一、「令和4年日本国国防方針」の戦略は何か
「令和4年日本国国防方針」の核心部分である戦略とは何かを探ってみる。
令和4年9月22日、内閣総理大臣岸田文雄が「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の開催を決定した。この告示を受けて、同有識者会議は、開催決定から僅か一週間の令和4年09月30日には開催される運びとなった。第一回目の会議には、有識者として上山隆大、翁百合、喜多恒雄、園部毅、黒江哲郎、佐々江賢一郎、中西寛、橋本和仁、山口寿一が、政府側として岸田内閣総理大臣.木原内閣官房副長官〔官房長官代理〕、林外務大臣、鈴木財務大臣、浜田防衛大臣等が出席した。
冒頭、木原内閣官房副長官より同会議の開催趣旨について説明がった。その要点は次の通りであった。
『……
我が国を取り巻く厳しい安全保障環境を乗り切るためには……自衛隊の装備及び活動を中心とする防衛力の抜本的強化のみならず、自衛隊と民間との共同事業、研究開発、国際的な人道活動等、実質的に我が国の防衛力に資する政府の取組を整理し、これらも含めた総合的な防衛体制』の強化について、検討する必要がある。
……』
次いで、座長の選任が行われ外務省OBの佐々江賢一郎が選出された。続いてこれもまた外務省出身の秋葉剛男国家安全保障局長より「安全保障環境の変化と防衛力強化の必要性」とする資料が配布された。つまり秋葉が提出した資料が、現在の日本が抱える安全保障上の問題箇所で、それを構成している国が日本の安全を脅かす仮想敵国ということになる。国防方針では、もっとも重要な部分なため詳細に検討してみる。
1、秋葉剛男国家安全保障局長が提出した資料
『……
- 国際秩序は深刻な挑戦を受けている。
- 今回のウクライナへの侵略のような事態は、将来、インド太平洋地域においても発生し得るものであり、我が国が直面する安全保障上の課題は深刻で複雑なもの。
- ロシアによるウクライナ侵略は.力による一方的な現状変更であり、国際秩序の根幹を揺るがす深刻な課題
- 中国は、力による一方的な現状変更やその試みを継続し.ロシアとの連携も深化.更に.今般の台湾周辺における威圧的な軍事訓練に見られるように、台湾統一には武力行使の放棄を約束しえない構え
- 北朝鮮は、弾道ミサイルの発射を繰り返しているほか、核実験の準備を進めているとされており、国際社会への挑発をエスカレート
……』
と、日本が抱える安全保障上の脅威が如何なる問題から来るものかをまとめたものである。秋葉の云わんとすることを要約すると、日本の存在を危うくしているのは「ロシアによる力による一方的な現状変更」によって「国際秩序は深刻な挑戦を受けている」となる。これを事実と照らし合わせると次のようになる。
秋葉が言いたいのは「2022(令和4)年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻した。その後、同年9月30日、ロシアはウクライナ東部および南部4州(ドネツク州、ルガンスク州、ザポリージャ州、ヘルソン州)の併合を当事国ウクライナの意向を無視して実行した。これは、国際秩序に対する深刻な挑戦である。係る軍事侵攻は、インド太平洋地域でも起こる可能性がり、日本としては安全保障上、看過できない。したがって、不測の事態に備えて日本の国防力を強化しておきたい。」と述べているのだ。そのインド太平洋地区には、尖閣列島と台湾有事及び南沙諸島が含まれていることになる。その結論として成文にはしていないものの、日本の安全保障に脅威を与える国としてはロシアそれと軍事的なつながりが強い中国と北朝鮮と断定している。つまり日本の主要仮想敵国はこの三国なのだ。
秋葉の発言に次いで、政府側として最初に発言したのが林芳正外務大臣であった。この事実から「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の性格が見えてくる。同有識者会議とは、外務省の要請により設置した諮問機関であるということになる。加えて「日本を取り巻く安全上の問題点」を説明した秋葉も外務省関係者で、さらに座長が外務省OB佐々江賢一郎なのだ。したがって同有識者会議は外務省の自作自演でおこなっていることから結論が既に決まっているとみるべきなのだ。つまり外務省が想定している仮想敵国ロシア、中国、北朝鮮を有識者会議の結論として日本政府に提言させようとして開催した会議なのだ。
2、林芳正外務大臣の全文
『(林外務大臣)
既にお話もありましたが、力による一方的な現状の変更の試み、これが正面から行われるようになりました。こういう意味で、一層安全保障環境は厳しさを増す中で、外交・安全保障双方の大幅な強化が求められております。防衛力の抜本的強化は、急務かつ、実は、この防衛力が強化されると、外交も力強い展開がさらに可能になると、そういう関係もあるということを、御指摘しておきたいと思います。外交実施体制の抜本的強化、外交力の強化にも全力で取り組んでまいります。 外務省としては、日米同盟を深化させる、抑止力・対処力の強化に努めるということを旨としておりまして、今年の5月の日米首脳共同声明においても、総理から、日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏づけとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を表明いただき、バイデン大統領からも強い支持を受けております。 また、普遍的価値を共有する有志国との多層的な安全保障協力、これを進めるとともに、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けて、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の実現に向けた取組を強化していきたいと考えております。こうしたことを通じて、我が国及び地域の平和と安定の確保に努めていきたいと思っております。
……』
この林の発言内容を精査する前に看過できない発言がある。林は「……(日本)の防衛力が強化されると、外交も力強い展開がさらに可能になる……」と述べている。よく考えて頂きたい。日本国憲法第九条には「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」とある。ところが、林は日本の防衛力を強化して外交で威嚇に利用したいと言っているのだ。林が外務大臣として仕事をしているのは憲法を順守してこそ成り立つ。ところが、こともあろうに林は、有識者会議に外交上敵対する勢力には威圧できるだけの武力を整備するよう政府に提言するように求めているのだ。
林の経歴は、東京大学法学部卒業を卒業していることから「憲法論」は習得済みである。よって日本の国体である憲法を知らないわけはない。林は憲法が日本の国体であることを熟知したうえで無視している。林が自民党所属議員であることから、自民党の党是である「アメリカの要請に従い、日本国憲法を改正して自衛隊の海外派兵を可能にする」ことを実行している確信犯なのだ。そのうえ「令和4年日本国国防方針」の見直しが10年後を想定していることから、それ以前に日本国憲法は改正できると確信しているのだ。
林にここまでの確信を持たせたのは、安部晋三が犯罪者集団統一教会と組んで国政選挙をおこない衆参ともに憲法改正に必要な三分の二を確保したことと、野党の分断が進んで国権回復を目指す勢力もなくなったからである。加えて自民党の野党工作により、野党議員の中にさもしい「隠れ自民党議員」を増殖させることに成功したからなのだ。さもなければ日本国民の宝であり自衛隊をアメリカ軍に売り渡し「海外派兵を可能にするため」に憲法改正に賛成するわけはない。したがって林をここまで大胆にさせるのは現代版大政翼賛会運動が完成したことによる驕りなのだ。
そして、幾度も言うが、日本の安全保障は憲法と不可分であることから「日米安全保障条約」を完全に機能させるのは日本国憲法を改正する以外に方法はないのだ。それをあえて単純な憲法改正論としているのは、裏に軍事同盟という危険な毒物があることを国民の目に触れないように隠蔽し誤魔化しているだけなのだ。
日本国憲法を改正する時期をうかがわせる発言を浜田靖一防衛大臣が行っている。
浜田は「……我々は直ちに行動を起こし、5年以内に防衛力の抜本的強化を実現しなければなりません……」と述べている。つまり憲法改正も5年以内におこなうことが既定路線なのだ。そして憲法改正の暁には、有識者の提言により2023年から開始する「防衛三文書(国家安全保障戦略、防衛⼤綱、中期防衛⼒整備計画」)」で軍備を拡張しておいて「インド太平洋(FOIP)」の防衛に利用できるようにしておくということになる。
日本の国益とインド洋は如何なる関係があるのだろうか。
これではまるで明治38年に日英同盟を改定したことと同じでインド防衛用に陸兵を派遣すると約束させられたこととどこが違うのだろうか。
・林外務大臣が有識者会議の冒頭で防衛力を強化して「武力で威圧」すると述べたことは憲法違反である。
・日本国憲法と日本の安全保障が表裏一体であることを知らない不勉強な野党が、憲法改正に賛成していることから大政翼賛会体制が出来上がった。
・自民党は日本国憲法を5年以内に改定を完了する予定である。
(第二回終了)