~窓をあけよう☆~

~部屋に風をいれよう~

ゴッホ展  響き合う魂 ヘレーネとフィンセント

2021-12-15 13:17:28 | 一期一絵

9月18日から開催された「ゴッホ展 響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」は12月12日をもって閉会となりました。私は閉会間近の12月3日に鑑賞しました。

オランダのクレラー=ミュラー美術館のゴッホの作品を中心としたコレクションが展示されてました。蒐集したのは実業家夫人ヘレーネ・クレラー=ミュラー(1869-1939)さんで、美術家のアドバイスを受けながら1907年から近代絵画の収集を始めたそうで、特にゴッホの作品を愛したそうです。ヘレーネさんは厳格な方だったそうですが、選んだ作品は色の美しい親しみやすい作品が多かったです。

今回は作品の絵葉書を何枚か買ったので、その絵葉書の写真とネットの画像を載せて感想を書きたいと思います。

 

 

会場ではまずゴッホ以外の画家でヘレーネさんがコレクションした作品が展示されてました。

 

オディロン・ルドン《キュクロプス》1914年頃

ゴッホが絵を描いて生きた時代から後の作品。でも、ルドンはゴッホより13歳年上で、この作品はルドン晩年の作品です。

無防備な姿で眠っている妖精ガラティアを後ろの山からそっと見つめる一つ目巨人キュクロプス族の一人ポリュペーモス。キュクロプス族は本来恐ろしい存在なのだそうだけど、この絵の彼は優しい目をしています。恋をしてうっとりと見つめているようにも見えるし、親が眠りについた子供をそっと見守っているようにも見えます。どちらにしても、柔らかい色合いも相まって温かい愛情を感じます。

その一つ目の姿は実は全くの想像の存在ではないようです。昔授業で習ったことがあるのですが、人は胎児の頃、最初は目は一つで鼻は目の上にあるそうです。それが鼻が段々と顔の下に降りてきて、それで目が二つに分かれてゆくのだと。そしてごくまれに鼻が降りなくて眼が一つのままになってしまう事があるそうです。この作品を見ると確かに目と口のあいだに鼻がありません。ルドンは全て承知して描かれていたのかも・・・。現実と幻想と神話と色彩が織りなす謎めいた作品です。この作品を実際に鑑賞できて本当に嬉しいです。

 

 

アンリ・ファンタン=ラトゥール《静物(プリムローズ、洋梨、ザクロ》1866年

フランスでは印象派絵画が始まった頃、ファンタン=ラトゥールはオーソドックスな作品を描いてます。その作品が美しく静謐で安心感がありホッとします。この人の人物画も静物画も花瓶に生けた花の絵もオーソドックスだけど、これまでの絵画とも雰囲気が違うのが不思議です。

 

 

ジョルジュ・スーラ《ポール=アン=ベッサンの日曜日》1888年

点描画は他にも数点展示があり、どれも美しい作品でした。中でもやはりスーラの作品は点描の密度も濃くて画面の中に静寂なもう一つの世界が存在しているように見えて際立っていました。画面の端にやはり点描で枠みたいに濃い色で縁取ってます。

スーラの友人で同じく点描で描いたポール・シニャックの作品もありました。彼は好人物でゴッホが打ち解けて話せる数少ない友人の一人だったそうです。

ゴッホはこの点描画から影響を受けていて、次第に独自の線描へと変化しています。

 

そしてゴッホの作品が展示されます

先ずはオランダ時代。デッサン作品が並んでいました。

フィンセント・ファン・ゴッホ《砂山の向こうのジャガイモ畑》1883年

ゴッホは1880年に画家になる決心をしたそうで、しばらくデッサンを熱心に描き鍛錬をしたそうですが、そのデッサンが見事でした。この風景デッサンも田園地帯の近景から遠景へ開けた景色や空気感を感じられ、そこに農作業する人物が絶妙な位置に描かれて絵に奥行きを感じさせ、生活感や物語も感じます。他に人物や木のデッサンもあって、力強くしっかりと黒くチョークで描かれ存在感があり素晴らしかったです。

 

《白い帽子をかぶった女の顔》1884~18885年

デッサンで腕を磨いたゴッホはいよいよ油彩画にとりくみます。が、まだ色彩に開眼してなくてデッサンの延長のようなモノクロームに近い色合いです。

農家の人物や家族のだんらんを主に描いている時期で、その様子は質素で貧しさも感じられ、顔立ちも生活感や苦労がしのばれる人物を好んで描いたそうです。でも、その顔立ちに、きっと美しさを見出していたのだと感じました。大地に根差して生きている人々に尊敬と、彼らに寄り添って生きていたいというゴッホの希望を感じました。

 

ゴッホはパリに行き、色彩に目覚めます。

《レストランの内部》1887年

これは壁や床に点描画の影響が見えます。この点描は段々と短い線へと変化していきます。

 

《種まく人》1888年

アルルに居を構えた時代の作品。ミレーの作品「種まく人」の人物像をゴッホの描く風景に入れてます。種まく人はキリスト教の教義に書かれている言葉だそうで、信仰心篤いゴッホらしい題材。そしてアルルで芸術家のコミュニティを作る希望にあふれた時期の作品で、そう思うからか、種まく人の姿は意気揚々としてるように見えます。黄色い太陽が空の隅々まで輝きわたり、遠景や畑の緑は青色に描かれて太陽と強い対比をつけてます。この作品は20世紀になってイギリスの画家フランシス・ベーコンが模写しアレンジしています。

 

《サント=マリー=ド=ラ=メールの眺め》1888年

ゴッホが早描きなのがよくわかる作品。手前の畑はまず茶色い下地を塗って乾かし、そのうえで手早く色を塗っています。そしてとても巧みな作品。

手前の雑草は青い線で草の流れを手早く描いてます。畑の花(ラベンダーかな?)と葉はそれとなくわかる程度に単純化してぼやかして、奥の建物群に焦点が行くように遠近法で中心へと収束してゆきます。畑と建物群で画面を半分に分けているけれど、分かれ目が水平ではなく少し斜めになっていて分断されたように見えない。建物は詳しく表され描き方が畑部分と変わりますが、その間に歩く人物を入れて、建物の影に畑のラベンダー色を使って、手前の畑と繋がっている。計算された画面と素早くて的確な筆の動きで風景に動きと生命を吹き込んでいて、すごいなあ、と思いました。

 

 

《サン=レミ療養院の庭》1889年

ゴッホの凄みを感じる作品。

輪郭は濃い青でかっちり線を引いてます。その線がデッサンで鍛えているので力強く的確で、また浮世絵版画の影響も感じます。燃えるような緑と白い花と木漏れ日の様子に迫力と生命感を感じ、古い建物が静かに木の勢いを受けとめて画面を落ち着かせて支えている。一方空の様子は不穏さを感じます。この作品を描いた時期は自殺未遂をして療養所に入った心が辛い時期だったことに驚きます。本来なら筆を持つのも辛いと思います。ゴッホは絵を描くことで苦しみを克服しようとしたのかな。凄い精神力。そして素晴らしい作品。

 

《悲しむ老人(永遠の都にて)》1890年

悲しむ老人の姿の作品で、その時のゴッホの気持ちも察してしまうのです。が、この作品はヘレーネさんが結婚25周年に夫のアントン氏からプレゼントされとても喜んだ幸せな思い出の作品になるそうです。作品は作者の元を離れたら、その時の見る人によって感じ方が違っていくのは当然ですが、何とも皮肉なエピソードだなと思いました。でも、ヘレーネさんは幸せな人生を歩んでいたのだと知ることが出来て良かったです。

 

《夜のプロヴァンスの田舎道》1890年

ゴッホが亡くなる年に描かれた作品。あの確かな輪郭線が不安定に揺らぎ、道も糸杉もうねうねして、道は坂なのか曲がってるのかよくわからず、馬車と歩く人の距離感もあいまいになってます。夜というより太陽が沈んだ直後の暮れかかった数分間なのかな?景色を見渡せる明るさは残っていて、遠景にぐにゃっとした家とやはりうねっている糸杉が見えます。月と明るい星が大きく光っている暮れかかった空も短い線描で小さな生命体がうごめいているようです。目の前の景色を描くというよりも心情風景を描いたようにも見えます。

その短い線描が、まるで筆で画面に刻み込むように塗られていて、生きた証のようにも感じられました。

 

 

日本でゴッホは人気があり、作品展は毎年のようにどこかで開催されてます。

私はまだゴッホをあまり知らなかった頃は、気性の激しい気難しい画家で情熱で描き切ってしまう人、そしてあまり人を寄せ付けない人だと思いこんでいました。

けれど、十数年前に友人に誘われて、作品とともにゴッホの人となりや生涯の軌跡を主題とした展覧会を鑑賞したら、そうではなくて、人恋しい思いでいっぱいな人だったんだとわかってきました。愚直なくらい真面目で、人の為になりたくて、一生懸命なのだけど、頑張る程に常軌を逸してしまい人が離れてしまう。真摯に形を追い貧しい暮らしの人々に寄り添った初期の作品も、花開いたように美しい色彩に満ちた中期以降の作品も、繊細というか過度な位の感受性を感じられて、そして一縷の希望を灯して描いてるように感じられて、好きな画家になりました。きっとヘレーネさんもゴッホの絵にご自身の心の琴線に触れる何かを感じたのでしょう。

今回は、ルドンの《キュクロプス》に是非お会いしたくてそれが第一に行きましたが、ゴッホの作品も素晴らしく見ごたえがありました。

 

ゴッホ展は今度は福岡市美術館で12月23日~2022年2月13日にて開催されます♪

 

今年は展覧会は2回行きました。これからまた感染症がどう変化してゆくか想像できませんが、来年はもう少し多く見に行きたいなと思ってます(^_-)-☆

 


2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
行きたかったな~ (ごみつ)
2021-12-30 20:05:33
こんばんは。

「ゴッホ展」行きたかったのですが、バタバタしているうちに終わってしまいました。

himaryさんの解説で、展覧会に足を運んだ気分を味わえました。ゴッホはスーラから大きな影響をうけていたんですね。

次回、また展覧会があったら絶対に足を運びたいです。

今年は私もあんまり展覧会は行けなかったな~。出版社さんからチケットを「いただいた時だけ、(勿体ないので 笑)行ったくらいかな。

来年はもっともっと落ち着いた都市になると良いですよね。
返信する
ちょこっと訂正 (himary)
2021-12-31 08:35:52
ごみつさんこんにちは
年末はいろいろと忙しくなるし、感染症の危険もあるので、展覧会に限らずあまり見に行けませんよね。私も去年からあまり行ってません
でも、一昨年などは展覧会に行ってもレポを書かないで終らせることが多かったのですが、去年今年はさすがに行くことが貴重で、思いを込めてレポを書けたのは良かったなと思います。
ゴッホは日本でも人気の高い画家なので必ずまたゴッホ展が開催されますし、ごみつさんの感想を読んでみたいです(^_^)v
ところで、私の書き方がいまいちでゴッホがスーラのこの作品から影響を受けたと思わせたようですみません💦正しくは点描技法から影響を受けたです。他にも影響を受けた技法や画家がいたそうですが、あの時代は美術の百花繚乱の時代ですからね、お互いに影響を及ぼし合っていたのでしょうね。
感染症はまた年を越してしまいましたが、ワクチンや処方薬の開発が進んでいるし、来年こそはと終息を願っています。まだしばらくはマスクとディスタンスは気をつけなくてはいけないけれど、落ち着いたら一緒にお出かけしてランチしたりおしゃべりするのを楽しみにしてます♪
きっと大丈夫(*^^*)
そして今年もいろいろとありがとうございます。来年もよろしくお願いします
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。