『そばがき』
お気に入りのソバ屋のメニ
ューに「そばがき」があれば、
ぜひ試したい。
そばがきほど、それぞれの店
の個性が出るものはない。いわ
ゆるソバ切りは、太さや色合い
の差こそあれ、どれも麺状とい
う定形内だが、そばがきには
決まった型が、まったくない。
搔きっぱなし、蒸してムース
のドーム状、木葉型に形成して
湯へ浮かべる、すいとん状に
ちぎって具を添えた汁にしたり、
その堅さも千差万別。陶芸の
粘土のようにずっしりした重量
糸から、口に含めばまろやかに
溶けていくふんわりした軽量系
まで。
食べ歩いた中では、山形のそば
がきが際立つほどで、深い感銘
を受けた。タイプは搔きっぱな
しが主流。
生醤油、納豆、黄名粉、胡麻。
この地方では「かいもち」と呼ぶ
が、つきたての餅にまさる、
優雅に花開く芳香には屈服せざ
るをえない。
そばがき。ソバ屋の余技でもあり、
見せ場のひとりでもある。