガニスタンが平和を取り戻したら返還される事になってるそうです。


カーシャパ兄弟の仏礼拝(部分) 2~3世紀


ゼウス神像左足断片 前3世紀

他にもくりぬかれた壁画の仏像もありました。

やはり東西の神様と文化が共存していてアフガニスタン美術は不思議な魅力を放ってます。
今回の展覧会の展示が終了したらアフガニスタンに返還されるそうです。今度は落ち着けるといいのですが・・・


芸大美術館で「バーミヤン天上壁画~流出文化財と共に~展」が同時開催されていて、芸大で再現したバーミヤンの天上壁画の展示と、「文化財難民」の他の作品が入場無料で鑑賞できます。
私もこの展覧会の後、芸大美術館に向かいましたが、「本日閉館」でした。ちゃんと行く前に調べれば良かった(^^;)です。

追記 「素心 バーミヤン天上壁画~流出文化財と共に~展」を後程無事鑑賞しました(*^_^*)


2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
私はエジプト♪ (blueash)
2016-05-21 14:10:27
遵命さん
足指のギリシャ型とエジプト型をググって調べました。なるほど~
上の写真を見るとゼウスの足は本当にエジプト型ですね。でも、ゼウスはギリシャ神話からきたし、そこが不思議で面白い~やっぱりアフガニスタンはいろいろ文化が混ざっちゃってるカオスな所のようで。
今度エジプト展に行ったら私も足元の変化を見てみたいです。うっかり顔見るの忘れたりして
返信する
足元を見る (遵命)
2016-05-20 23:22:58
ふむふむ。ゼウス神の足の指の形はてっきりギリシャ型だと思っていたが
エジプト型だったのネ 今度エジプトのファラオの彫刻の足の指の
形をみてみようっと プトレマイオス王朝から皆ギリシャ型だったりして
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。