副題は「17世紀オランダ黄金時代の巨匠」
3月25日、森アーツギャラリーにて観賞しました。
何せ高層ビルの52階にあるギャラリー、3階から金属探知機のゲートを通って直通のエレベーターに乗って上がりましたがそのエレベーターがゆらゆら揺れて怖かったです(^^;)
52階に到着してもまだ足元が揺れていて・・・気のせいだったのかもしれないけど・・・怖くて、大きな窓から見える景色を見ないようにして会場に入りました。入ってしばらくはやはり落ち着かなくて、なんでこんな高い所で展覧会やるんだ、こんな高い所で貴重な美術品にもしもの事があったらどうするんだ٩( ''ω'' )وなんて思いながら作品を見始めたら、すっかり絵の世界に入り込み、怖さを忘れました。
17世紀プロテスタント国オランダは小さな国ながらカソリック国スペインから80年戦争によって独立して貿易を広め、オランダ東インド会社を設立してアジア方面の交易から富を集め、経済発展の目覚ましい強国となったそうです。そういえば17世紀日本は江戸時代、鎖国制度の中で唯一交易したのはやはりオランダでしたね。当時ヨーロッパでは日本製の製品はオランダからしか入手できないと思うと、絵の中に描かれた日本製のモノたちが何とも感慨深いです。そういえば昨年「ルーブル美術館展」で展示されていたフェルメール作「天文学者」も、画中の人物は日本風の綿入り着物をガウンのように羽織ってましたっけ。
プロテスタント国は偶像崇拝をしないので風景画、静物画、肖像画、風俗画など親しみやすい作品が好まれ、またそれぞれのテーマごとに専門に描く画家が現れたそうです。経済発展で富裕商人の台頭、国民の生活レベルも上がり、ごく一般的な家庭にも絵画作品が飾られていたそうで、作品の大きさも部屋に飾れるような大きさの作品が主流となったそうです。
その作品世界は、広く交易をおこなった国らしく世界の名品や珍品など贅沢品もよく描かれていますが、華美にならず質実剛健な味わいがあります。何というか、多少背伸びした世界を愛しているのは確かですが、背伸びしすぎない。例え架空の世界を描いてても現実感をしっかり持っている。作品の内容も素晴らしいです。肖像画などは王侯貴族の肖像画に全く遜色ない高みを持っています。華麗な王侯貴族ではなく現実的な市民の文化を感じました。
会場はテーマごとに作品がまとめられて展示されてました。
最初のテーマは風景画。現実の風景をアレンジした作品、架空の作られた風景、イタリアの風景をアレンジした作品など見ていて楽しめました。
その中で、これは風景画としては本流ではないと思いますが、心惹かれた作品を載せます
アールト・ファン・デル・ネール《月明かりに照らされる村》1645ー60年
作者のファン・デル・ネールは夜景や雪景色ばかりを描いた画家だそうで、困窮の内に生涯を閉じた画家なのだそうです。でも、この夜の風景には人々の暮らしや息遣いを感じました。まだネオンのない時代、満月があたりを明るく照らしています。よく見ると男性二人が家の前で立ち話をしてます。右手をあげている人は大ぶりなジェスチャーで夢中になって喋っているのか、それとも月を指さしているのか。家の玄関に続くアーチにはどうも蔓薔薇がからまってるようです。そんな園芸を楽しむ余裕が市民にはもうあったのでしょう。見ているといろいろと想像できて楽しいです。
次のテーマは教会内部。実際の教会を写生したものからいろんな教会の要素を集めた架空の教会を描いた作品もありました。そのどれもが現実感があって、暮らしの中に教会が溶け込んでいるのが伺えました。
ピーテル・サーンレダム《マリア教会の翼廊》1637年
こちらは本物の教会を描いてます。殆ど装飾のない簡素な内部は、宗教改革の時に貴重な宗教作品を取り払ったためです。多くの歴史的な宗教品もこの時破壊されたそうです。でも信仰は残っている。祭壇は作者が付け足して描いたそうです。
今度は船がテーマ。海洋貿易で栄えた国ですからね!貿易船だけでなく海路を守るための戦争に使う軍船も造られたそうです。
ウィレム・ファン・デ・フェルデ(2世)《ロイヤル・プリンス号の拿捕》1670年頃
海路を巡ってイングランドとは何度も海戦が勃発したそうです。この作品には敗北したイングランドのロイヤル・プリンス号(手前に見える大きな船。てっぺんに白くて長い旗が翻っている)を拿捕した様子を描いていて、この後船は焼却したそうです。もったいない( ;∀;)。船の帆にはたくさんの穴が空いていて、船の側面にはいっぱい大砲が突き出ています。船員は大砲の脇で寝泊まりしたのかなあ。
更にテーマ静物画へ。17世紀オランダ絵画といえばこの静物画が有名ですね。
ウィレム・カルフ《貝類と杯のある静物》1675年
貿易で手に入れた海外の珍品を描いた作品。大きな巻貝、そして貝を杯にして脚部にネプチューンの彫像を付けた豪華なカップ。枝サンゴ。個人的に注目したのはちょっと目立たないけど向かって左奥にある漆の入れ物、金の蒔絵がほどこされてる日本のものです。
フローリス・ファン・スホーテン《果物の或る静物》1628年
これぞ静物画と言える作品。これもフィクションが入っている。初夏のサクランボと秋の梨や葡萄が一緒に描かれてます。
そして肖像画のテーマへ
正装した富裕層の肖像画が並んでました。画家もヴァン・ダイクの弟子とかレンブラントの弟子など有名な作家のつながりの画家に描かせることがまた絵に箔をつけたそうです。ツンととりすました余所行きの固い表情で威厳を保ってましたが、一番気に入ったのは親しみやすいこの作品です。
フランス・ハルス《ひだ襟を付けた男の肖像》1625年
この男の人も豪華な襟を付けて正装をているのですが、ハルスが描くと、ただ表面の顔の形や目や口や鼻を描いたのではなく、ちゃんと体の中に血を巡らし体温を持っている人間として描いていました。こちらをみて何か話しかけてきそうな雰囲気を感じます。
風俗画のテーマへ
ピーテル・デ・ホーホ《女性と召使いのいる中庭》1660-61年頃
オランダの家の裏庭ってこんな感じなんですね。作業しやすいようにレンガを敷き詰めている。木が葉を落としてるので季節は冬、ポンプでくみ上げる井戸水は冷たそうです。
女主人は召使いになんて言ってるのかな。ちょっと厳しそうです。そして開いた戸口の向こうから男の人がこちらにやってきています。男の人の周りは 中庭のようで植木が植わってます。当時の富裕層の暮らしが垣間見れる作品。
サミュエル・ファン・ホーホストラーデン《貧血症の女》1670年頃
女の人が憂鬱そうに描かれていると、基本的に恋患いか、妊娠を示すそうです。医者は尿検査をしてるそうなので妊娠?このころから尿検査ってあったのかな(?_?)
それより注目すべきは後ろで心配そうにしている旦那さん。日本の着物を着てるんです。新次郎はんみたい
ヨハネス・フェルメール《水差しを持つ女》1662年
この展覧会のメインとなる作品。そんなに大きな作品ではなく、無駄を省いたすっきりした作風は引き算の美を愛する日本人の気持ちに馴染みます。やわらかい光が満ちて、アクセントのようにあちこちに入ってるラピスラズリを使ったフェルメールブルーが心地よいです。そして女の人が開こうとしてる(?)ステンドグラスのはまった窓の固い肌触りが感じれるのも楽しい。後ろの地図は始めはもっと大きく描かれてたそうですが、小さくして完成させたそうです。画面が引き締まり人物の存在感がグッと高まったのだろうなあ。
ルドルフ・デ・ヨング《ヴァージナルを弾く女性》1651年
市民階級も識字率がたかく、手紙を書く場面を描いた作品もありましたが、こちらは楽器を弾いています。国が繁栄すると市民の文化度が高くなるということでしょうね。当時のオランダの豊かさを感じました。鍵盤の少ないピアノのようなかわいい楽器も魅力的です。
そしてレンブラントとその弟子をテーマにしたコーナーへ
レンブラントは若い頃は実力派と認められ勢いがありましたが晩年は不遇でした。でも弟子がいっぱいいたそうです。彼の技量を慕って教えを請いにきたのでしょうね。
レンブラント・ファン・レイン《ベローナ》1633年
若く勢いのある時期の作品。古代ローマの戦いの女神を表している。甲冑や盾のメデューサの意匠、兜などの質感が素晴らしい!お顔は当時の愛妻をモデルに描いたそうです。愛ですね♪
だけど、なにか異様な印象を受けます。どう見ても頭部の大きさに比べて体が小さいんです。当時胴体はコルセットで締めていたからかな?いえでも肩は明らかに小さいし手とか胸とかも・・・。まるで頭と胴体が別々に見えてしまう。どうしてそう描いたのだろう。
ヘラルト・ダウ《窓際でランプを持つ少女(好奇心の寓意)》1660年頃
レンブラントの最初の弟子だそうです。ランプの火で浮かび上がった少女の表情がとてもチャーミング♪
カレル・ファブリティウス《帽子と胴よろいを付けた男(自画像)》1654年
レンブラントの弟子の中でも一番才能が評価されている画家。穏やかな筆致ながら生き生きとした表情を見せて魅力的な自画像。他に肖像画もありましたがこれも良かったです。でもこの自画像を描いた直後、10月12日に火薬庫の爆発事故に巻き込まれ32歳の若さで夭折します。それで残っている作品もとても少ない。とても惜しいです。
そして最後に17世紀オランダ絵画の終焉が説明されてました。だんだんと質実剛健な画風が貴族風に変化しているように見えました。また、国の勢力も、他国の台頭で力を失っていったそうです。
でも絵画作品は黄金時代の文化の素晴らしさを示してくれてます。静物画などはこのオランダ絵画が規範となってますもんね。
オランダと言えばチューリップ。森ビルの花壇に沢山のパンジーに囲まれて鮮やかなチューリップが咲き誇ってました。
展覧会は京都、東京、福島の順に巡回されます。京都は2015年10月24日~2015年2016年1月5日でした
東京は1月14日から3月31日
福島は4月6日~5月8日福島県立美術館にて開催されます
私は、「跳ね橋」「好奇心」「ヴァージナルを弾く女」が良かったです。
今、フェルメールの地球儀が、DNPこと大日本印刷で見ることができますよ。ホームページからWEB予約できます。無料です。
そうなんです、展望台のチケットと同じカウンターで購入するんですよね。その上私は前売り券を持ってきたのにやっぱり展望台と展覧会のチケット売り場への行列に並んでチケットをチケット売り場の人に見せてから金属探知機ゲートに行けるとは、これじゃ前売券を買った意味がないのではないかと思ってしまう・・・。
そして美術館が高い所にある必要性にもいまだ(?_?)なんです。
でも展覧会の作品は見応えがあって良かったです♪
王侯貴族や教会がパトロンにつかない最初の時代だったのではないかな?この後もロココやらロマン派などまたパトロンを必要とする時代にもどってしまいますもんね。17世紀オランダ文化の先進性を感じます。
maribvocalさんが気に入られた3作品もみな生活に根差したいい作品ですね。跳ね橋の飾り気のない木の作り、若い娘たちが手紙を描いたりそれを好奇心つよくのぞき込む姿、そしてブログに摸載せた古楽器ヴァージナルを弾く娘も人々の暮らしの豊かさを感じました。
フェルメールの地球儀の情報をありがとうございます♪検索して見ますね