筆者はこれまで、自由民主党がアメリカと「日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定(国連軍地位協定)」と「行政協定(日米地位協定)」を締結したことにより、日本の主権(自衛隊指揮権、航空管制権、電波権)をアメリカに売渡してきたことを書いてきた。そのアメリカは、日本を冷戦という世界戦略の極東部分として保持し続けるために、二つの協定を締結した自由民主党に政権を維持させることに決めた。その結果として自由民主党が長期政権を維持することができたのである。
尚、「日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定」(国連軍地位協定)に付いては「令和4年日本国国防方針」批判(第五回) -国防権のない日本の危険な外交と国防-」(クリックで遷移)で詳しく述べておいた。また、「アジアのためにアメリカに直言・・・富士ジャーナル7.'71の22Pから」も参考願いたい。
さて本題であるが、次の新聞記事をお読み願いたい。2023年1月11日、朝日新聞デジタルは『「過去1世紀で最も重要」日英首相、円滑化協定に署名 安保協力強化』とする記事を配信した。
『……
岸田文雄首相は11日午後(日本時間同日夜)、ロンドンでスナク英首相と会談した。自衛隊と英軍が共同訓練などで相互に訪問する際の法的地位などを定める「円滑化協定」に署名。両政府は安全保障上の協力を強化し、中国や北朝鮮に対する抑止力を高めたい考えだ。
日本が円滑化協定を結ぶのは昨年1月の豪州に続いて2カ国目。協定によって、自衛隊と英軍が相手国で共同訓練などを行う際、船舶や航空機、隊員の出入国手続きが簡略化される。協定には事件や事故が起きた際の対応なども定められている。
日本は日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」と、米英豪の安全保障協力「AUKUS」の連携を重視している。今後、協定によって、大規模な共同訓練がより行いやすくなる。
日英は近年、安保協力関係を深めている。2017年に燃料などの物資を融通し合う「物品役務相互提供協定(ACSA)」を締結。21年には英海軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃群が、米海軍横須賀基地(神奈川県)に寄港し、海上自衛隊や米海軍と大規模訓練を実施し、昨年11月には群馬県などで英陸軍と陸上自衛隊が共同訓練を行った。昨年12月にはイタリアとの3カ国で、航空自衛隊の次期戦闘機の共同開発でも合意した。
岸田政権は昨年12月に改定した安保関連3文書に、「同盟国・同志国との連携」を盛り込んだ。首相は英国訪問の前に訪れたフランスとは、今年前半に外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)の開催をめざすことで一致し、イタリアとも外務・防衛当局間の協議を新設することを決めた。英国との円滑化協定は、東シナ海や南シナ海で海洋進出を強める中国に対抗するため、英国にも関与を強めてもらう狙いがある。
英首相官邸も11日、円滑化協定を結ぶと発表し、「英軍の日本への配備を可能にする、過去1世紀以上で日英間の最も重要な防衛協定」と意義を強調した。スナク氏は声明で、世界情勢の見通しや脅威や課題の理解などを両国が共有していると指摘した上で、「競争が激化する世界で民主主義社会が協力することが、これまで以上に重要になっている」と述べた。
……』
日本政府が締結した協定は「日英円滑化協定(Japan-UK Reciprocal Access Agreement)」という名称である。実は同様の協定である「日米地位協定」があまりにもひどいものであることから、その影響を避けるため「円滑化」と表現を緩めた軍事協定なのである。
名称はともあれ条文を検討してみる。最も注目すべき項目は「日英円滑化協定」第四条である。
『……
第四条
…
3 この協定は、千九百五十四年二月十九日に東京で署名された日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定に基づいて国際連合の軍隊として行動する間の連合王国の軍隊が実施するいかなる活動についても適用しない
……』
とある。この条項に中にある「国際連合の軍隊の地位に関する協定」とは1953(昭和28)年に朝鮮派遣国軍との間に締結した「日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定(国連軍地位協定)」である。これまで幾度となく取り挙げてきたあの「朝鮮派遣国連軍」のことなのである。つまり、日本とイギリスが締結した「日英円滑化協定」は「国連軍地位協定」が有効な間は適用しないというものである。では「日英円滑化協定」はいつから効力を発するのであろうか。その答えは「国連軍地位協定」(第二十四条、第二十五条)のなかにある。そのベースとなっているサンフランシスコ平和条約第六条には次のように明記されている。
『……
第六条
連合国のすべての占領軍は,この条約の効力発生の後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にもその後九十日以内に、日本国から撤退しなければならない。但し、この規定は、一又は二以上の連合国を一方とし、日本国を他方として双方の間に締結された若しくは締結される二国間若しくは多数国閻の協定に基く、叉はその結果としての外国軍隊の日本国の領域における駐とん又は駐留を妨げるものではない。
……』
また、国連軍地位協定には次のように規定されている。
『
第二十四条
すべての国際連合の軍隊は,すべての国際連合の軍隊が朝鮮から撤退していなければならない日の後九十日以内に日本国から撤退しなければならない。この協定の当事者は,すべての国際連合の軍隊の日本国からの撤退期限として前記の期日前のいずれかの日を合意することができる。
第二十五条
この協定及びその合意された改正は,すべての国際連合の軍隊が第二十四条の規定に従つて日本国から撤退しなければならない期日に終了する。すべての国際連合の軍隊がその期日前に日本国から撤退した場合には,この規定及びその合意された改正は,撤退が完了した日に終了する。』
したがって「日英円滑化協定」が実際に動き出すのは、朝鮮戦争が終戦となった時なのである。
日本の安全保障政策は、朝鮮戦争を継続することが前提で組み立てられていた。そのため朝鮮戦争が終戦となると駐留アメリカ軍の根拠が失われるとともに「行政協定」が有名無実のものとなってしまうのだ。それに伴い「有志国」、つまり、「国連軍地位協定」を締結した12か国(日,オーストラリア,カナダ,フランス,イタリア,ニュージーランド,フィリピン,南アフリカ,タイ,トルコ,イギリス,アメリカ)は解体することになる。
自由民主党は、近い将来、朝鮮戦争が終戦となり朝鮮派遣国連軍の撤退が始まることを予想していて「日英円滑化協定」を締結した。そして、朝鮮戦争終了と同時に、イギリス軍の武官文官が日本に進駐してそれまでアメリカが日本統治に利用していた日米合同委員会の機能をそのままイギリスに引き渡すために締結した協定なのである。つまり、日本としては宗主国が変わるだけで、自由民主党はこれまで通り日本の主権を売渡すことで政権を独占し、防衛外交利権を維持することが許されるのだ。
つまり「日英円滑化協定」とは自由民主党が政権を維持するためだけに締結されたもので、日本の主権が回復するわけではない。これまで通り日本の主権(自衛隊指揮権、航空管制権、電波権)をアメリカだけではなく、イギリスにも売渡すことに合意しているのだ。
唯一の救いは「日英円滑化協定」第二十九条の次の条項である。
『……
第二十九条
…
3(a) 各締約国は、他方の締約国に対して六箇月前の書面による通告を行うことにより、いつでもこの協定を終了させることができる
……』
で、六か月前に書面により通告することで協定が終了できることであろう。
自民党政権を下野させて、新たな政権が破棄を通告すればよいということになる。
尚、「日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定」(国連軍地位協定)に付いては次に掲げる主題で幾度となく纏めてきた。
」(寄稿:近藤雄三)
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