第捌話 無知
「その気になったみたいだね。なら、君達の言葉で話をするよ。でも、全ては話さないつもりだけど。自分達でみつけて、解決策を考えていかないとね。それと、手遅れかもしれないし、まだ間に合うとかも自分らで判断しなきゃね。」
「厳しくはないか。」
「そんなことないさ。僕らだって、問題をみつけて、解決策を考えて生き延びてきたわけだから。」
世界の人口がピーク時と比べると半数以下に減少し、2/3の国々が破綻し、食料不足や経済成長もマイナスの数値を更新し続け、人類滅亡が近しい時代だった。
「お願いします。勉強させて下さい。また、我々人類は、古の繁栄を取り戻したいのです。」
ある日、総理官邸に現れた2体の地球外生命体(外体)と総理大臣が相談し始めた。
「繁栄はもう無理だよ。君達は酸素を使いすぎたんだから。大気中の酸素濃度が激減してるは知っているでしょ。」
「君達がいう、ミトコンドリアに依存しすぎたんだよ。確かに酸素は、火力を高めてくれるから熱源が確保できて便利なのは間違いではないけど、元々は物を燃やしたり、鉱物を劣化させるために使えば良かったんだよ。理解できるかなぁ。それに加えて核分裂まで使ってしまったからね。」
2体の外体は呆れ顔だった。
「太陽の光の方が効率いいのに、葉緑体だよ。それがポイント。」
外体達の話を総理大臣は、メモを取るのに一生懸命だった。
「そうですか、ミトコンドリアと葉緑体ですか、久しく耳にしない単語ですねぇ。」
総理大臣はボソッと口を滑られた。
「えっ君は、分からないの。地球上の生命体、特に、強進化を遂げてる生命体の基本的なホメオスタシスを理解するためには必要な知識なんだけど。」
「義務教育が間違ってたんだよ。自分達を知るためのことからどんどん離れていく内容になったからね。生命科学の観点から教育を考えてなかっただろ、均一化しようとしたり、他国より高い点数を取ろうとばかり考えてたよね。それが間違いなんだ。」
外体の2体は、すかさず指摘した。総理大臣は俯き口を紡ぐだけだった。
「よし、専門家はいるよね。その人達にミトコンドリアと葉緑体がポイントで、酸素を使い過ぎだっていってあげなよ。そして、その2つをどう使うか研究してもらうんだ。分かったかい。」
「僕らは一旦帰るよ。見守ってるからね。」
外体達は、光に包まれて消えていった。
総理大臣は翌日から、医学や生物学、自然科学の専門家にミトコンドリアと葉緑体のことをあたった。しかし、全員が笑うばかりで、総理大臣の話に耳を傾ける者はいなかった。決断した。総理大臣は自分で勉強していこうと。
1年が経過した。総理大臣は、葉緑体とミトコンドリアのことの理解を深めてた。酸素を使い過ぎたということは、ミトコンドリアを取り入れた地球上の生命体が地球と共生する方向性を間違えたのかと考えるようになった。また、葉緑体は基本的に植物にあるもので、人類がどのように活用したらいいのか悩んでいた。しかし、人体に葉緑体があると、人類は食物を食す量を減らせるであろう。酸素ではなくもっと二酸化炭素を消費することができるだろうと考えるようになっていた。
「やぁ、久し振りだね。専門家達は見向きもしないみたいだね。でも、君は確実に知識が増えたみたいだ。頑張ってるね。」
「片方は酸素を使って、他方は二酸化炭素を使って身体を働かすエネルギーを作っているんだよ。そこがポイントさ。君もこの二つをどう扱えはいいのかってところまで考えるようになったようだね。さて、この後はどうする?」
2体の外体が再び現れ、一体がヒントを与えた。
「そうか、2つの機能を1つでできるようになればいいんだ。葉緑体にミトコンドリアの機能が備わえば、酸素を利用することができる。分かりました。その方向で考えていきます。実験方法を考えないといけないですね。」
総理大臣の表情は明るくなった。
「おっ、いいところに視点を向けたね。頑張って、時間がないよ。」
一体の外体は総理大臣を褒め、アドバイスを施した。
「へぇ、人類も捨てたもんじゃないねぇ。」
もう一体の外体は嫌味っぽい雰囲気を出した。
「ありがとうございます。私は専用の実験室をつくります。お褒めの言葉ありがとうございます。」
総理大臣は自分自身の成長と謎がとてけきたことに歓喜した。二体の外体は、それ以上のことは口にせず、光に包まれ消えていった。
更に1年が過ぎた。
「任期が後1年なんです。去年、皆さんがいらした時と何ら進展がなくて、もう少し教えてもらえませんか。」
頭は白髪になり、目の下にはくまができており、この1年間で10年分は歳をとったかのような変貌ぶりで、2体の外体が3度現れた時、総理大臣は窶れ顔で懇願した。
「まだ専門家は協力してくれないのかい。困ったねぇ。恐らく、君の限界だよ。同情するよ。」
1体の外体は人類がパラダイムシフトし辛い生き物だと認識はしていたが、ここまで酷いとは想像していなかった。
「じゃあ、答えを教えてあげるよ。葉緑体にミトコンドリアのDNAを注入して、葉緑体が光合成の中でATPを作れるようにするんだ。そうすれば、酸素を使う量は減るし、二酸化炭素を消費量が増えるんだ。そうすると、オゾン層が再生されて太陽光から、紫外線を浴びることも減らせるよ。どうやってミトコンドリアからDNAを抽出するか、次はそこが問題になる。君は専門家の力を借りるべきだよ。」
もう一体の外体は、その窶れた姿を憂い、想定外なことまで教えてしまった。
「この人、パニくるよ。でも、研究を進めていけるようにした方がいいか。」
また、外体達は光と共に消えていった。
総理大臣は、嬉しい反面、そういったことができる人に心当たりはなく、余計、不安を強くした。
5年後、2体の外体が総理大臣に会いにくると、消えていなくなっていた。
「手遅れだったか。仕方ないか。絶滅したかな。まあ、地球中を探してみよう。人間のことだ、少しは生き延びてる連中がいるかもしれない。」
「それにしても、分からないってことは、身を亡しかねないな。恐ろしいよ。」
2体の外体は地球を隈なく見回っても人類を見つけ出すことはできなかった。しかし、森は生い茂り、透き通った水が川をながれ、海も青々と輝き、人類以外の哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類は勿論、昆虫や節足動物が生き生きと暮らしていた。
〝知らない〟ことの恐ろしさを2体の外体は再認識させられたのだった。
終