弁理士近藤充紀のちまちま中間手続32
拒絶理由 新規性・進歩性
理由1(請求項1~6)
(1)刊行物1には流体の供給量及び抜出量ならびに各帯域の流量の状態を第6図のとおりに行い、流体の供給口及び抜出口の移動は440秒毎に同時に行うことの記載がある。
刊行物1の上記記載は本願の請求項1に係る発明の「一サイクルの間を通して、ほぼ一定の前記混合物のリサイクル流量Qcをリサイクルポンプによって循環させ、この流量Qcは装置内の注入されたまたは採取された出入口のz流量の中で最も大きい流量よりも大きく、かつ、各帯域の出口で溶出された容量が、サイクルの間を通して、二つの連続する入れ換えの間で、帯域毎にほぼ一定のままであるように、サイクルの間中すべての導入および採取の回路を、互いに独立した手段により入れ換えさせる」に相当する。
刊行物1には、従来型の疑似移動床による分離方法の記載はあるが、請求項2、3に記載された数式自体の記載はない。しかるに、当該数式は従来型の疑似移動床における流量を包含しているといえる。
理由2(請求項1~7)
疑似移動床を並流式とすることは例えば刊行物2に記載されているように周知の技術的事項である。
意見書
引用文献1には流体の供給量及び抜出量ならびに各帯域の流量の状態を第6図のとおりに行い、流体の供給口及び抜出口の移動は440秒毎に同時に行うことが記載されている。
しかしながら、引用文献1では、流体の供給口及び抜出口の移動を440秒毎の「一定の」時間間隔で行っているのであり、その特許請求の範囲(1)を参照すれば明らかなように、「流体の循環流路の少なくとも一点において循環している流体中の少なくとも一成分の濃度を測定することにより充填床の各位置における流体中の当該成分の濃度を測定し」、「この推定濃度分布を所望の濃度分布パターンに維持するために、充填床内における流体の流速を制御する」ものであり、その流量は流体中の成分の濃度分布に応じて可変になっている。
したがって、引用文献1の発明は、本願発明のようにリサイクル流量Qcを「一定」にするものではなく、むしろ、推定濃度分布に応じて流量を変更するように作用させており、すなわち、引用文献1の発明は、本願発明とは全く逆のことを行っているものである。
したがって、流動を変動させている引用文献1の記載に基づいて、リサイクル流量を一定にした本願発明に想到することはできない。
引用文献2には、疑似移動床を並流式とする周知の技術的事項が記載されているが、本願発明のような、リサイクル流量Qcを一定にし、かつ、装置内の注入されたまたは採取された出入口のz流量の中で最も大きい流量よりも大きくしたものではない。
以上に説明したように、本願発明は、引用文献1と同一ではないので新規性を有する。
また、引用文献1および2に基づいて容易に想到することができないものであるので進歩性も有する。
拒絶査定
理由1(請求項1~6)
刊行物1には、流体の供給量及び抜出量ならびに各帯域の流量の状態を第6図のとおりに行い、流体の供給口及び抜出口の移動は440秒毎に行うことの記載がある。そして、各帯域の流量変更後は第7図のようになっていることが記載されており、第6図及び第7図において循環流量は変化していない。
してみれば、本願の上記請求項に係る発明は刊行物1に記載されたものである。
理由2(請求項1~7)
出願人は上記理由1で示した点に加え、上記拒絶理由通知書で示した刊行物2(特開昭61-118350号公報)には疑似移動床を並流式とする周知の技術的事項が記載されているが、本願発明のようなリサイクル流量Qcを一定にし、かつ、装置内の注入されたまたは採取された出入口のz流量の中で最も大きい流量よりも大きくしたものではないから、本願発明は、刊行物1及び2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨主張する。
刊行物1には上記理由1で示した発明が記載されている。
そして、疑似移動床を並流式とすることは例えば刊行物2に記載されているよ うに周知の技術的事項である。
刊行物1記載の発明において、周知の手段を採用することに技術上の阻害要因 はない。
審判・理由
iii)理由1について
請求項1の発明
引用文献1の技術は、そもそも、既存の疑似移動床装置における既存の疑似移動床方法に関するものである。すなわち、引用文献1に記載されているのは、一定の入れ替え周期で、各回路が同時にシフトして(入れ換えて)対応する導入または採取の点に順次連結する疑似移動床である(例えば引用文献の請求項1)。この点では、引用文献1の発明は、本願明細書において従来技術として挙げた米国特許第・・・号および第・・・号、米国特許第・・・号、WO第・・・号、欧州特許・・・および米国特許・・・のものと基本的に変わらない。
これに対し、請求項1に係る発明は、本質的に、擬似移動床の操作方法の改善に関するものであって、一定の周期で各回路が同時にシフトするのではなく、特定の操作モードの下に各回路を互いに独立した手段により入れ換える方法に関するものである。したがって、請求項1に係る発明による操作方法には一定の周期というものは存在しない。請求項1に係る発明は、引用文献1の発明とは上記の点で全く異なるものである。
加えて、請求項1に係る発明は、
a) 一サイクルの間を通して、ほぼ一定の前記混合物のリサイクル流量Qcを1基のリサイクルポンプによって循環させること、
b)この流量Qcは装置内の注入されたまたは採取された出入口流量の中で最も大きい流量よりも大きいこと、
c)各帯域の出口で溶出された容量が、サイクルの間を通して、二つの連続する入れ換えの間で、帯域毎にほぼ一定のままであること、
を特徴とする方法であり、これらの点でも引用文献1の発明とは上記の点で全く異なるものである。
引用文献1に、「流体の供給量及び抜出量ならびに各帯域の流量の状態を第6図のとおりに行い、流体の供給口及び抜出口の移動は440秒毎に同時に行うこと」が記載されている点は、請求項1に係る発明とは無関係である。
よって、請求項1に係る発明は、引用文献1の発明とは同一でなく、新規性を有する。
請求項2および3の発明
請求項2の発明は、上述した特定の操作モードを数式によって客観化したものである。
引用文献1にはこのような数式は一切記載されておらず、請求項2の発明も新規性を有する。
請求項4~6の発明
従属請求項である請求項4~6は当然新規性を有する。
iv)理由2について
請求項1の発明
引用文献1の技術は、上述したように、一定の入れ替え周期で、各回路が同時にシフトして(入れ換えて)対応する導入または採取の点に順次連結する疑似移動床である。
これに対し、請求項1に係る発明は、一定の周期で各回路が同時にシフトするのではなく、特定の操作モードの下に各回路を互いに独立した手段により入れ換えるものであり、請求項1に係る発明による操作方法には一定の周期は存在せず、かつ、各帯域の出口で溶 出された容量が、サイクルの間を通して、二つの連続する入れ換えの間で、帯域毎にほぼ一定のままであるものである。
このように、請求項1に係る発明は、引用文献1の発明とは基本的構成を異にするものであり、全く逆のものである。したがって、引用文献1の記載から請求項1に係る発明を推考することは到底不可能である。
つぎに請求項1に係る発明の効果について述べる。
請求項1に係る発明は、上記のような特徴的な構成のゆえに、下記のような格別顕著な効果を奏する。
従来技術は、疑似向流モードおよび疑似並流の基礎的テキストである米国特許第・・・号および第・・・号に例証されているように、流入または流出の流れのそれぞれは、同時にかつ周期的に他のすべての流れと入れ替わる。米国特許第・・・号も基本的の同じである。従って従来技術は、流れのそれぞれの連続する二つの入れ替えの間の単一の周期Tを教示しており、この周期と塔または独立床の区画の数nとの積:n*Tがサイクルの時間である。
このような従来型疑似移動床での分離方法は、基本的には、リサイクルポンプ上の4あるいは5の異なる流量で操作され、これらの流量はこの方法の4または5の帯域の流量に対応している。工業的実施では、異なる各流れを伝達するラインのパージに対応する実際的な理由から、このポンプ上に6または7の異なる流量で操作される。このような操作では、各サイクルの間に、この方法での帯域の数と同じ回数リサイクルポンプが流量を変えることから生じているという下記のような幾つかの不都合がある:
・このポンプは、各流量のうちの最も大きい流量の大きさに合わせなければならず、すなわちこのポンプは事実上他のものに対しては過大となっている。
・各流量変化毎に、各塔内の圧力分布が突然の不可避変動を受け、とりわけ圧力制御下に流出流れ(ラヒネート)の流量を混乱させる。
・これらの変化毎で、一つの流量から他の流量への移行は瞬時には起こらず、例えば工業的プラントでは、一つの流量から他の流量へ移るために2秒かかるということは、既に正確な調整を必要としていることである。その結果、約2000秒のサイクルでは約10秒間、流量は一定しないことになる。
・リサイクルポンプに対して帯域の位置がどこにあろうと、各帯域内の流量は一定していることが常時モニタリングされなければならない。リサイクル流量および出入りの測定および調節の不完全さを考慮すると、流量の変動を2%以下にすることは難しい。
WO第・・・号は、一定のリサイクル流量を有する疑似移動床システムを記載しており、そこでは導入点および採取点と同じようにリサイクルポンプを移動させている。従ってポンプはいつも同じ帯域内に位置するので、必然的に一定の流量を保つことになる。しかしこのシステムでは、疑似移動床の各区画が別の塔の中にあること、かつ導入および採取回路との連結および前後の区画との連結に加え、各区画がリサイクルポンプの吸い込みおよび送り出しにつながりかつ分離し得ることが要求されるので、明らかにこのシステム の価格は大変高いものとなる。
これに対し、請求項1に係る発明は、上記のような特徴的な構成のゆえに、注入および抜き取り点と共に周期的に移動されるポンプを必要とすることなく、上述した諸問題を解決することができるという格別顕著な効果が得られる。このような効果は引用文献1からは到底予測することができないものである。
請求項2~7の発明
従属請求項である請求項2~7の発明は上記理由で進歩性を有する。
加えて、請求項2および3の発明は本願明細書の記載に基づいて請求項1の発明を最適な実施形態に限定したものであり、上記効果をより顕著に発揮するものである。
引用文献2には、疑似移動床を並流式とする周知の技術的事項が記載されているが、上述した本願発明の特徴的構成および効果は記載も示唆もされていないので、引用文献1に引用文献2を組み合わせるても、請求項7の発明の進歩性が失われることはない。
v) 以上に説明したように、本願発明は、引用文献1と同一ではないので新規性を有する。また、引用文献1および2に基づいて容易に想到することができないものであるので進歩性も有する。
拒絶審決
<相違点1>について
引用発明及び本願補正発明の疑似移動床での分離では、各帯域毎または各区画毎にリサイクルポンプによる流体の吐出圧力を調整していくものではなく、リサイクルポンプは単に循環経路に対して定常的な流体の流れを提供するものにすぎない。したがって、リサイクルポンプをどの程度の頻度でどのような位置に配設するかについては、当業者であれば適宜決定し得る範囲の事項にすぎない。また、リサイクルポンプを各帯域毎に設置することは周知の技術である(例えば特開昭63-20006号公報の第3頁左下欄第10行~同右下欄第11行及び第5頁左上欄第9行~同第12行参照。以下「周知技術1」という。)。
よって、引用発明のような疑似移動床での分離において、上記周知技術1に基づいて、本願補正発明でいう上記相違点1のような構成とすることは当業者であれば容易になし得る。
<相違点2>について
引用発明の疑似移動床での分離を改善する方法では、上記摘記事項(イ)、(ウ)及び(カ)から明らかなとおり、収着質成分及び非収着質成分の濃度分布が所望の濃度分布となるようにするものである。そして、上記摘記事項(カ)及び(キ)から明らかなとおり、この目的のために、導入及び採取の回路の切替の時間間隔を一時的に短縮又は延長するものである。このような操作を行った場合、上記摘記事項(ク)並びに引用刊行物の第6図及び第7図から明らかなとおり、当該時間間隔の操作に関連する帯域での流量の状態が変化しているものであり、当該変化はリサイクル流に対して原料混合物Pの導入によって流体移動に遅れを生じた状態が当該操作によって改善されたことを示しているものである。すなわち、引用発明の疑似移動床での分離を改善する方法は、収着質成分及び非収着質成分の濃度分布を所望の濃度分布にすることによって、帯域間の流量が平準化されることを示唆しているものである。また、特開平4-131104号公報の公報第2頁左上欄第10行~左下欄第1行にも記載されているように、流量制御を行うことによって、系の安定化と純度維持が同時になされることは、疑似移動床での分離の技術分野において周知の技術である(以下「周知技術2」という。)。ここで、「系の安定化」とは流量の平準に関連しているものであり、「純度維持」とは濃度分布に関連しているものであることは明らかである。
よって、引用発明の疑似移動床での分離を改善する方法において、引用発明及び上記周知技術2に基づいて、各帯域の出口で溶出された容量が帯域毎にほぼ一定のままであるように、導入および採取の回路の入れ換えを行うこととし、本願補正発明でいう上記相違点2のような構成とすることは当業者であれば容易に想到し得る。
また、本願補正発明の作用効果は、引用発明並びに周知技術1及び2から、当業者であれば予測できる範囲のものにすぎない。
以上により、本願補正発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
拒絶理由通知をもらった時点で、厳しいな、とは思っていた件。最後まで粘ったが・・・まあ、仕方ないかな、と。