ポスターの柔らかい色の絵に惹かれて1月18日に見に行きました。
シャヴァンヌは美術館や市庁舎などに壁画を多く残している画家で、その壁画作品の縮小絵画も作り、サロンなどに展示をしてたそうです。展覧会も壁画の縮小絵画が中心となっていました。
この展覧会で強く印象にのこったのは、実は時代背景。会場の壁や映像の説明も力を入れてました。
19世紀のフランスは、印象派の明るくて平和な絵のイメージが強かったのですが、その少し前は、実は政変と戦争と流血の時代だったというのです。
その時代背景がシャバンヌの絵にとってとても大きな意味を持ち、だからこそ国民に愛された画家なんだそうです。
ここに記事を書くときに、自分自身への覚書としても19世紀フランス史を簡単に書いておこうと思います。
まず18世紀の末から
1789年・・・フランス革命が起こり、第一共和制に。王族、貴族だけでなく、革命家同志でも民衆の前で処刑されたですもんね。
1799年・・・そのあとナポレオンがクーデターを起こし、
1804年・・・皇帝(第一帝政)になりましたがロシア遠征で敗北、多くの兵隊が命を落としました。ナポレオンはセントヘレナ島に追放され1821年に亡くなってます(毒殺だそうです)。
1814年・・・ルイ18世による王政復活。
1824年・・・兄ルイ18世の没後、王位についた弟のシャルル10世は革命以前の体制に戻るべく言論規制をして、多額の保証金で逃亡してた貴族を呼び戻す。税金を納めてる国民は怒る。
シャバンヌ(1824~1898年)が生きていた時に起きた事を列記すると
1830年・・・シャルル10世が軍をアルジェに出兵させ国王派以外の選挙権をはく奪する。国民は怒り戦闘の末、追放しルイ・フィリップが王位につく(7月革命)。
産業革命がフランスにも起こる。
1848年・・・2月革命・・ルイ・フィリップも王位を追われ、第二共和制になり、ルイ・ナポレオンが大統領になる。
1850年・・・ルイ・ナポレオンが皇帝になり、ナポレオン三世となる(第二帝政)。
1870年・・・普仏戦争でプロイセン国と戦争。マネとドガも出兵したそうですが大敗。ナポレオン三世が捕虜となり、怒ったフランス国民が追放。第三共和政になる。
1871年・・・パリの労働者が蜂起し自治政府パリコミューンを設立。フランス政府はドイツ軍の支援を受けて制圧。セーヌ川の水が血で赤く染まるほど、多くのパリ市民とコミューン関係者が虐殺され処刑される(血の一週間)。第三共和政は1940年までつづいたそうです。
そんな不穏な時代にドラクロアはダイナミックな動きのあるメッセージ性の強い鮮やかな絵を描いてました。年代が少し後のシャバンヌも最初は鮮やかな色合いの人物像を描いてたようですが、次第に人々の平和への願いを感じて描いていったようです。その時に参考になったのがイタリア初期ルネッサンス時代に、教会の壁に描かれたフレスコ壁画。
ジョット
フラ・アンジェリコ
天使の羽が美しい
(この2作品は参考に載せました)
生乾きの漆喰に絵具を染み込ませるフレスコ画はあまり艶はなく、年数を経て少し色が薄くなり柔らかい印象に、奥行はあまりなく人物のしぐさも抑え気味。
そしてシャバンヌの絵。
イタリアのフレスコ壁画の静謐な美しさをフランスで再現し、数々の政変や戦争で心身ともに疲労した人々に平和な世界や理想郷の様子を知らせ癒しを届けたかったのだと思いました。
ただしフレスコ画ではなく、アトリエで大きなキャンパス地に油絵で描いた絵を壁に貼り付けてます。
だから縮小版絵画を描く余裕もあったのでしょう。
まずは初期の絵から
「アレゴリー」1848年
描かれた男性は血気さかん。若い頃はこんな強い色調だったのですね~
次第に絵は青味を帯びていき、表情も抑え気味に表現
「幻想」1866年
比較的平和な時代に描いた作品。これは壁画ではなく油絵作品。現在は日本の大原美術館が所蔵。
青が印象的、白くほんのりバラ色の肌が美しい。
「伝書鳩」1970~71年頃
普仏戦争時代の絵。
女性は白いハト(フランス)を抱き、右上に見える鷹(プロイセン)から守っている。
「聖ジェヌビエーヴの幼少期」1875年
聖ジュヌビエーヴはパリの守護聖人。5世紀から6世紀に生きた人で、何度もパリの危機を救ってます。”血の一週間”の記憶も生生しいからこそ聖女への思いは深く切実だった気がします。
壁画はフランスの偉人の霊廟であるパンテオンにあります。この縮小絵画は島根県立美術館所蔵。この作品を選んで購入した美術館関係者の慧眼に敬服☆
「諸芸術とミューズたちの集う聖なる森」1884~89年 壁画はリヨン美術館にあります。
この展覧会のポスターにもなった作品。私もこの絵に惹かれて見に行きました。アルカディアという理想郷の世界で芸術をつかさどる女神たちが佇んでます。
澄んだ池があり、空には音楽を奏でながら女神が宙に浮いてます。カソリックの国フランスにとっては異教徒の世界だけど、ほっとするような優しくて平和な絵。
木の描きかたは上記のジョットの絵とよく似てます。
そして空に浮かぶ奏楽する女神が前回見に行った「天上の舞、飛天の美」展を思い出しました。まさに飛天もしくは雲中供養菩薩のようじゃないですか。
理想的な夢の世界としてもアルカディアと浄土は通じていて、そこには音楽が欠かせないのでしょう。そして美しく空を舞う菩薩や神様も。
雲中供養菩薩の彩色を再現した写真をみると白っぽい肌色に青味を帯びた衣装がシャバンヌの絵とにてます。
東洋と西洋の理想郷の姿が似ているのは、陸続きなのでお互いの文化が影響しあってるせいかもしれません。では、アフリカやアメリカやオセアニアのネイティブな方たちの理想郷も似ているのだろうか?
「キリスト教の霊感」1887~88年こちらも壁画はリヨン美術館
敬愛するフラ・アンジェリコが教会でフレスコ壁画を描こうとしてます。
ヨーロッパの美術はキリスト教と深い関係があり、よりよく伝えるために発展していったですもんね。アーチがフラ・アンジェリコの絵に出てくるのとそっくり☆
そして日本の画家によるシャバンヌの模写も展示されました。
小林萬吾 模写「貧しき漁夫」
オリジナルは、”オルセー美術館展2010「ポスト印象派」”で見たことがあります。その展覧会で、違う画家がこの絵を画中画にしているのも見ました。作者の名前を失念してますが(汗)
心になにかひっかり、印象に残る絵です。
キリストの最初の弟子が漁師だったことに因んでる絵なのかな。裸の赤ちゃんが寒そうで気になってしまう・・・。
印象派の絵は70年代以降、フランスが復興しパリが美しくなっていくときに現れたのもわかりました。
去年12月に見たカイユボットの作品は復興して整然としていくパリを描いたのですね。描かれた労働者はあるいは家族にパリコミューンの関係者がいたのかもしれません。
シャバンヌの絵と社会情勢は深くつながっていて、だからこそ国民に愛され、静かであまり自己主張が強くない絵がむしろ素直に人の心に染み込んでくるように思いました。
日本では黒田清輝が直接教えを受けたそうです。その教えが日本の画家にも影響を及ぼしました。
また、展覧会のフライヤーでスーラ、マティス、ピカソにも影響を及ぼしたと書いてあります。
私はやはりフランスの画家で壁画も多く手がけたモーリス・ドニの絵がとてもシャバンヌの要素を受け継いでいるように思いました。
モーリス・ドニ「踊る女たち」1905年
(こちらも参考に載せます)
シャヴァンヌは美術館や市庁舎などに壁画を多く残している画家で、その壁画作品の縮小絵画も作り、サロンなどに展示をしてたそうです。展覧会も壁画の縮小絵画が中心となっていました。
この展覧会で強く印象にのこったのは、実は時代背景。会場の壁や映像の説明も力を入れてました。
19世紀のフランスは、印象派の明るくて平和な絵のイメージが強かったのですが、その少し前は、実は政変と戦争と流血の時代だったというのです。
その時代背景がシャバンヌの絵にとってとても大きな意味を持ち、だからこそ国民に愛された画家なんだそうです。
ここに記事を書くときに、自分自身への覚書としても19世紀フランス史を簡単に書いておこうと思います。
まず18世紀の末から
1789年・・・フランス革命が起こり、第一共和制に。王族、貴族だけでなく、革命家同志でも民衆の前で処刑されたですもんね。
1799年・・・そのあとナポレオンがクーデターを起こし、
1804年・・・皇帝(第一帝政)になりましたがロシア遠征で敗北、多くの兵隊が命を落としました。ナポレオンはセントヘレナ島に追放され1821年に亡くなってます(毒殺だそうです)。
1814年・・・ルイ18世による王政復活。
1824年・・・兄ルイ18世の没後、王位についた弟のシャルル10世は革命以前の体制に戻るべく言論規制をして、多額の保証金で逃亡してた貴族を呼び戻す。税金を納めてる国民は怒る。
シャバンヌ(1824~1898年)が生きていた時に起きた事を列記すると
1830年・・・シャルル10世が軍をアルジェに出兵させ国王派以外の選挙権をはく奪する。国民は怒り戦闘の末、追放しルイ・フィリップが王位につく(7月革命)。
産業革命がフランスにも起こる。
1848年・・・2月革命・・ルイ・フィリップも王位を追われ、第二共和制になり、ルイ・ナポレオンが大統領になる。
1850年・・・ルイ・ナポレオンが皇帝になり、ナポレオン三世となる(第二帝政)。
1870年・・・普仏戦争でプロイセン国と戦争。マネとドガも出兵したそうですが大敗。ナポレオン三世が捕虜となり、怒ったフランス国民が追放。第三共和政になる。
1871年・・・パリの労働者が蜂起し自治政府パリコミューンを設立。フランス政府はドイツ軍の支援を受けて制圧。セーヌ川の水が血で赤く染まるほど、多くのパリ市民とコミューン関係者が虐殺され処刑される(血の一週間)。第三共和政は1940年までつづいたそうです。
そんな不穏な時代にドラクロアはダイナミックな動きのあるメッセージ性の強い鮮やかな絵を描いてました。年代が少し後のシャバンヌも最初は鮮やかな色合いの人物像を描いてたようですが、次第に人々の平和への願いを感じて描いていったようです。その時に参考になったのがイタリア初期ルネッサンス時代に、教会の壁に描かれたフレスコ壁画。
ジョット
フラ・アンジェリコ
天使の羽が美しい
(この2作品は参考に載せました)
生乾きの漆喰に絵具を染み込ませるフレスコ画はあまり艶はなく、年数を経て少し色が薄くなり柔らかい印象に、奥行はあまりなく人物のしぐさも抑え気味。
そしてシャバンヌの絵。
イタリアのフレスコ壁画の静謐な美しさをフランスで再現し、数々の政変や戦争で心身ともに疲労した人々に平和な世界や理想郷の様子を知らせ癒しを届けたかったのだと思いました。
ただしフレスコ画ではなく、アトリエで大きなキャンパス地に油絵で描いた絵を壁に貼り付けてます。
だから縮小版絵画を描く余裕もあったのでしょう。
まずは初期の絵から
「アレゴリー」1848年
描かれた男性は血気さかん。若い頃はこんな強い色調だったのですね~
次第に絵は青味を帯びていき、表情も抑え気味に表現
「幻想」1866年
比較的平和な時代に描いた作品。これは壁画ではなく油絵作品。現在は日本の大原美術館が所蔵。
青が印象的、白くほんのりバラ色の肌が美しい。
「伝書鳩」1970~71年頃
普仏戦争時代の絵。
女性は白いハト(フランス)を抱き、右上に見える鷹(プロイセン)から守っている。
「聖ジェヌビエーヴの幼少期」1875年
聖ジュヌビエーヴはパリの守護聖人。5世紀から6世紀に生きた人で、何度もパリの危機を救ってます。”血の一週間”の記憶も生生しいからこそ聖女への思いは深く切実だった気がします。
壁画はフランスの偉人の霊廟であるパンテオンにあります。この縮小絵画は島根県立美術館所蔵。この作品を選んで購入した美術館関係者の慧眼に敬服☆
「諸芸術とミューズたちの集う聖なる森」1884~89年 壁画はリヨン美術館にあります。
この展覧会のポスターにもなった作品。私もこの絵に惹かれて見に行きました。アルカディアという理想郷の世界で芸術をつかさどる女神たちが佇んでます。
澄んだ池があり、空には音楽を奏でながら女神が宙に浮いてます。カソリックの国フランスにとっては異教徒の世界だけど、ほっとするような優しくて平和な絵。
木の描きかたは上記のジョットの絵とよく似てます。
そして空に浮かぶ奏楽する女神が前回見に行った「天上の舞、飛天の美」展を思い出しました。まさに飛天もしくは雲中供養菩薩のようじゃないですか。
理想的な夢の世界としてもアルカディアと浄土は通じていて、そこには音楽が欠かせないのでしょう。そして美しく空を舞う菩薩や神様も。
雲中供養菩薩の彩色を再現した写真をみると白っぽい肌色に青味を帯びた衣装がシャバンヌの絵とにてます。
東洋と西洋の理想郷の姿が似ているのは、陸続きなのでお互いの文化が影響しあってるせいかもしれません。では、アフリカやアメリカやオセアニアのネイティブな方たちの理想郷も似ているのだろうか?
「キリスト教の霊感」1887~88年こちらも壁画はリヨン美術館
敬愛するフラ・アンジェリコが教会でフレスコ壁画を描こうとしてます。
ヨーロッパの美術はキリスト教と深い関係があり、よりよく伝えるために発展していったですもんね。アーチがフラ・アンジェリコの絵に出てくるのとそっくり☆
そして日本の画家によるシャバンヌの模写も展示されました。
小林萬吾 模写「貧しき漁夫」
オリジナルは、”オルセー美術館展2010「ポスト印象派」”で見たことがあります。その展覧会で、違う画家がこの絵を画中画にしているのも見ました。作者の名前を失念してますが(汗)
心になにかひっかり、印象に残る絵です。
キリストの最初の弟子が漁師だったことに因んでる絵なのかな。裸の赤ちゃんが寒そうで気になってしまう・・・。
印象派の絵は70年代以降、フランスが復興しパリが美しくなっていくときに現れたのもわかりました。
去年12月に見たカイユボットの作品は復興して整然としていくパリを描いたのですね。描かれた労働者はあるいは家族にパリコミューンの関係者がいたのかもしれません。
シャバンヌの絵と社会情勢は深くつながっていて、だからこそ国民に愛され、静かであまり自己主張が強くない絵がむしろ素直に人の心に染み込んでくるように思いました。
日本では黒田清輝が直接教えを受けたそうです。その教えが日本の画家にも影響を及ぼしました。
また、展覧会のフライヤーでスーラ、マティス、ピカソにも影響を及ぼしたと書いてあります。
私はやはりフランスの画家で壁画も多く手がけたモーリス・ドニの絵がとてもシャバンヌの要素を受け継いでいるように思いました。
モーリス・ドニ「踊る女たち」1905年
(こちらも参考に載せます)
パリ市内に今も残る公的建造物の壁画。どんな思いで描いたのか、そこにあるのは、ただただ静かな平和の祈り、そして彼が理想としたルネサンス期の宗教フレスコ画。
白っぽい、青っぽいその色は、絵画の内容と共に、戦いで傷ついた心を癒してくれたことでしょう。
同じ国民同士の戦いくらい馬鹿げた争いはありません。
おりしも、冬季オリンピックが閉幕したその日、世界の平和を改めて感じ入った展覧会でした。
blueashさん、良き情報をありがとうございました。
ブログを読んで展覧会を見てくださるなんて、何より嬉しい報告をありがとうございます(#^.^#)
こうやって書くのは、自分の勉強のためですが、読んでくださる方に展覧会の良さも伝われば嬉しいなという気持ちもあります。
前知識なく感覚的に見るのもいいですが、絵を読み解くヒントがあるとさらに絵の中に気持ちが入っていけると思ってます。
シャバンヌの絵は背景の知識があるとさらに味わい深いですね!
インターネットで調べて良かった(*^^)v
ついでに言うとパリコミューンの理念は、婦人参政権や児童の労働禁止など20世紀の政治改革に大きく影響を及ぼした先進的なものだったようです。マルクスはこのコミューンの理念を参考に社会主義思想を構想したそうです。