K.H 24

好きな事を綴ります

僕は何人も居る。みんなは独りなんだ。1-④

2019-12-12 01:28:00 | 小説
④梅木との付き合い方は、、。
 その後、大食い女王の梅木翔子とは、月一程度の頻度で、大食いデートをした。僕自身は、大食いが飽きてしまった。思い切って、呑みに誘った。
「二郎君、こんなお店よく来るの?」
 大学の最寄駅から三駅離れた街の繁華街のビルの三階にある。Floor Three と言うBAR に梅木を誘った。ここは、食べ物のメニューは少ないものの、馬刺しがリーズナブルに食べれるお店だった。店内はジャスやシャンソンが流れてて、洋風な雰囲気だけど、日本酒や焼酎も置いている。
「実は、家庭教師をしてるんだけど、たまたま、そこのお父さんに教えてもらったんだ。」
 梅木に言った。
「へぇ、大人の隠れ家的なんだろうね。うん、いい感じ。」
 梅木も気に入ってくれた。
 僕は焼酎のロックにして、梅木は日本酒大吟醸の冷酒を選んだ。勿論、つまみは馬刺し。5人前頼んだ。バーテンダーは驚いた。
「お客様、結構な量になりますが大丈夫ですか?」
 僕にそう言って来た。
「大丈夫です。私、大食いなので。」
 梅木が笑顔を見せた。
「あぁ、もしかして、お客様、◯◯大学のイーターオブクイーンの方ですか?」
 梅木に聞いた。
「はい、今日はお世話になります。」
 照れながら梅木は言った。
「翔子ちゃん有名人だ。凄えな。」
 僕は言った。
「へへ、色んなとこで喰い散らかしてるからね。」
 梅木は言った。
 最初にドリンクから運ばれて来て、お通しみたいなミックスナッツも一緒に。二人で乾杯し、呑み始めた。
「今日はね、二郎君に誘われて丁度良かったの、相談したい事が有って。私ねテレビに誘われてて、大食い番組なんだけど、どうしようか迷ってて。」
 梅木は言った。
「テレビに出るメリット、デメリットは考えたの?」
 アヤナミが素早く交代して梅木に聞いた。
「私、助産師目指してるんだけど、大学の講義を考えるとスケジュールがキツキツになりそうなのがデメリット。体力がもつか、モチベーションが削がれないか不安。メリットは食費がだいぶ浮くから、経済的に余裕が出来るかな。」
 梅木はシンプルに答えた。
「大丈夫、テレビ出たらいいよ。講義とかテストとかの時は、僕、協力する。それと、顔が売れると将来、助産師として有利。特に、助産院を開く時とか。翔子ちゃん、今、頑張り時だ。」
 クールにアヤナミは言った。
「嬉しい、そう言ってくれると。そうだね。二郎君、医学科だもんね。勉強教えてもらえるね。頼もしい。」
 梅木は言った。
「うん、任せて、勉強の面は。お金は幾ら有っても、いつでも足りなくなる。使うものだからお金は。どう使うかが大事だ。」
 アヤナミの言葉は説得力がある。
「分かった。よし、出てみる。二郎君ありがとう。応援してね。」
 梅木の笑顔はほんとに綺麗だ。
 馬刺しが運ばれて来た。七人前運ばれて来て、2人前はサービスしてくれた。
 梅木も僕も馬刺しを肴にガンガン呑み続けた。焼酎と日本酒、一升空けてしまった。
 その間、僕が以前、梅木に話した養護施設へ入所した経緯も話題に上がった。
「二郎君は、目の前で人が死ぬ光景を、なんだよね。こないだ聞いた時は、出血だとか、なんだのって驚いたけど。そんな経験が医学科を目指すきっかけになったの?」
 梅木は聞いた。
「うん、人はいつかは死んでしまう。だから頑張れると思ってて、自分で死ぬのは勿体ないと思うんだよね。生きていくって、辛い事ばかりだけど、どう捉えるかで、幸せかそうでないか変わってくる。僕は自分で死ぬ人を減らしたいんだ。自殺は僕らが唯一、しなくてもいい事だと思う。僕は生まれ育った家の人達を家族なんて思えなく、絶望感でいっぱいだったけど。あんな事件がなかったら今、僕はここに居なかったかも知れないね。だから、自殺を減らしたくて精神科医になりたいと思ってる。」
 僕は言った。
「死ぬとどうなるか分からないから不安だよね。生きてる人達とコミニュケーションとれなくなるから不安。どうなるか分からないのが不安。私はね、赤ちゃんを取り上げたいな。これから生きて行くぞって命を。」
 梅木は目線を少し上に向けてそう言った。
「なんでそう思うの?」
 僕は聞いた。
「幼稚園児の時の影響かなぁ。私、キリシタンじゃないけど、カトリック系の幼稚園に通ってたの。毎週土曜日には、園長先生のミサがあったり、聖書に関するビデオを見る時間とか、クリスマスはみんなでキリスト教誕生の劇をするの。イエス・キリストが納屋の干し草の上でマリア様から生まれるの、それが周囲の人が喜ぶのよね。私、独りっ子だから、それを子供ながら幸せな気分になってね。子供が生まれる場面を憧れるようになったの。産婦人科医っても思ったけど、男の先生も居るから、助産師かなってね。だから二郎君が将来、助産院を開くならって言ってくれたの嬉しいわ。」
 梅木は言った。
「僕が感じた事ない感覚だよ。きっと。そうか命が誕生する瞬間かぁ。想像出来ないや。」
 僕はしみじみとそう言ってしまった。
「二郎君、なんか恐い。」
 梅木はふと呟いた。
「しょうがないじゃないか。僕は施設に入るまで家族以外の近所の大人達からも無視されてたんだ。そして、兄貴にもボロ糞言われてたんだ。僕は何故生まれてきたのか、どうやって生きていけばいいのか分からなくなった。」
 僕は声を荒らげてしまった。
「ごめんなさい、翔子ちゃん。」
 歌音が交代して言った。
「悪気は無いんだよ。少し嫌な気分を思い出しただけなんだ、許してあげて。」
 一文字さんに交代して言った。
「二郎君ごめんね、お互い呑み過ぎたかしら。分かったよ。」
 梅木が俯いた僕の背中を差すって謝ってくれた。
「ああ、大丈夫。取り乱してごめん。うん、大丈夫。君の手が物凄く暖かくて優しく感じるよ。」
 僕は平静を取り戻した。頭の中では、アヤナミがシンジ君と佐助を押さえ込むのに必死だった。桃ちゃんがひと筋だけ涙を流した。
「お水一杯飲んで。」
 梅木は僕の前にチェイサーを差し出して、顔を上げた僕の頬を伝う涙を人差し指で拭ってくれた。
「ありがとう、一瞬で癒された感じだ。」
 梅木に笑顔を返した。その時、桃ちゃんは僕の中に入って姿を消した。
 〝一つ、悲しみが浄化したね。〟
 歌音が言った。
「驚かせたね。翔子ちゃん。ふうぅ、もう少し呑もうか。馬刺し、後、3人前くらいお願いしよう。」
 僕は今までに無い優しい気持ちで梅木に言えた。
「良かった。薬味を多めに頼もう。山葵つけてもらえるかな。」
 梅木は追加注文した。
「林田先生、来てくれてたんだね。凄い、馬刺し、好きなんだ、沢山食べたね。森伊蔵に獺祭か、若いのに舌が肥えてるね。良いものを口にした方が良いよ。流石だ、林田先生。」
 急に僕の背後から、声がした。僕が家庭教師している子のお父さんで駿河幸平(するがこうへい)さんが声をかけて来た。
「どうも、こんばんは駿河さん。良いお店を教えて頂いて有難うございます。いらしてたんですね。ご挨拶せずにすみません。」
 僕は自然体で言えた。
「私は、今来たところだよ。林田先生がこんな美人さんと一緒だなんて想定外ですよ。独り静かに呑むんだろって勝手に思ってました。」
 駿河さんは言った。
「初めまして、二郎君の高校からの同級生で梅木翔子と言います。お見知りおきを。」
 梅木が駿河さんに挨拶してくれた。
「梅木さんですか、宜しくお願いします。先生には、うちの息子が家庭教師でお世話になってまして、今度、高校入試なんですが、先生のおかげで、もうこの時期で志望校は模擬試験でA判定なんです。勉強嫌いなうちの馬鹿息子が一変して、彼の夢の第一歩を踏み出せそうで、先生には感謝ですよ。」
 駿河さんは満面の笑みで僕らに言った。
「いえいえ、滋君は元々ポテンシャルが高い子だったんですから。滋君の努力が9割で、僕は1割のお手伝いで済んでますよ。駿河さんも褒めてあげてくださいね。」
 僕は言った。
「林田先生謙虚だから。でも、そう言って頂き、滋が頑張ってるを嬉しく思います。感謝です。じゃあ、戻ります。」
 僕と握手して駿河さんはお連れさんのところへ戻った。
「流石ね、二郎君。教えてる子の親御さんにもあんなに好かれてるなんて。」
 梅木は言った。
「いや、ほんとに滋君は凄いんだよ。スポンジみたいに吸収してさ。翔子ちゃんも会ったらわかるよ。」
 僕は事実を言った。
 追加した馬刺しが無くなった時に、また、2人前の馬刺しが運ばれて来た。
「駿河さんからです。お召し上がり下さい。山葵も添えてござます。」
 梅木は、目を大きく見開き、胸の前で合掌して喜んだ。馬刺しは残さなかった。二人で一五人前を平らげた。
「大満足、良い店だったね。チーズも種類が豊富だったよ。次は、チーズ攻めようね。赤ワインと一緒に。」
 駿河さん、マスターに挨拶して、店を出て、階段で一階に降りてる途中で、梅木が僕に腕を組んで来てそう言った。僕は頷いた。外は秋めいて来てて冷たいそよ風が僕達の身体を心地良くすり抜けた。
「テレビの仕事はいつからなの?」
 僕が聞いた。
「明日、テレビ局のプロデューサーと打ち合わせ、来週、再来週には、どこかのお店で撮影じゃないかな。」
 梅木は言った。
「忙しくなるね、翔子ちゃん。体調だけは崩さないでいてよ。」
 僕は言った。
「二郎君のそんな優しいところ好きだな。私の彼氏になって。」
 翔子はあっさり言った。
「うん、いいよ。えっ、翔子ちゃん、普段通りの調子で言うから。いいの僕みたいな奴でも。」
 僕は驚いた。
「勿論。重く考えないでよ。お互い忙しくなるでしょ。それで自然消滅的に疎遠になりたくないと思ってね。お互い時間が合う時、大食い行ったり、呑みに行ったりとか。これまでとはそんなに変わらないと思うけど。彼氏彼女としてお付き合いしたら、連絡するのに気兼ねせずに。デートだって気軽に。それと、二郎君なら私許せる。私、バージンよ。」
 梅木は僕がプレッシャーにならない程度に気遣って言ってくれた。
「ありがとう、宜しくお願いします。」
 僕は言った。
「二郎君、今日は朝まで一緒に居て、明日の事、緊張しそうなの、私の部屋に行こう。早速、甘えちゃった。」
 梅木は言った。
「うん、分かった。怒らないでよ。翔子ちゃんも繊細なとこあるんだな。」
 僕は気軽にそう言った。
「そうよ、女の子だもん。」
 僕は益々、梅木を愛おしく思って、肩を抱き寄せて歩いた。
 この夜は、梅木と結ばれた。アヤナミは、シンジ君と佐助を止めなかった。初めて梅木に対して、心地良さだけを感じ取ってもらえた。アヤナミとシンジ君、佐助達の連携の賜物だった。
「二郎君、素敵ね。」
 梅木は僕に肌を寄せて眠りに入った。僕もそうした。
 〝佐助、シンジ君、満足でしょ。二郎君、だいぶ梅木といい感じなんだから、あなた方が邪魔しないように気をつけて。〟
 アヤナミは、2人を悟すように言った。
 〝二郎と翔子ちゃん、上手く行くといいなぁ。〟
 歌音が呟いた。
 〝翔子ちゃんが言ったように気負う事はないさ。〟
 一文字さんも発言した。
 〝みんなありがとう。また、宜しくね。〟
 二郎は言った。
 翌朝、目が覚めると、梅木は朝食、ハムエッグとサラダ、コーンスープにトーストを作ってた。トーストにしたパンは厚さ5cmはあった。
「おはよう二郎君、お酒残ってない?」
 梅木は言った。
「うん、大丈夫だよ。それにしても旨そうだ。朝はこうやっていつも作るの?」
 梅木に聞いた。
「朝はね。料理するのも嫌いじゃないの。でも、キッチンが小さいから、晩ご飯作ろうとしたら大変、家ではご飯を炊くのと、お味噌汁かスープは作るけど、今日はパンにしてみました。二郎君が和食か洋食系かわからないから。でも、このパンは誰もが好きなパンよ。米粉も入っててモチモチよ。」
 梅木も二日酔いはなさそうだ。
 僕達はボリューミーな朝食を食べて、大学に向かった。

つづく