再びユニホームに着替えたオレは、とも子とともに路上を走り出した。野球部がいつも使ってる学校周辺のコース、1周3キロ。
とも子は今日の試合の疲れのせいか、オレのスピードについて行くのがやっとだった。それでもオレは、とも子がぎりぎりついてこられるペースで走った。ピッチャーは走ることが基本だ。走れば足腰が鍛えられ、安定したスピードとコントロールが得られる。苦しいだろうが、頑張ってくれよ。
そしてとも子は、1周3キロを走り終えた。
「今日はここまでにしよう」
しかし、とも子は首を横に振った。そして、右手の指を1本立てた。どうやらもう1周走りたいと言ってるらしい。
「大丈夫か?」
とも子はにこっとした顔で首を縦に振った。
「OK」
いい根性だ。オレととも子は、再び走り出した。ただ、今回はとも子のペースに合わせ走った。
※
オレの身長は185センチ、それに対し、とも子のそれは145センチくらい。だから並んで走ると、とも子を見下ろしたかっこうになる。とも子の胸は同年代の女の子と比べるとかなり小さいけど、それでもユニホームの胸元の透き間から2つの膨らみのふもとがちらりちらりと見えた。オレはなぜかそれが気になって気になって、しょうがなかった。
その視線に気づいたのか、ふととも子がオレの顔を見た。オレは慌てて視線をそらした。気づかれた? しかし、とも子はいつもの笑顔を見せてくれた。それを見て、オレはなんとなく赤くなってしまった。
※
ランニングコースを2周走り終えたオレととも子は、野球部の部室に戻った。
「ごくろうさん。今日はここまでにしよう」
とも子はうなずいた。と、次の瞬間、とも子は思わぬ行動に出た。そーっと目を閉じ、少し唇を突き出したのだ。こ、これはもしや、キスをねだるポーズ? しかし、こんなの、オレには初めて。何をすればいいのか、ぜんぜんわからなかった。と、ともかくオレは、この状況をやり過ごすことだけを考えた。
「さ、澤田さん、もう帰ろ」
するととも子は目を開け、「なんで?」とゆー顔をした。そして再び目を閉じ、唇を突き出した。
女の子がキスをねだってきた場合、男はそれを拒否してもいいのだろうか? やっぱキスすべき? でも、正直なことをゆーと、オレはキスとゆーものをこれまでしたことがないのだ。でも、そんなのは拒否の理由にはならないと思う。オレは意を決した。
オレは2・3歩を進めると、少し身をかがめ、とも子にキスをした。ほんの少し唇と唇が触れたとゆーのに、その瞬間、オレの心臓は爆発しそうなほど作動した。
「ありがとう、澤田さん」
オレはとも子に感謝した。が、とも子はふと哀しい目をして、首を横に振った。そして部室の隅に掛けてある小さなホワイトボードに向かうと、専用のペンでこう書いた。
「とも子と呼んでください」
オレはドキッとした。ま、考えてみりゃ、他の部員はみんな呼び捨てなのに、とも子だけ「澤田さん」じゃ、おかしいと言えばおかしい… でも、下の名前で呼ぶのはちょっと変だと思うし… けど、本人がそう言ってんだし、オレだっていつも心の中で「とも子」と呼んでるんだ。「とも子」でもいいか…
「あは、わかったよ、とも子」
とも子はまたにこっとした。
※
オレの左腕はこれ以上回復する見込もないし、今日の醜態… もう潮時だと思う。このへんできっぱし野球をやめ、学業に専念すべきなのかも…
でも、オレにはとも子との約束がある。オレの知ってるピッチングのいろはをとも子に教えるまで、ユニホームを着続けなくっちゃいけないと思う。オレの野球部での人望は地に墜ちたが、とも子だけはオレを信じてるんだ。もうしばらくは、野球部にいることにしよう。
でも、なんでとも子はキスをねだってきたんだ? やっぱオレにほれてるのか?…
※
翌日授業が終わると、オレととも子の特訓が始まった。場所は例のグランドの端っこに設けられた、ブルペン用のスペース。本来のキャッチャーは北村なのだが、オレがチームで孤立してることを考え、オレがとも子のタマを受けることにした。
ダイヤモンドでは、いつものようにナインたちが練習をしてた。彼らはオレの気持ちをくんでが、それとも本当に嫌われてしまったのか、オレたちを無視してくれていた。
ふとショートに目をやると、そこには1年生の森の姿があった。箕島は退部届を出したらしい。オレは自分の暴言にあらためて後悔したが、2割くらいは「しかたがないか」とゆー思いもあった。正直箕島は、野球には向いてないと思う。
※
とも子のタマを受けるたび、オレのミットはバシッバシッといい音がした。キャッチャーは通常右利きのプレイヤーがやるので、オレみたいな左利き用のキャッチャーミットは、特注しない限り存在しない。しかたがないから、ファーストミットでとも子のタマを受けた。しかし、ファーストミットはキャッチャーミットより薄い。とも子の豪速球を受けるたび、オレの手がしびれた。でも、ある意味、心地よい痛みだ。
だが、オレのファーストミットが小気味よく鳴るのは、正直あまりいいことではなかった。
とも子のストレートの握りは、中指と人差し指をボールの縫い目に直行させたもの。野球の教科書を開くと、ストレートはだいたいこの握りが書いてある。この握りで投げると、ボールは下から上へ回転しながらバッターに向かって行く。浮上する回転なので、ボールがホップしやすくなる。ホップするタマは見た目以上に速く感じるので、速球には有効である。とも子と対戦するバッターはよくポップフライを撃ち上げるが、これはとも子のタマが打者の手元でホップしている証拠なのである。
しかし、この握りには大きな欠陥がある。バッターから見て下から上へボールが回転してるので、ジャストミートされると上昇する方向にボールが反発し、感触以上にボールが飛んで行ってしまう、いわゆる「軽いタマ」になってしまうのである。さっきからオレのファーストミットが小気味よい音を立ててるのは、実はとも子のタマが軽い証拠なのである。城島高校に連続ホームランを撃たれたのは、この球質が関係してると思う。
オレは回転しないストレートの握りをとも子に教えた。とも子は飲み込みが異様に早かった。あっとゆー間に、回転しない、いわゆる「重いタマ」を投げてみせた。
※
ふとグランドを見ると、ちょうどナインの練習が終わるところだった。オレは立ち上がると、言った。
「とも子、走るぞ」
とも子はいやな顔をまったく見せず、うなずいてくれた。
今日とも子は100球近く投げた。くたくただと思うが、ここがピッチャーの肝心なところ。ピッチャー、特に先発完投型のピッチャーに一番必要なのはスタミナだ。スタミナを豊富にさせたければ、練習後のくたくたなときに長距離を走らせるといい。
オレととも子は、昨日と同じく、1周3キロの周回コースを2周走った。昨日の2周目はとも子のスピードに合わせゆっくりと走ったが、今日は2周ともとも子のペースより少し速いスピードで走った。でも、とも子は耐え、3キロ×2周、計6キロを走り抜いてくれた。
オレととも子は部室に戻ると、昨日と同じようにキスをした。ただ、今日はオレの方から求めた。とも子は快く唇を重ねてくれた。キスの時間は昨日よりう~んと長かった。
※
翌日も同じように、オレはグランドの端でとも子のタマを受けた。とも子は重いストレートをほぼ手に入れたようだ。こうなると、今度はとも子の豪速球を活かす変化球が欲しくなる。ま、そうせかすこともないか。
ふとダイヤモンド内で練習してるナインを見ると、今日もショートは森だった。もう箕島は戻って来ない… 昨日はいくぶん開き直った感情があったが、今日は100%箕島に謝りたい気分だ。でも、もうどうしようもなかった。
※
今日はとも子にきっちりと100球投げさせ、ランニングに移った。いつものコースを1周回って元に戻ってくると、そこには北村が立っていた。オレととも子が北村の横を通り過ぎると、北村も並んで走り出した。
「北村、オレにかかわらない方がいいぞ」
「なんでです? チームのキャプテンと一緒に走っちゃいけないんですか?」
ふふ、たしかにそうだな。オレはまだキャプテンを辞めてなかったんだっけ。ま、とも子が目的なのは、バレバレなんだが…
しかし、北村は迷惑なやつだ。こいつのお陰で、練習後のキスはお預けになってしまった。
※
次の日もとも子はグランドの端で投げた。ただ、キャッチャーは北村だった。やつは最初、とも子の重いタマを受けたとき、いつもとは違う感触に、ちょっと戸惑ったようだ。
「どうだ、重いタマの感触は?」
「お、重いタマ?…」
「このタマさえ覚えておきゃ、もう連続ホームランは撃たれないはずだ」
が、北村はいまいちピンと来てないようだ。
「おまえ、まさか、タマの重さは、投げてるピッチャーの体重で決まると思ってんじゃないだろうなあ?」
「そ、そんなことないですよ、あはは…」
図星か… そう、聖カトリーヌ紫苑学園野球部の部員は、みんな、その程度のレベルしかないんだ。だから、利き腕の自由がきかないオレでも使ってくれてる。オレも同じレベルの仲間なんだ。それなのにオレは、箕島に罵声を浴びせ、野球をやめさせてしまった…
最低だな、オレって…
※
ふとオレの目が、監督と話をしている1人のユニホーム姿を捉えた。そいつはオレから見たら後ろ向きなのだが、背番号の「6」とゆー数字ははっきりと見えた。6と言えば、ショートのレギュラーメンバーに与えられる背番号。もしや…
その背番号6が振り返ると、案の定そいつは箕島だった。箕島が帰って来た? ふと箕島と目が合った。と、やつは慌てて視線をそらした。オレはなんとなく照れ笑いをしてしまった。
ダイヤモンド内は守備練習中。森に替わって箕島がショートの守備位置に着いた。どうやら箕島は、本当に戻って来てくれたらしい。オレは急に晴れ晴れしい気分になった。胸を圧迫してた重たいものが、突然取れたような気分になった。
ふととも子を見ると、とも子もほほ笑んでいた。
とも子は今日の試合の疲れのせいか、オレのスピードについて行くのがやっとだった。それでもオレは、とも子がぎりぎりついてこられるペースで走った。ピッチャーは走ることが基本だ。走れば足腰が鍛えられ、安定したスピードとコントロールが得られる。苦しいだろうが、頑張ってくれよ。
そしてとも子は、1周3キロを走り終えた。
「今日はここまでにしよう」
しかし、とも子は首を横に振った。そして、右手の指を1本立てた。どうやらもう1周走りたいと言ってるらしい。
「大丈夫か?」
とも子はにこっとした顔で首を縦に振った。
「OK」
いい根性だ。オレととも子は、再び走り出した。ただ、今回はとも子のペースに合わせ走った。
※
オレの身長は185センチ、それに対し、とも子のそれは145センチくらい。だから並んで走ると、とも子を見下ろしたかっこうになる。とも子の胸は同年代の女の子と比べるとかなり小さいけど、それでもユニホームの胸元の透き間から2つの膨らみのふもとがちらりちらりと見えた。オレはなぜかそれが気になって気になって、しょうがなかった。
その視線に気づいたのか、ふととも子がオレの顔を見た。オレは慌てて視線をそらした。気づかれた? しかし、とも子はいつもの笑顔を見せてくれた。それを見て、オレはなんとなく赤くなってしまった。
※
ランニングコースを2周走り終えたオレととも子は、野球部の部室に戻った。
「ごくろうさん。今日はここまでにしよう」
とも子はうなずいた。と、次の瞬間、とも子は思わぬ行動に出た。そーっと目を閉じ、少し唇を突き出したのだ。こ、これはもしや、キスをねだるポーズ? しかし、こんなの、オレには初めて。何をすればいいのか、ぜんぜんわからなかった。と、ともかくオレは、この状況をやり過ごすことだけを考えた。
「さ、澤田さん、もう帰ろ」
するととも子は目を開け、「なんで?」とゆー顔をした。そして再び目を閉じ、唇を突き出した。
女の子がキスをねだってきた場合、男はそれを拒否してもいいのだろうか? やっぱキスすべき? でも、正直なことをゆーと、オレはキスとゆーものをこれまでしたことがないのだ。でも、そんなのは拒否の理由にはならないと思う。オレは意を決した。
オレは2・3歩を進めると、少し身をかがめ、とも子にキスをした。ほんの少し唇と唇が触れたとゆーのに、その瞬間、オレの心臓は爆発しそうなほど作動した。
「ありがとう、澤田さん」
オレはとも子に感謝した。が、とも子はふと哀しい目をして、首を横に振った。そして部室の隅に掛けてある小さなホワイトボードに向かうと、専用のペンでこう書いた。
「とも子と呼んでください」
オレはドキッとした。ま、考えてみりゃ、他の部員はみんな呼び捨てなのに、とも子だけ「澤田さん」じゃ、おかしいと言えばおかしい… でも、下の名前で呼ぶのはちょっと変だと思うし… けど、本人がそう言ってんだし、オレだっていつも心の中で「とも子」と呼んでるんだ。「とも子」でもいいか…
「あは、わかったよ、とも子」
とも子はまたにこっとした。
※
オレの左腕はこれ以上回復する見込もないし、今日の醜態… もう潮時だと思う。このへんできっぱし野球をやめ、学業に専念すべきなのかも…
でも、オレにはとも子との約束がある。オレの知ってるピッチングのいろはをとも子に教えるまで、ユニホームを着続けなくっちゃいけないと思う。オレの野球部での人望は地に墜ちたが、とも子だけはオレを信じてるんだ。もうしばらくは、野球部にいることにしよう。
でも、なんでとも子はキスをねだってきたんだ? やっぱオレにほれてるのか?…
※
翌日授業が終わると、オレととも子の特訓が始まった。場所は例のグランドの端っこに設けられた、ブルペン用のスペース。本来のキャッチャーは北村なのだが、オレがチームで孤立してることを考え、オレがとも子のタマを受けることにした。
ダイヤモンドでは、いつものようにナインたちが練習をしてた。彼らはオレの気持ちをくんでが、それとも本当に嫌われてしまったのか、オレたちを無視してくれていた。
ふとショートに目をやると、そこには1年生の森の姿があった。箕島は退部届を出したらしい。オレは自分の暴言にあらためて後悔したが、2割くらいは「しかたがないか」とゆー思いもあった。正直箕島は、野球には向いてないと思う。
※
とも子のタマを受けるたび、オレのミットはバシッバシッといい音がした。キャッチャーは通常右利きのプレイヤーがやるので、オレみたいな左利き用のキャッチャーミットは、特注しない限り存在しない。しかたがないから、ファーストミットでとも子のタマを受けた。しかし、ファーストミットはキャッチャーミットより薄い。とも子の豪速球を受けるたび、オレの手がしびれた。でも、ある意味、心地よい痛みだ。
だが、オレのファーストミットが小気味よく鳴るのは、正直あまりいいことではなかった。
とも子のストレートの握りは、中指と人差し指をボールの縫い目に直行させたもの。野球の教科書を開くと、ストレートはだいたいこの握りが書いてある。この握りで投げると、ボールは下から上へ回転しながらバッターに向かって行く。浮上する回転なので、ボールがホップしやすくなる。ホップするタマは見た目以上に速く感じるので、速球には有効である。とも子と対戦するバッターはよくポップフライを撃ち上げるが、これはとも子のタマが打者の手元でホップしている証拠なのである。
しかし、この握りには大きな欠陥がある。バッターから見て下から上へボールが回転してるので、ジャストミートされると上昇する方向にボールが反発し、感触以上にボールが飛んで行ってしまう、いわゆる「軽いタマ」になってしまうのである。さっきからオレのファーストミットが小気味よい音を立ててるのは、実はとも子のタマが軽い証拠なのである。城島高校に連続ホームランを撃たれたのは、この球質が関係してると思う。
オレは回転しないストレートの握りをとも子に教えた。とも子は飲み込みが異様に早かった。あっとゆー間に、回転しない、いわゆる「重いタマ」を投げてみせた。
※
ふとグランドを見ると、ちょうどナインの練習が終わるところだった。オレは立ち上がると、言った。
「とも子、走るぞ」
とも子はいやな顔をまったく見せず、うなずいてくれた。
今日とも子は100球近く投げた。くたくただと思うが、ここがピッチャーの肝心なところ。ピッチャー、特に先発完投型のピッチャーに一番必要なのはスタミナだ。スタミナを豊富にさせたければ、練習後のくたくたなときに長距離を走らせるといい。
オレととも子は、昨日と同じく、1周3キロの周回コースを2周走った。昨日の2周目はとも子のスピードに合わせゆっくりと走ったが、今日は2周ともとも子のペースより少し速いスピードで走った。でも、とも子は耐え、3キロ×2周、計6キロを走り抜いてくれた。
オレととも子は部室に戻ると、昨日と同じようにキスをした。ただ、今日はオレの方から求めた。とも子は快く唇を重ねてくれた。キスの時間は昨日よりう~んと長かった。
※
翌日も同じように、オレはグランドの端でとも子のタマを受けた。とも子は重いストレートをほぼ手に入れたようだ。こうなると、今度はとも子の豪速球を活かす変化球が欲しくなる。ま、そうせかすこともないか。
ふとダイヤモンド内で練習してるナインを見ると、今日もショートは森だった。もう箕島は戻って来ない… 昨日はいくぶん開き直った感情があったが、今日は100%箕島に謝りたい気分だ。でも、もうどうしようもなかった。
※
今日はとも子にきっちりと100球投げさせ、ランニングに移った。いつものコースを1周回って元に戻ってくると、そこには北村が立っていた。オレととも子が北村の横を通り過ぎると、北村も並んで走り出した。
「北村、オレにかかわらない方がいいぞ」
「なんでです? チームのキャプテンと一緒に走っちゃいけないんですか?」
ふふ、たしかにそうだな。オレはまだキャプテンを辞めてなかったんだっけ。ま、とも子が目的なのは、バレバレなんだが…
しかし、北村は迷惑なやつだ。こいつのお陰で、練習後のキスはお預けになってしまった。
※
次の日もとも子はグランドの端で投げた。ただ、キャッチャーは北村だった。やつは最初、とも子の重いタマを受けたとき、いつもとは違う感触に、ちょっと戸惑ったようだ。
「どうだ、重いタマの感触は?」
「お、重いタマ?…」
「このタマさえ覚えておきゃ、もう連続ホームランは撃たれないはずだ」
が、北村はいまいちピンと来てないようだ。
「おまえ、まさか、タマの重さは、投げてるピッチャーの体重で決まると思ってんじゃないだろうなあ?」
「そ、そんなことないですよ、あはは…」
図星か… そう、聖カトリーヌ紫苑学園野球部の部員は、みんな、その程度のレベルしかないんだ。だから、利き腕の自由がきかないオレでも使ってくれてる。オレも同じレベルの仲間なんだ。それなのにオレは、箕島に罵声を浴びせ、野球をやめさせてしまった…
最低だな、オレって…
※
ふとオレの目が、監督と話をしている1人のユニホーム姿を捉えた。そいつはオレから見たら後ろ向きなのだが、背番号の「6」とゆー数字ははっきりと見えた。6と言えば、ショートのレギュラーメンバーに与えられる背番号。もしや…
その背番号6が振り返ると、案の定そいつは箕島だった。箕島が帰って来た? ふと箕島と目が合った。と、やつは慌てて視線をそらした。オレはなんとなく照れ笑いをしてしまった。
ダイヤモンド内は守備練習中。森に替わって箕島がショートの守備位置に着いた。どうやら箕島は、本当に戻って来てくれたらしい。オレは急に晴れ晴れしい気分になった。胸を圧迫してた重たいものが、突然取れたような気分になった。
ふととも子を見ると、とも子もほほ笑んでいた。