去年からとても楽しみにしていた展覧会。前売り券も入手していました。が、今年になってこんなウィルス禍に席巻されるとは・・・
この展覧会も開催が遅れ、会期終了間近に迫った頃、会期延長が発表され、人数制限をするため事前予約制になりました。
7月末に一度予約しましたが、コロナへの恐ろしさから結局行かず、もう今年は展覧会に行くのは無理かと思いましたが、やはりどうしても鑑賞したくて8月末に再び時間予約しました。もう今年はこれ一回きりにしますのでどうか大丈夫でありますように、と祈りながら出発。電車の中が混んでいたり、会場が思った以上に人がいて、接近して鑑賞したりドキドキしました。
怖がりすぎかもしれませんが、私自身だけでなく私が原因で周りの人に感染させることが恐ろしかったのです。
一か月以上たって、私自身も周りの人も体調に変化がなかったのでどうやら大丈夫だったようです。
そして、覚悟しながら鑑賞した作品は本当に本当に素晴らしい作品ばかりでした。見て良かった。幸せな時間でした。
ロンドン・ナショナル・ギャラリーは1824年に設立された美術館で、王室コレクションを母体とせず、市民が市民のためにコレクションを持ち寄る形で形成されたことに特徴があるそうです。そのため特別な企画展示をのぞいて入館は無料。ただし、維持管理費用の一部を寄付でまかなうため、寄付を募る箱が入り口ほか数カ所に設けられているそうです。
そのコレクションは初期ルネッサンス美術から20世紀初期までの西洋美術作品約2300点。世界的な美術館としては決して多い方ではありませんが、各時代の選りすぐりの作品ばかりなのだそうです。凄いですね、イギリス市民階級の有力者の文化度の高さを感じます。
これまでロンドン・ナショナル・ギャラリーのコレクションは国外に貸し出されたことはなかったそうで、今回日本での展示が海外初のコレクション展示になるそうです。
東京での開催の後、大阪で開催され、そのあとオーストラリアに行き開催されるそうです。ずいぶん長旅をするんですね。
今回コレクション展示は61点、もちろん全て日本初展示の作品です。
まず初期ルネッサンスの作品から始まります。
パオロ・ウッチェロ 《聖ゲオルギウスと竜》 1470年頃 油彩
最初に展示されていたのはこの作品です。いきなりウッチェロの作品を見ることが出来るなんて、と驚きました。線遠近法に熱中したことで有名な画家なのですが、人物がまるで静止して固まっているように見える不思議な作品です。竜に囚われているはずのお姫様(腕に鎖がついて龍につながっている)なのに、むしろペットの竜にけしかけて聖ゲオルギウスと戦わせているように見えてしまいます。
カルロ・クリヴェッリ 《聖エミディウスを伴う受胎告知》 1486年 卵テンペラ・油彩
この展覧会を代表する二作品のうちの一つです。隅々までとても緻密に描かれていて、街の聖人が天使ガブリエルを案内してマリア様に正に受胎告知をしています。マリア様は天から光る啓示を受け止めています。見事な建物は線遠近法が完全ではないのがむしろ魅力になっていて、手前の野菜がだまし絵のように描かれている遊び心もあります。
盛期ルネッサンスではポッティチェリの作品も展示されてましたが、この画家の作品を載せます。
ドメニコ・ギルランダイオ 《聖母子》 1480-90年頃 テンペラ
ミケランジェロのお師匠さんでもある画家。以前ウフィツィ美術館展の記事にもこの画家の見事な聖人像の作品を載せたことがあります。
そしてこの画家の描く女性は可憐で素敵なんです。この作品の聖母子も優しいかわいらしいお顔立ちです。
そしてヴェネツィア・ルネッサンスの作品へ
ヤコポ・ティントレット(本名ヤコポ・ロブスティ) 《天の川の起源》 1575年頃 油彩
これはよくギリシャ神話を解説した本に口絵として載っています。
神の王ユピテルが赤ちゃんのヘラクレスに妻で神の女王ユノのお乳を無理やり飲ませようとしてます。そのドラマチックな動きと浮遊感のある表現は見事で、色彩も豊かで美しいです。
飛び散った母乳は上に上がったお乳はミルキーウェイ(天の川)に下に落ちたお乳は白百合になったそうです。
オランダ絵画に入ります
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 《34歳の自画像》 1640年 油彩
レンブラントが人生で最も勢いがあった頃の自画像。若く才能に満ち賞賛されて、表情に自信が溢れています。
ヨハネス・フェルメール 《ヴァージナルの前に座る若い女性》 1670-72年頃 油彩
フェルメール晩年の作品。いつもは左の窓から日が差し込んでますが、この作品は夜で薄暗い室内です。後ろに掛かっている娼婦と仲買いをする老婦と客の絵画、手前のチェロ。いろいろと意味深な作品です。絵の中の女性はヴァージナルを弾いている途中で誰か(見る私達)が来たのでふっとこちらに目を向けています。
ウィレム・クラースゾーン・ヘ―ダ 《ロブスターのある静物》 1650-59年 油彩
オランダ絵画で重要な位置を占めていた静物画。布やガラスの質感が素晴らしい。
オランダでは市民階級が絵画を購入し、画家も肖像画や風俗画、静物画や風景画など専門に特化したそうです。
ウィレム・ファン・デ・フェルデ(子) 《多くの小型船に囲まれて礼砲を放つオランダの帆船》 1661年 油彩
そしてオランダは海運業で大いに発展した国ですね!江戸時代の日本とも交易した唯一のヨーロッパ国でもありました。
イギリス肖像画の世界へ・・
アンソニー・ヴァン・ダイク 《レディ・エリザベス・シンベビーとアンドーヴァー子爵夫人ドロシー》 1635年頃 油彩
ベルギーの画家ヴァン・ダイクはイギリス王チャールズ一世の招聘で宮廷画家としてイギリスで活躍します。何しろ正確なデッサン力とセンスのある画風を持つ才能高い画家ですから、宗教画も描きましたが、素晴らしい肖像画を描き、イギリス宮廷ではヴァン・ダイク に描いてもらう肖像画は憧れの存在となります。
この姉妹の肖像画も天使が描かれて現実とギリシャ神話が合わさったロマンチックな演出がされてます。デッサンの達人なので美しい姉妹のお顔立ちもきっとそのままで、そして更に優美になっているはず。画面の色合いの美しさ、衣装の質感。描かれた姉妹はさぞや嬉しかったでしょうね。画面手前の黄色い衣装の妹さんが天使から薔薇の花を受け取ってます。それは妹さんが婚約した意味を持つそうです。
以降、ヴァン・ダイクの肖像画がイギリス肖像絵画の模範となります。
トマス・ゲインズバラ 《シドンズ夫人》 1785年 油彩
肖像画家として有名なゲインズバラのこの作品は前から知っていて、なんて素敵な肖像画なのだろうと思っていました。目の前で鑑賞できてとても感激しました。イギリスの舞台女優さんだそうです。さすが大変な美人さんです。そしてヴァン・ダイクの影響を感じるロマンチックな画風です。背景の赤色に黒い帽子が色白のかんばせを引き立たせ、襟やリボンの青、衣装の白地に青いストライブが清涼感をもち気品のある肖像画になってます。
トマス・ローレンス 《55歳頃のジョン・ジュリアス・アンガースタイン》 1790年頃 油彩
誠実な人柄が伺える肖像画。描いたローレンスは、パトロンでもあり生涯の友人でもあるアンガースタイン氏へ尊敬を込めて描いてます。アンガースタイン氏は絵画を蒐集し亡くなった後、コレクションは国家に買い上げられ、ロンドン・ナショナル・ギャラリーの創設時のコレクションの母体となったそうです。
ジョゼフ・ライト・オブ・ダービー 《トマス・コルトマン夫妻》 1770-72年頃 油彩
肖像画は次第に親密な人同士が自分の土地や屋敷を背景に佇んで親しく会話している様子を描く「カンバーセイション・ピース」が好まれるようになったそうです。
スペイン絵画へ
ベラスケス、エル・グレコ、スルバラン、ゴヤなど素晴らしい画家の作品がありました。私はこの2作品を載せます。
バルトロメ・エステバン・ムリーリョ 《窓枠に身を乗り出した農民の少年》 1675-80年頃 油彩
イギリスではムリーリョが描く子供の絵がとても人気があったそうです。それは宗派の違いにより宗教絵画がなかなか受け入れられなかった背景もあったようです。でもムリーリョの描く子供の魅力がなにより愛されたに違いありません。
このあどけない笑顔の男の子の絵は実は対になったちょっと年上の女の子の絵があるそうです。それを知って見ると、この男の子の笑顔がちょっとおませに見えます。
ムリーリョの子供の絵を見ると、ご自身が殆どの子供をペストで亡くした悲劇も思い出してしまいます。
フアン・バウティスタ・マルティネス・デル・マーソ 《喪服姿のスペイン王妃マリアナ》 1666年
この作品の女性を見てはっとしました。この方はベラスケスが描いた「ラスメニーナス」のマルガリ―タ王女のお母さまじゃないですか。
最初はフェリペ4世の息子で従弟のバルタサール・カルロス王子の許嫁でしたが王子が早世して、跡継ぎを失った伯父のフェリペ4世と結婚します。もともと親子ほど年の差があった結婚でしたもんね・・・。代々続いた近親婚のせいでお子さんは病弱で、次の代でスペイン・ハプスブルグ家は途絶えます。
哀しむ姿に胸が痛みます。
再びイギリス絵画へ
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》 1829年 油彩
イギリスの貴族の子女がイタリアへ「グランドツアー」に行き、記念に購入したカナレットのベネツイアの克明な風景画、ロマンチックな仮想の風景画を描いたクロード・ロランなどを経て、19世紀のターナーの風景画は自然の持つ力強さと美しさを劇的に描く「ピクチャレスク」へと発展させてゆきます。
この作品は神話画でもあるそうです。輝く朝日にはうっすらと馬車を牽くアポロンが描かれ、山の後ろに巨人が潜んでいます
どんどん筆のタッチが激しくなり、印象派の作品に近くなります。
フランス絵画へ
アンリ・ファンタン=ラトゥール《ばらの籠》 1890年 油彩
最初ロンドン・ナショナル・ギャラリーでは印象派の作品をあまり蒐集しなかったそうで、オーソドックスな作品を好んでいたそうです。この作品も時代はすでに印象派が活躍していますが、とても堅実に花を描いてます。その誠実な描き方はやはりとても美しくて魅力を放ってます。
そして印象派へ
クロード・モネ《睡蓮の池》 1899年 油彩
モネはイギリスでも風景画を描いてます。その筆のタッチはターナーの作品の影響を受けているのが感じられました。
匂いたつ緑と池に浮かぶ睡蓮、そして弧を描いて渡る太鼓橋の美しさ。この庭園を維持するのは大変な労力とコストが要りますが、それでもこんな素敵な庭園を持つ生活にあこがれを感じます。この絵の中に人の世の幸せを感じます。
更にポスト印象派へ
フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》 1888年 油彩
最後に展示されていたのはこの展覧会を代表する二つの作品のもう一つ、ゴッホの「ひまわり」です。ゴッホはひまわりを7つ描いたそうですが、この作品が一番素晴らしいそうです。日本のSOMPO美術館でコレクションされている「ひまわり」はこの作品を画家自身が模写した作品だそうです。ほとんど黄色の同系色で成り立っていて、緑の茎や額、青色のラインが効果的に色のアクセントになってます。
ゴッホは生前作品を評価されず苦しんでいたのに、今は各時代の巨匠の作品を抑えて、ゴッホが憧れた日本で、この展覧会を代表する一番人気の高い作品となってることを、ご本人に知らせたいです。
最後にロンドン・ナショナル・ギャラリーの各代の館長の紹介がされてました。その中で第二次大戦中の館長がケネス・クラーク氏であるのを知りました。大戦中も意欲的な企画展を開催したそうです。
ケネス・クラーク氏と言えば約30年前にテレビで見た「文明と芸術」シリーズ番組(製作とナビゲーションをされてます)が忘れられません。たまたま家族が録画した第9回の番組を見て感動して、最終回の12回まで見ましたが、途中からしか見てないのが今も残念でなりません。
書籍化されていたので図書館から借りて読みました。冒頭のセーヌ川を曳航するバイキング船をどう映像化したのだろう。
再びテレビで放映されることを願ってやみません
無事に美術鑑賞できてとても嬉しかったです。帰りに日本橋の和紙の老舗によって和紙でできた小引き出しを買って帰りました。最近テレビで知ったのですが。昔フレディ・マーキュリーもこのお店で和紙をたくさん買ったそうです。
そして、魅力的な展覧会が今もいっぱい開催されてますが、行きに誓った通り、今年はもう美術展鑑賞は終わりにします。
記念に記事にできて嬉しいです。
東京の国立西洋美術館での開催は10月18日まで。
大阪では国立国際美術館にて11月3日〜2021年1月31日に開催されます。
☆約1分で全作品を見ることが出来ます
ロンドン・ナショナル・ギャラリー展 全61点作品紹介 ムービー
☆こちらは会場の様子が見れて、詳しい解説があります。約30分なのでお時間があるときに
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