⑩Revolution
「翔子、合格おめでとう。林田君も来てくれてありがとうね。」
翔子が看護師と助産師の国家試験をいっぺんに合格し、実家でお母さんと僕と3人で合格パーティーをする事になった。
僕は、翔子のお母さんに会うのはこれで4回目で、お互い慣れて来た頃だった。翔子のお母さんは、いつも親切にしてくれた。そして、自分の実家でもあるような気持ちになれた。
「お母さん、二郎君ありがとう。やっと解放された気分よ。」
翔子は笑顔で言った。
「良かったよ、ほんとに。じゃあ先ずは、乾杯しますか。」
僕は、翔子とお母さんのグラスにビールを注ぎながら言った。
「林田君、私が注いであげる。」
お母さんが僕のグラスにビールを注いでくれた。
「ぷはぁ、旨い。五臓六腑に染み渡るぅ。」
翔子は豪快にビールを一気呑みし、そう言った。
「翔子、合格祝い、どうぞ。」
僕は、18金のエンジェルコインのネックレスを贈った。
「えっ、ありがとう。開けていい?」
とても嬉しそうな顔で言った。
「可愛いね。ありがとう。白衣の天使、頑張ります。」
翔子のお母さんも喜んでくれて、早速、お母さんが翔子にネックレスをつけてあげた。
「私は手料理だけど、心を込めて沢山作ったからね。」
お母さんが作ってくれた料理は、豚バラ肉を厚めに切った肉じゃがと鶏モモを1枚豪快に揚げた唐揚げ10枚、鯛の塩釜焼き、エビたっぷりの茶碗蒸し、だし巻き卵、お赤飯、それぞれ10前づつ食卓いっぱいに並べられた。まさにお袋の味だった。
「お母さんありがとう。嬉しい。」
翔子はお母さんを抱きしめた。
また、翔子は公立の総合病院への就職も決まり、勿論、産婦人科病棟の勤務で、社会人として順調に歩み出した。
そんな中、僕の身体に異変が訪れた。益田刑事の刺客として、加藤と一緒に仕事をするたびにシンジ君が活躍してくれる。それと、加藤から空手も手解きされて、シンジ君である時の時間がだいぶ増えた。
「最近、思うんだけど、シンジ君と交代するとさぁ、表情だけじゃなくて、腕とか脚の筋肉が盛り上がって太くなる感じがするんだ。大胸筋だって盛り上がるし、身長が5cmくらい高くなる気もする。」
加藤と2人でトレーニングを始めようとすると、そんな事を言い出した。
「じゃあ、シンジ君と代わるよ。おお、ほんとだ。カトちゃんよく気づいてくれたな。俺もシャツとズボンがきつくなる気はしてたんだよ。なんだろうこれ。」
僕からシンジ君に代わると2人が言う通りだった。また、僕に代わると腕や脚、身長が萎むように元に戻る感じがした。
実際に、腕と脚、身長、体重を測ってみると、シンジ君に代わると太く、高く、重くなった。ついでにスマホで写真を撮ってもらい比較してみると同一人物とは思えない変貌ぶりだった。
「お前らさぁ、6人ともしっかり役割があるだろう。身体の中も6パターンあるんじゃないか。順番に代わってみろよ。」
加藤は言った。そして、同じように身体測定して、写真を撮ってみると、それぞれ変わってた。
「大発見だな。凄いよお前ら。」
加藤は言った。
そのデータ、画像を持って、翔子の休日の日に会いに行った。
「二郎君、内も外も6人になっちゃうのかしら。」
翔子の部屋で、身体測定データと画像を見てもらった。
「どうなるんだろう。頻繁に僕と代わるシンジ君がはっきりと僕との違いが分かるよね。だから他の人達も僕と代わる時間を長くすると、どんどん違いがハッキリするのかな。」
僕は言った。
「でも、私もそうなっちゃうの?いや、翔子はならないんじゃあないかな。二郎君は、実際、命掛けの緊迫した状況でシンジ君と代わる場面が多いから、神経系と筋系、内分泌系の同時活動が劇的に変化するはず、その影響が大きいのかも知れないね。」
翔子が不安がると、ユキが交代して、そう言った。
「私もそうだと思う。やっぱり気になるんだけど、私とかアヤナミが一週間くらい外に出たらどうなるかしら?」
歌音が交代して言った。
「試してみたら良いじゃん。」
杏が代わって言った。
「翔子ちゃん、今日はよく代わるのね。みんなが興味あるからだね。」
歌音が言った。
「えっ、無くなった?」
歌音はパンツの中を覗き込み直ぐに見えるであろうペニスが見えなくなった。そう言い、パンツの中に手を突っ込んだ。
「小さくなってる、小さくなってる。えっ、えっ、無くなった。」
歌音はそう言って、翔子に目を合わせ、パンツに突っ込んだ手の動きも止めた。
「あっ、おっぱいも有る、おっぱい、おっぱい。ノーブラだ、やらしいんだ。」
杏が喜んで言った。すると、歌音は、両手を胸に当てた。
「はぁっ。」
一言発した。
「脱ぅ〜げ、脱ぅ〜げ。こらこら、杏、ふざけないの。」
杏からユキに代わって言った。
「いいのよ、いいのよ。ちょっと恥ずかしいけど、脱ぐ。ユキさん、構わないかしら、確かめて欲しい、女の身体なのか、自分でも確かめたいの。」
歌音は言った。
「あ、あ、私はいいよ。翔子は。いいよ、不思議、二郎君の身体が女に、なんだよね。」
ユキと翔子は言った。
歌音はチノパンから脱いだ。スネ毛をはじめ、両脚の体毛は二郎に比べ、だいぶ薄い。そして、肌がしっとりしてて、ヒップライン、太腿から脹ら脛にかけた曲線も女性らしい柔らかさを感じる見た目である。
「歌音さん、綺麗。二郎君じゃない。」
翔子が思わず言った。
次に、白いボタンダウンのシャツの上のボタンから外していった。Cカップ程か、巨乳では決してない。シャツを脱ぐと、チラッと脇毛が見えたが、二郎より四分の一くらい薄くなってた。真っ直ぐ立った姿からは、ふっくら柔らかそうな乳房で、正に日本人に多いと言われる三角状で、胸骨と左右のピンクな乳頭を結ぶ線が、正三角形になった、いわゆる、ゴールデントライアングルと言われる綺麗なバストの位置関係になっている。その下から降りていくボディーラインはウエストにかけて絞られて行き骨盤に届く位置から膨らんでいく、くびれが強調された美しい曲線を描いてる。
最後にボクサータイプのパンツを脱いだ。アンダーヘアも二郎よりだいぶ薄く、上になった底辺から4、5cm下に60°くらいの角度になった二等辺三角形になっており、Vラインのムダ毛処理は必要ない程のボリュームである。
「女の身体だよ。」
また、翔子は思わず言った。
側の壁に掛けられた姿見のカバーを開き、歌音は身体を確認した。納得した表情で、手鏡を取った。両脚を肩幅より少し広く開きその手鏡をあてた。ヴァギァナが覗けた。
「ちゃんと女体になってる。」
歌音は目眩に襲われたが、倒れないように踏ん張った。翔子も手鏡の中を確認した。
「ほんとだ。」
口が閉まりきらないまま、歌音と目を合わせた。
「翔子ちゃん、みんなと相談するね。」
歌音は言うと、手鏡を自然に手のチカラが抜けて、ゆっくり床に落ちた。同時に、白目を剥いたり、頭が揺れたり、トランス状態に陥った。
〝二郎、どう思う?〟
歌音は聞いた。
〝戸惑ってるよ。バケモノだよ僕は。〟
二郎は答えた。
〝良いんじゃないか。1つの身体も6通りになった訳だね。僕らだけでも、パラダイムシフトしないとね、二郎。そもそも、僕らは子宮の中で受精卵になって着床すると、何億年かかけた進化を10ヶ月で済ますんだ。二郎と言う男の人格から女性の人格が解離した訳だよ。そして、僕らは今のところ6人格を保っていて、それぞれ支え合って生きてきた。桃ちゃんが統合された事実はある。でも、5人は統合されないんだ。もしかすると、二郎も含めてみんなが主人格になったんじゃないか。そこで、身体もアポトーシスや蛋白質合成が超急速化して、変態を遂げれるようになったって、理解したらどうだ。そうだなぁ、有名な学者さん達は、パラレルワールドが有るって言うだろ。それは、その世界に行けた人しか分からないよ。科学的に証明された事ではないよな。でも、僕らの身体の変化は、加藤と翔子ちゃんも確認してるんだ。〟
一文字さんは言った。
〝俺が代わると5cmは身長が伸びるもんな。〟
シンジ君は言った。
〝私はどんな身体かしら、楽しみ。〟
アヤナミは言った。
〝俺は身長が低くなりそうな気がする。〟
佐助は言った。
〝二郎、大丈夫。受け入れて行かないとね、現実を。〟
歌音が言い、一文字さんにこの事態を解説、納得された形で6人の会議は終わった。
「ふぅ、一応、みんなで受け入れる事になったわ。二郎がね、少し沈んだかな。」
トランス状態が収まり、歌音が翔子に言った。
「二郎君、私は受け入れるよ。二郎君、愛してるわよ。」
翔子は言った。
「ありがとう翔子ちゃん。」
その後、アヤナミに代わり、歌音との違い、特に、スリーサイズを比較した。アヤナミは、歌音よりバストとヒップが少しだけ大きかった。アヤナミのバストはDよりのCカップだった。
「アヤナミちゃんのサイズのブラジャーが良いわよね。翔子の借りて、UNIQLOに行こう。後は、エステで脱毛しなきゃ。」
ユキさんが言い、買い物に出かけた。
後日、加藤の家へ行き、益田刑事も来てもらい、加藤も共に、この『変態』の事を告げた。益田刑事は喜んだ。加藤は、また、『バケモノ』と一言だった。
「二郎君、活動の幅が広がるわ。女性しか入れないところも行けるからね。例えば、トイレ、お風呂、更衣室とか。」
益田刑事は言った。
「良いなぁ、そんな時は俺も女装しようかな。」
加藤は言った。
「何言ってんだよ。歌音やアヤナミになると、外の事はあまり見えないんだ。二人が見たり、聞いたりする事が分かるから、なんて言えばいいかなぁ、言葉で表現出来ないな。理解出来てるんだ。」
二郎はあやふやな説明になった。益田刑事は加藤を睨みつけた。
「加藤君、シンジ君とトレーニングするでしょ。たまに、僕と代わってるの知ってるよね。歌音とアヤナミもイメージの中では出来てると思うんだけど、実際の身体でもやったほうが良いと思うんだ。先ずは、アヤナミと代わっていいかい。」
僕は加藤に言ってトイレに入った。身体が変わる時間は、1分程しかかからなくなった。着替えて少し経つと完了だ。
「加藤君、宜しく。」
アヤナミとして、トイレから出て来ると、凛とした姿で加藤に言った。
「嘘、こんなに変わるの。別人ね。」
流石の益田刑事も驚いた。
「絢子さん、指紋も変わるよ。恐らく、声紋も。」
アヤナミは自慢げに言った。
「良かったぁ、美人だアヤナミちゃん。」
加藤は喜んだ。
加藤と組手をした。チカラが若干、劣るけど、スピード、タイミング、キレは、シンジ君となんら変わらない。
「凄ぇなぁ。充分強い、強いよ。もし、シンジ君がやりたくないなんて言ったら、アヤナミちゃんでもイケるよ。」
加藤は言った。
「歌音と代わるわ。」
再び、組手を再開した。
歌音は合気道や古武術の要素が増えた。弱いチカラで、バッタバッタ、加藤を投げ飛ばした。
「参った。歌音さん。合気道、躰道の要素が出て来るね。俺が苦手なタイプ。」
加藤は頭を掻きながら言った。
「頼もしい。実に頼もしい。」
益田刑事はゆっくりした拍手をしながら言った。
「空手だけじゃ足りねぇ。俺、八極拳勉強します。沖縄行って来ます。」
真面目な顔で加藤は言った。
加藤が沖縄に修行に行ってる間、僕は刺客の仕事を独りでこなした。ありがたい事に、益田刑事は、女性強盗集団や女性詐欺軍団の壊滅を指示した。まぁ、問題無くこなせたんだけど、歌音とアヤナミには良い経験になった。
僕が6回生で、国家試験対策を始めた頃に、加藤は帰ってきた。スキルアップは成功したようだ。
「私、警察辞めるわ。」
突然、僕と加藤に益田刑事は言った。
「一般社団法人は、理事が必要だから、あんた達は理事になってもらうわね。定さん、二郎君が知ってる横井定幸さん。加藤君にも今度紹介するね。その人には監事をお願いしたから。益田防犯研究所を立ち上げます。」
益田刑事は言った。
「えっ、もう立ち上げたの?」
加藤は益田刑事に聞いた。
「4月からよ。その頃は二郎君、研修医してると思うけど、大丈夫よね。加藤君は強くなったの?もっともっと強くなりなさいよ。」
益田刑事は言った。
僕は、大学を卒業し、医師国家試験に合格した後、研修医となった。在学中に臨床マッチング制度で選出された母校の附属病院で初期臨床研修を受ける事になった。
最初の6ヶ月は内科で研修した。この時に、僕ら6人のあらゆる検査を秘密裏に実施した。
先ずは、僕の全身MRIを撮影した。特徴的な部位は、大脳皮質に見られた。前頭葉の中心前回に見られる運動野と頭頂葉の中心後回に見られる感覚野の体積が一般的な人のそれより、1.5倍あるのが分かった。それと、大脳辺縁系を構成する、扁桃体と海馬が1.3倍大きい体積になっていた。
次に歌音をMRIで撮影した。脳内の違いは、脳梁が太くなってた。これは、一般的にも見られる事で、女性の方が20%太いとされている。驚いたのは、卵巣が無いのだ。。女性器、子宮は見られたが卵巣の形はあるも、中身が無い。すなわち、歌音には、生殖能力が備わってないのだ。
〝歌音、大丈夫、ショックじゃない。女性として。〟
僕は聞いた。
〝うん、大丈夫よ。私達が変化出来る限界なんじゃないかしら。もしも、私が身篭ってしまうと、二郎や一文字さん、シンジ君にも代われなくなるからね。私達に産休、育休は有り得ないのよ。〟
もしかすると、1、2年くらい歌音で居ると子供が産めるようになるかも知れないと思った。僕が勝手に僕の中から歌音を生み出してしまい、もしも歌音が、歌音としてこの世に生を受けてたら、歌音らしく生きて行かれたろうにと思う次第だった。
6人に共通して言えるのは、大脳皮質運動野と感覚野の体積の大きさだ。日を改めてfunctional MRIで、その部分の神経細胞活動を調べる事にした。
結果、歌音が1番に運動野と感覚野の細胞活動の体積が大きく、次にアヤナミ、そして、一文字さん、シンジ君、僕、佐助の順で細胞が活動する体積が小さくなっていた。
これは、神経細胞が多く活動してる歌音が秀でている訳ではなく、6人が6通りの神経活動パターンがあると考えた。正に、人格が6人明確化していて、それぞれ身体の形、使い方も明確化されたのであろう。
「翔子、凄い結果だよ。」
僕は、勤務を終え会う約束をしてた翔子に言った。
「二郎君、大丈夫よ。うちに行こう。美味しいの食べよう。」
沈んでる僕を気遣い、翔子は優しく言ってくれた。
翔子のマンションに着くと、焼きそばを作ってくれた。とても美味しくて、何もかもを忘れさせてくれる程だ。とても、前向きな気持ちになれた。
「翔子、このデータ見て、何だか罪悪感を抱いてしまったんだけど。これが現実なんだな。」
僕が冷静になれて、他の5人は静かにしてくれた。それと、ユキと杏も静観してくれた。
「良いんじゃない。私は二郎君に対しての気持ちは変わらないわ。だって、苦しんで、治療して来た私を素直に応援してくれたんだもの。2つの資格が同時に取れたのも二郎君のお陰よ。それと、お母さんも喜んでくれて、今は、放課後デイサービスで子供達のために頑張ってるわ。それなりに考えながら、生き生きしてる。二郎君と出会えたのがきっかけよ。」
涙目で翔子は言った。
「ありがとう、今、言ってくれた話を忘れないようにするよ。頑張るよ。」
穏やかな表情で僕は言えた。
僕は、初期臨床研修の救急医療、地域医療の研修を終え、後期研修に入った。まずは、産婦人科で研修医を務めた。ちなみに、佐助は大喜び。
過酷な研修だったけど、命の誕生を感動的に受け止められるようになった気がした。両親は殺してしまったけど、それ以降、人を殺めなかった事を五人に感謝した。特に、シンジ君に。
〝君だから、俺はそうしただけだ。違う奴ならバンバン殺しまくりだったと思うぜ。それだけじゃないさ、俺が思う、俺自身の姿にさせてくれたんだ。これ程嬉しい事はないさ。みんなそう思ってるよ。〟
シンジ君は言ってくれた。
〝二郎、あなたに感謝よ。〟
歌音も言ってくれた。
一方、捜査一課を退職した益田絢子は、小規模普通法人の一般社団法人を立ち上げた。『益田防犯研究所』である。その研究所の業務内容は、益田が執筆した防犯、特に、暴行からの護身方法を綴った本の出版や演習を交えた護身術の講習会、警視庁から殺人や暴行事件の犯人のプロファイリングの依頼を受ける等、益田自身が遣り甲斐ある仕事を出来る環境を作った。そして、加藤は工事現場の作業員を辞め、社員となり、理事も勤める事になった。僕と翔子も法人の理事になった。
加藤と僕らは護身術の講師を勤めた。僕は毎回参加出来なかったものの、女性限定の護身術講習を開く時は、前以て連絡が有り、歌音やアヤナミに代わって講師をした。2人は大人気で毎回、大盛況だった。
また、横井が法人の監事に就任したため、周りからの信用が高い法人となり、なかなか多忙な職場になった。
その頃僕は、後期研修の精神神経科で学び、研修後、大学院に進み博士号の学位取得を目指すため、研修医をした大学の附属病院の精神神経科へ入局した。
「江戸幕府の初期の頃にね、三代将軍の徳川家光が側近6人を六人衆って呼んだの。二郎君は私にとって六人衆ね。忙しくなると思うけど、宜しくお願いします。」
益田は丁寧に僕にそう言い、一礼した。
「二郎君格好良いなぁ。俺もなんかないかな益田さ〜ん。あっ、私は、益田さんの右腕であります。」
忙しいながらも、加藤がそんな冗談が言える和気藹々とした雰囲気の職場であった。
勿論、加藤と僕らの裏稼業は継続した。しかし、2人だけでやっていくのが限界に近づいたため、新たな人間が3人も加わった。そのため、益田の研究所の仕事、裏の仕事は益々、厚みが出て来た。
医師になった僕は、益田と同じくらい、巧みで身勝手で、自己中心的な犯罪者が嫌いになった。いつまで続けられるか定かで無いが、一生をかけて、この世から犯罪を減らして生きたいと、日々、考える生活を送るようになっていた。
殺した後悔は消え失せた。
翔子が看護師と助産師の国家試験をいっぺんに合格し、実家でお母さんと僕と3人で合格パーティーをする事になった。
僕は、翔子のお母さんに会うのはこれで4回目で、お互い慣れて来た頃だった。翔子のお母さんは、いつも親切にしてくれた。そして、自分の実家でもあるような気持ちになれた。
「お母さん、二郎君ありがとう。やっと解放された気分よ。」
翔子は笑顔で言った。
「良かったよ、ほんとに。じゃあ先ずは、乾杯しますか。」
僕は、翔子とお母さんのグラスにビールを注ぎながら言った。
「林田君、私が注いであげる。」
お母さんが僕のグラスにビールを注いでくれた。
「ぷはぁ、旨い。五臓六腑に染み渡るぅ。」
翔子は豪快にビールを一気呑みし、そう言った。
「翔子、合格祝い、どうぞ。」
僕は、18金のエンジェルコインのネックレスを贈った。
「えっ、ありがとう。開けていい?」
とても嬉しそうな顔で言った。
「可愛いね。ありがとう。白衣の天使、頑張ります。」
翔子のお母さんも喜んでくれて、早速、お母さんが翔子にネックレスをつけてあげた。
「私は手料理だけど、心を込めて沢山作ったからね。」
お母さんが作ってくれた料理は、豚バラ肉を厚めに切った肉じゃがと鶏モモを1枚豪快に揚げた唐揚げ10枚、鯛の塩釜焼き、エビたっぷりの茶碗蒸し、だし巻き卵、お赤飯、それぞれ10前づつ食卓いっぱいに並べられた。まさにお袋の味だった。
「お母さんありがとう。嬉しい。」
翔子はお母さんを抱きしめた。
また、翔子は公立の総合病院への就職も決まり、勿論、産婦人科病棟の勤務で、社会人として順調に歩み出した。
そんな中、僕の身体に異変が訪れた。益田刑事の刺客として、加藤と一緒に仕事をするたびにシンジ君が活躍してくれる。それと、加藤から空手も手解きされて、シンジ君である時の時間がだいぶ増えた。
「最近、思うんだけど、シンジ君と交代するとさぁ、表情だけじゃなくて、腕とか脚の筋肉が盛り上がって太くなる感じがするんだ。大胸筋だって盛り上がるし、身長が5cmくらい高くなる気もする。」
加藤と2人でトレーニングを始めようとすると、そんな事を言い出した。
「じゃあ、シンジ君と代わるよ。おお、ほんとだ。カトちゃんよく気づいてくれたな。俺もシャツとズボンがきつくなる気はしてたんだよ。なんだろうこれ。」
僕からシンジ君に代わると2人が言う通りだった。また、僕に代わると腕や脚、身長が萎むように元に戻る感じがした。
実際に、腕と脚、身長、体重を測ってみると、シンジ君に代わると太く、高く、重くなった。ついでにスマホで写真を撮ってもらい比較してみると同一人物とは思えない変貌ぶりだった。
「お前らさぁ、6人ともしっかり役割があるだろう。身体の中も6パターンあるんじゃないか。順番に代わってみろよ。」
加藤は言った。そして、同じように身体測定して、写真を撮ってみると、それぞれ変わってた。
「大発見だな。凄いよお前ら。」
加藤は言った。
そのデータ、画像を持って、翔子の休日の日に会いに行った。
「二郎君、内も外も6人になっちゃうのかしら。」
翔子の部屋で、身体測定データと画像を見てもらった。
「どうなるんだろう。頻繁に僕と代わるシンジ君がはっきりと僕との違いが分かるよね。だから他の人達も僕と代わる時間を長くすると、どんどん違いがハッキリするのかな。」
僕は言った。
「でも、私もそうなっちゃうの?いや、翔子はならないんじゃあないかな。二郎君は、実際、命掛けの緊迫した状況でシンジ君と代わる場面が多いから、神経系と筋系、内分泌系の同時活動が劇的に変化するはず、その影響が大きいのかも知れないね。」
翔子が不安がると、ユキが交代して、そう言った。
「私もそうだと思う。やっぱり気になるんだけど、私とかアヤナミが一週間くらい外に出たらどうなるかしら?」
歌音が交代して言った。
「試してみたら良いじゃん。」
杏が代わって言った。
「翔子ちゃん、今日はよく代わるのね。みんなが興味あるからだね。」
歌音が言った。
「えっ、無くなった?」
歌音はパンツの中を覗き込み直ぐに見えるであろうペニスが見えなくなった。そう言い、パンツの中に手を突っ込んだ。
「小さくなってる、小さくなってる。えっ、えっ、無くなった。」
歌音はそう言って、翔子に目を合わせ、パンツに突っ込んだ手の動きも止めた。
「あっ、おっぱいも有る、おっぱい、おっぱい。ノーブラだ、やらしいんだ。」
杏が喜んで言った。すると、歌音は、両手を胸に当てた。
「はぁっ。」
一言発した。
「脱ぅ〜げ、脱ぅ〜げ。こらこら、杏、ふざけないの。」
杏からユキに代わって言った。
「いいのよ、いいのよ。ちょっと恥ずかしいけど、脱ぐ。ユキさん、構わないかしら、確かめて欲しい、女の身体なのか、自分でも確かめたいの。」
歌音は言った。
「あ、あ、私はいいよ。翔子は。いいよ、不思議、二郎君の身体が女に、なんだよね。」
ユキと翔子は言った。
歌音はチノパンから脱いだ。スネ毛をはじめ、両脚の体毛は二郎に比べ、だいぶ薄い。そして、肌がしっとりしてて、ヒップライン、太腿から脹ら脛にかけた曲線も女性らしい柔らかさを感じる見た目である。
「歌音さん、綺麗。二郎君じゃない。」
翔子が思わず言った。
次に、白いボタンダウンのシャツの上のボタンから外していった。Cカップ程か、巨乳では決してない。シャツを脱ぐと、チラッと脇毛が見えたが、二郎より四分の一くらい薄くなってた。真っ直ぐ立った姿からは、ふっくら柔らかそうな乳房で、正に日本人に多いと言われる三角状で、胸骨と左右のピンクな乳頭を結ぶ線が、正三角形になった、いわゆる、ゴールデントライアングルと言われる綺麗なバストの位置関係になっている。その下から降りていくボディーラインはウエストにかけて絞られて行き骨盤に届く位置から膨らんでいく、くびれが強調された美しい曲線を描いてる。
最後にボクサータイプのパンツを脱いだ。アンダーヘアも二郎よりだいぶ薄く、上になった底辺から4、5cm下に60°くらいの角度になった二等辺三角形になっており、Vラインのムダ毛処理は必要ない程のボリュームである。
「女の身体だよ。」
また、翔子は思わず言った。
側の壁に掛けられた姿見のカバーを開き、歌音は身体を確認した。納得した表情で、手鏡を取った。両脚を肩幅より少し広く開きその手鏡をあてた。ヴァギァナが覗けた。
「ちゃんと女体になってる。」
歌音は目眩に襲われたが、倒れないように踏ん張った。翔子も手鏡の中を確認した。
「ほんとだ。」
口が閉まりきらないまま、歌音と目を合わせた。
「翔子ちゃん、みんなと相談するね。」
歌音は言うと、手鏡を自然に手のチカラが抜けて、ゆっくり床に落ちた。同時に、白目を剥いたり、頭が揺れたり、トランス状態に陥った。
〝二郎、どう思う?〟
歌音は聞いた。
〝戸惑ってるよ。バケモノだよ僕は。〟
二郎は答えた。
〝良いんじゃないか。1つの身体も6通りになった訳だね。僕らだけでも、パラダイムシフトしないとね、二郎。そもそも、僕らは子宮の中で受精卵になって着床すると、何億年かかけた進化を10ヶ月で済ますんだ。二郎と言う男の人格から女性の人格が解離した訳だよ。そして、僕らは今のところ6人格を保っていて、それぞれ支え合って生きてきた。桃ちゃんが統合された事実はある。でも、5人は統合されないんだ。もしかすると、二郎も含めてみんなが主人格になったんじゃないか。そこで、身体もアポトーシスや蛋白質合成が超急速化して、変態を遂げれるようになったって、理解したらどうだ。そうだなぁ、有名な学者さん達は、パラレルワールドが有るって言うだろ。それは、その世界に行けた人しか分からないよ。科学的に証明された事ではないよな。でも、僕らの身体の変化は、加藤と翔子ちゃんも確認してるんだ。〟
一文字さんは言った。
〝俺が代わると5cmは身長が伸びるもんな。〟
シンジ君は言った。
〝私はどんな身体かしら、楽しみ。〟
アヤナミは言った。
〝俺は身長が低くなりそうな気がする。〟
佐助は言った。
〝二郎、大丈夫。受け入れて行かないとね、現実を。〟
歌音が言い、一文字さんにこの事態を解説、納得された形で6人の会議は終わった。
「ふぅ、一応、みんなで受け入れる事になったわ。二郎がね、少し沈んだかな。」
トランス状態が収まり、歌音が翔子に言った。
「二郎君、私は受け入れるよ。二郎君、愛してるわよ。」
翔子は言った。
「ありがとう翔子ちゃん。」
その後、アヤナミに代わり、歌音との違い、特に、スリーサイズを比較した。アヤナミは、歌音よりバストとヒップが少しだけ大きかった。アヤナミのバストはDよりのCカップだった。
「アヤナミちゃんのサイズのブラジャーが良いわよね。翔子の借りて、UNIQLOに行こう。後は、エステで脱毛しなきゃ。」
ユキさんが言い、買い物に出かけた。
後日、加藤の家へ行き、益田刑事も来てもらい、加藤も共に、この『変態』の事を告げた。益田刑事は喜んだ。加藤は、また、『バケモノ』と一言だった。
「二郎君、活動の幅が広がるわ。女性しか入れないところも行けるからね。例えば、トイレ、お風呂、更衣室とか。」
益田刑事は言った。
「良いなぁ、そんな時は俺も女装しようかな。」
加藤は言った。
「何言ってんだよ。歌音やアヤナミになると、外の事はあまり見えないんだ。二人が見たり、聞いたりする事が分かるから、なんて言えばいいかなぁ、言葉で表現出来ないな。理解出来てるんだ。」
二郎はあやふやな説明になった。益田刑事は加藤を睨みつけた。
「加藤君、シンジ君とトレーニングするでしょ。たまに、僕と代わってるの知ってるよね。歌音とアヤナミもイメージの中では出来てると思うんだけど、実際の身体でもやったほうが良いと思うんだ。先ずは、アヤナミと代わっていいかい。」
僕は加藤に言ってトイレに入った。身体が変わる時間は、1分程しかかからなくなった。着替えて少し経つと完了だ。
「加藤君、宜しく。」
アヤナミとして、トイレから出て来ると、凛とした姿で加藤に言った。
「嘘、こんなに変わるの。別人ね。」
流石の益田刑事も驚いた。
「絢子さん、指紋も変わるよ。恐らく、声紋も。」
アヤナミは自慢げに言った。
「良かったぁ、美人だアヤナミちゃん。」
加藤は喜んだ。
加藤と組手をした。チカラが若干、劣るけど、スピード、タイミング、キレは、シンジ君となんら変わらない。
「凄ぇなぁ。充分強い、強いよ。もし、シンジ君がやりたくないなんて言ったら、アヤナミちゃんでもイケるよ。」
加藤は言った。
「歌音と代わるわ。」
再び、組手を再開した。
歌音は合気道や古武術の要素が増えた。弱いチカラで、バッタバッタ、加藤を投げ飛ばした。
「参った。歌音さん。合気道、躰道の要素が出て来るね。俺が苦手なタイプ。」
加藤は頭を掻きながら言った。
「頼もしい。実に頼もしい。」
益田刑事はゆっくりした拍手をしながら言った。
「空手だけじゃ足りねぇ。俺、八極拳勉強します。沖縄行って来ます。」
真面目な顔で加藤は言った。
加藤が沖縄に修行に行ってる間、僕は刺客の仕事を独りでこなした。ありがたい事に、益田刑事は、女性強盗集団や女性詐欺軍団の壊滅を指示した。まぁ、問題無くこなせたんだけど、歌音とアヤナミには良い経験になった。
僕が6回生で、国家試験対策を始めた頃に、加藤は帰ってきた。スキルアップは成功したようだ。
「私、警察辞めるわ。」
突然、僕と加藤に益田刑事は言った。
「一般社団法人は、理事が必要だから、あんた達は理事になってもらうわね。定さん、二郎君が知ってる横井定幸さん。加藤君にも今度紹介するね。その人には監事をお願いしたから。益田防犯研究所を立ち上げます。」
益田刑事は言った。
「えっ、もう立ち上げたの?」
加藤は益田刑事に聞いた。
「4月からよ。その頃は二郎君、研修医してると思うけど、大丈夫よね。加藤君は強くなったの?もっともっと強くなりなさいよ。」
益田刑事は言った。
僕は、大学を卒業し、医師国家試験に合格した後、研修医となった。在学中に臨床マッチング制度で選出された母校の附属病院で初期臨床研修を受ける事になった。
最初の6ヶ月は内科で研修した。この時に、僕ら6人のあらゆる検査を秘密裏に実施した。
先ずは、僕の全身MRIを撮影した。特徴的な部位は、大脳皮質に見られた。前頭葉の中心前回に見られる運動野と頭頂葉の中心後回に見られる感覚野の体積が一般的な人のそれより、1.5倍あるのが分かった。それと、大脳辺縁系を構成する、扁桃体と海馬が1.3倍大きい体積になっていた。
次に歌音をMRIで撮影した。脳内の違いは、脳梁が太くなってた。これは、一般的にも見られる事で、女性の方が20%太いとされている。驚いたのは、卵巣が無いのだ。。女性器、子宮は見られたが卵巣の形はあるも、中身が無い。すなわち、歌音には、生殖能力が備わってないのだ。
〝歌音、大丈夫、ショックじゃない。女性として。〟
僕は聞いた。
〝うん、大丈夫よ。私達が変化出来る限界なんじゃないかしら。もしも、私が身篭ってしまうと、二郎や一文字さん、シンジ君にも代われなくなるからね。私達に産休、育休は有り得ないのよ。〟
もしかすると、1、2年くらい歌音で居ると子供が産めるようになるかも知れないと思った。僕が勝手に僕の中から歌音を生み出してしまい、もしも歌音が、歌音としてこの世に生を受けてたら、歌音らしく生きて行かれたろうにと思う次第だった。
6人に共通して言えるのは、大脳皮質運動野と感覚野の体積の大きさだ。日を改めてfunctional MRIで、その部分の神経細胞活動を調べる事にした。
結果、歌音が1番に運動野と感覚野の細胞活動の体積が大きく、次にアヤナミ、そして、一文字さん、シンジ君、僕、佐助の順で細胞が活動する体積が小さくなっていた。
これは、神経細胞が多く活動してる歌音が秀でている訳ではなく、6人が6通りの神経活動パターンがあると考えた。正に、人格が6人明確化していて、それぞれ身体の形、使い方も明確化されたのであろう。
「翔子、凄い結果だよ。」
僕は、勤務を終え会う約束をしてた翔子に言った。
「二郎君、大丈夫よ。うちに行こう。美味しいの食べよう。」
沈んでる僕を気遣い、翔子は優しく言ってくれた。
翔子のマンションに着くと、焼きそばを作ってくれた。とても美味しくて、何もかもを忘れさせてくれる程だ。とても、前向きな気持ちになれた。
「翔子、このデータ見て、何だか罪悪感を抱いてしまったんだけど。これが現実なんだな。」
僕が冷静になれて、他の5人は静かにしてくれた。それと、ユキと杏も静観してくれた。
「良いんじゃない。私は二郎君に対しての気持ちは変わらないわ。だって、苦しんで、治療して来た私を素直に応援してくれたんだもの。2つの資格が同時に取れたのも二郎君のお陰よ。それと、お母さんも喜んでくれて、今は、放課後デイサービスで子供達のために頑張ってるわ。それなりに考えながら、生き生きしてる。二郎君と出会えたのがきっかけよ。」
涙目で翔子は言った。
「ありがとう、今、言ってくれた話を忘れないようにするよ。頑張るよ。」
穏やかな表情で僕は言えた。
僕は、初期臨床研修の救急医療、地域医療の研修を終え、後期研修に入った。まずは、産婦人科で研修医を務めた。ちなみに、佐助は大喜び。
過酷な研修だったけど、命の誕生を感動的に受け止められるようになった気がした。両親は殺してしまったけど、それ以降、人を殺めなかった事を五人に感謝した。特に、シンジ君に。
〝君だから、俺はそうしただけだ。違う奴ならバンバン殺しまくりだったと思うぜ。それだけじゃないさ、俺が思う、俺自身の姿にさせてくれたんだ。これ程嬉しい事はないさ。みんなそう思ってるよ。〟
シンジ君は言ってくれた。
〝二郎、あなたに感謝よ。〟
歌音も言ってくれた。
一方、捜査一課を退職した益田絢子は、小規模普通法人の一般社団法人を立ち上げた。『益田防犯研究所』である。その研究所の業務内容は、益田が執筆した防犯、特に、暴行からの護身方法を綴った本の出版や演習を交えた護身術の講習会、警視庁から殺人や暴行事件の犯人のプロファイリングの依頼を受ける等、益田自身が遣り甲斐ある仕事を出来る環境を作った。そして、加藤は工事現場の作業員を辞め、社員となり、理事も勤める事になった。僕と翔子も法人の理事になった。
加藤と僕らは護身術の講師を勤めた。僕は毎回参加出来なかったものの、女性限定の護身術講習を開く時は、前以て連絡が有り、歌音やアヤナミに代わって講師をした。2人は大人気で毎回、大盛況だった。
また、横井が法人の監事に就任したため、周りからの信用が高い法人となり、なかなか多忙な職場になった。
その頃僕は、後期研修の精神神経科で学び、研修後、大学院に進み博士号の学位取得を目指すため、研修医をした大学の附属病院の精神神経科へ入局した。
「江戸幕府の初期の頃にね、三代将軍の徳川家光が側近6人を六人衆って呼んだの。二郎君は私にとって六人衆ね。忙しくなると思うけど、宜しくお願いします。」
益田は丁寧に僕にそう言い、一礼した。
「二郎君格好良いなぁ。俺もなんかないかな益田さ〜ん。あっ、私は、益田さんの右腕であります。」
忙しいながらも、加藤がそんな冗談が言える和気藹々とした雰囲気の職場であった。
勿論、加藤と僕らの裏稼業は継続した。しかし、2人だけでやっていくのが限界に近づいたため、新たな人間が3人も加わった。そのため、益田の研究所の仕事、裏の仕事は益々、厚みが出て来た。
医師になった僕は、益田と同じくらい、巧みで身勝手で、自己中心的な犯罪者が嫌いになった。いつまで続けられるか定かで無いが、一生をかけて、この世から犯罪を減らして生きたいと、日々、考える生活を送るようになっていた。
殺した後悔は消え失せた。
おわり