『文東記(ブントンキー)のチキンライス』
Eさんが仕事を終わってからホテルで待ち合わせ夕食をとることにしていたの
で、ホテルのロビーでくつろぎながら待っていた。約束の時間頃だったと思う
が何やらプラカードのようなものを示しながらボーイさんが人探しの様子。
こちらにやって来たプラカードには私の名前、、、聞くと電話がかかっていると
いうから受付デスクに行く。Eさんがラッシュで少し遅れると連絡してくれた。
暫くすると小走りのEさんが現れ、タクシーを待たせているからと急かす。
3月末以来の再開だから久しぶりではない。外見は元気そうで少し安心したと
いうと、ここのところ仕事が忙しくて、気が紛れて泣くのをも忘れるほどだったと
言う。チキンライスはシンガポールの庶民派名物らしいが食べたことはなかっ
た。私たちが想像するものは、チャーハン風のものにケチャップ味だが、ここ
は蒸した鳥の出汁でご飯を炊きこみ鶏肉を一緒に頂くというもの。この店はシ
ンガポールで一番人気、そういえばお客さんが並び始めていた。
私にとって鶏肉は独特の匂いが感じられ、特に薄味の料理に鶏肉があると閉
口する。しかし、ここのチキンライスはわりと薄味なのに、そうしたこともなく美味
しく食べられた。
郷に入れば郷に従え、そうここはシンガポールだからTiger Beerをいただこう。
私ひとりの酒宴だが、多少なりともアルコールが入るとブロークン・イングリッシ
ュがデストロイ(破壊)イングリッシュになってしまう。
そうした中でEさんはお母さん逝去後の心境を語ってくれた。何よりもねぎらい
たかったのは、母の願いである日 本の総本山への巡礼、帰国直後からの病院
での看病、逝去、葬儀、49日、総本山への分骨を一人で背負ったことだ。
年齢は40前だから決して若くはないが単身の女性が抱えきるには重すぎる。
だから、涙が枯れるほど泣いたのだ。慰める言葉もねぎらう言葉もないがよく頑
張ったと端的に伝えた。
私たちのことをよく知っているから。それで十分通じたと思う。
ロビーには欄 ゴンドラのようなエレベーター 各階の部屋