特定秘密保護法が、戦前の軍機保護法に酷似しているという指摘がされています。東京新聞と信濃毎日新聞の記事を転載します。
■「軍機保護法 秘密保護法と酷似 スパイ濡れ衣 宮沢・レーン事件」(東京新聞)
2013/10/14
戦前・旅行先の伝聞を伝えただけで、大学生がスパイの濡れ衣を着せられ逮捕投獄された宮沢・レーン事件。当時の「軍機保護法」違反に問われた。この法律が、安倍政権が成立を目論む特定秘密保護法案にそっくりなのだ。関係者は、法案が成立すれば、悲劇の再来を招くと訴える。(出田阿生記者)
◇「兄の悲劇で、両親も私も身体から涙が抜け切ってしまった。同じような悲劇が、誰かの家族の上にも降りかかろうとしているのです。みなさん、何としても秘密保護法案を通さないで下さい。宮沢事件はまだ終わっていません」
米・コロラド州在住の秋間美江子さん(86)は、十日に東京都内で開かれた市民集会にこんなメッセージを寄せた。秋間さんの兄は、戦中に北海道帝国大の学生だった宮沢弘幸さん。太平洋戦争が開戦した一九四一年十二月、軍機保護法違反容疑で逮捕された。
米国人の英語教師レーン夫妻に「軍の秘密を漏らした」とされた。宮沢さんは、英語をはじめ数カ国語を習得し、外国人の知人が多かった。そのため特別高等警察に目を付けられていた。宮沢さんは懲役十五年の実刑判決が確定。拷問と過酷な受刑生活で結核になり、敗戦後、釈放されたが、二十七歳の若さで亡くなった。
一八九九年制定の軍機保護法は、軍事上の秘密を探知したり、漏洩した者を処罰する法律で、一九三七年の改定で秘密範囲が大幅に拡大された。
宮沢さんがこれほどの重罪とされた「秘密」とは、何だったのか。裁判は秘密保持のため非公開で、判決文は破棄されるか、伏せ字だらけ。詳しい内容が判明したのは一九九〇年代になってからだ。小樽商科大の荻野富士夫教授が、戦中の内務省の部内冊子「外事月報」に、地裁判決の全文が掲載されているのを見つけてわかった。
なんと、主な容疑は「樺太に旅したときに偶然見かけた根室の海軍飛行場を、友人のレーン夫妻に話した」ことだった。この海軍飛行場には一九三一年、米国人飛行士のリンドバーグが北太平洋航路調査の途中で着陸し、国内外の新聞で大々的に報じられ、世間に知られていた。
軍事保護法は当初、国家の存亡にかかわるような軍事機密を漏らした者を罰する目的で成立した。ところが、戦局の緊迫化とともに、「観光でたまたま撮影した風景に軍事施設が写っていた」といったような軽微な理由で、次々と一般市民が逮捕される事態になった。
事件を故上田誠吉弁護士とともに調査した藤原真由美弁護士は「秘密漏洩事件は、事件自体が『秘密』にされてしまう危険が常にある。宮沢さんは暗黒裁判で重罪にされた。秘密保護法案も軍機保護法と同じく、『保護に値する秘密』なのかどうかを第三者が検証できる仕組みがない」と指摘する。
秘密保護法案では、外交・防衛・スパイ活動・テロ活動の防止に関わる情報を「特定秘密」と指定し、漏洩に最高十年の懲役刑を科す。問題は、軍事保護法と同じく、行政機関が勝手に秘密を指定し、それを検証する手段がないことだ。
藤原弁護士は訴える。「国が表に出したくない情報を何でも『秘密』に指定し、それを口にした市民が逮捕される。秘密保護法が制定されてしまえば、そんな社会がやってくる危険がある。宮沢さんの悲劇を教訓に、軍機保護法の再来を許してはならない」
■信濃毎日新聞社説 「秘密保護法 かつて来た道たどる懸念」
09月22日(日)
1937(昭和12)年2月、軍機保護法改正案が帝国議会に提出された。軍事機密の漏えいを防ぐための法律を全面改正しようというのである。日中戦争の発端となった盧溝橋事件の5カ月前のことだった。
なぜ改正するのか、杉山元(はじめ)陸軍大臣が説明している。
日本の国力向上に伴い、各国の諜報活動が活発化している。兵器開発競争も激化している。40年前に制定された今の法律では十分に対応しきれない―。
▽外国に漏らす目的で機密を探知、収集する行為の罰則強化▽業務上知り得た秘密をうっかり漏らす行為への処罰化▽漏えいを「扇動」する者に対する処罰の新設―などが改正の中身だった。衆院は10日間のスピード審議で改正案を成立させている。
以上の経緯は2011年12月発刊の防衛研究所紀要に詳しい。
<「知る権利」が危うい>
安倍晋三内閣が特定秘密保護法の制定に向け準備を加速させている。10月召集予定の臨時国会で、国家安全保障会議(日本版NSC)を新設する法案とセットで成立させたい考えだ。
安倍首相は集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の見直しも目指している。そんな首相の姿勢と照らし合わせるとき、秘密保護法がかつての軍機保護法と二重写しに見えてくる。
それは杞憂(きゆう)、心配のし過ぎなのだろうか。
私たちは社説で秘密保護法の危うさを繰り返し指摘し「法制化は断念を」と訴えてきた。
保護法のどこが問題か、あらためて確認しておきたい。第一は、秘密の範囲が政府の勝手な判断で広がりかねないことだ。
秘密とする対象は「行政機関の長」が指定することになっている。防衛大臣や外務大臣の腹一つで、不都合な情報を隠すことができるようになる。
どんな種類の情報を秘密にするかは「別表」で特定するという。政府の説明資料の「別表」を見ると、例えば「自衛隊の運用」と書いてある。こんな漠然とした規定では、自衛隊についての情報は一切秘密となりかねない。
秘密にする期限は5年で、延長できる。無期限で非公開とすることも可能な仕組みになる。
問題の第二は厳罰化だ。秘密を漏らした公務員には最高10年の懲役が科される。内部告発者への威嚇効果を狙ったものだろう。
第三に、国民の「知る権利」が制約される心配も大きい。「秘密の保有者の管理を侵害する行為」は「未遂、共謀、教唆、扇動」を含め罰せられる。報道機関の取材が違法と見なされ、処罰される可能性が否定できない。
秘密を広く指定し、そこに触れようとする行為は厳罰に処す。かつての軍機保護法と秘密保護法には底流に同じ発想が流れている。杞憂で済むとは言い切れない。
<「尊重」のごまかし>
日本弁護士連合会や日本ペンクラブは、保護法に反対する声明を発表している。自民党内には、法律に「知る権利」を尊重する旨を書き込むことで批判をかわそうとする動きがある。
「知る権利」の尊重をうたっても、法律の危うさが解消されるわけではない。小手先のごまかしを受け入れるわけにはいかない。
本来国民に開示すべき情報まで隠してきたのが政府のこれまでの姿勢である。例えば沖縄返還に伴う密約だ。日本が1億ドル規模以上の裏負担を受け入れる約束を、米国と密かに結んでいた。
政府はいまだに密約があったことを認めない。交渉に当たった元外務省高官が法廷でその存在を証言しても、「確認できない」の一点張りだ。
例をもう一つ挙げる。航空自衛隊幹部が懲戒免職になった2007年の事件である。南シナ海での中国潜水艦の事故を一部メディアが報じた。記者の質問に応じ事故について説明した1等空佐が、自衛隊警務隊の強制捜査を受けたあと、情報漏えいで処分された。
記者に話をすることが罪に問われるとなれば、取材を受ける公務員はいなくなる。「知る権利」や「表現の自由」に無理解な体質を裏書きする出来事だった。
こんな政府に秘密保護法という“劇薬”は持たせられない。
<自由を守るために>
秘密保護法が成立したら自衛隊や在日米軍の動きがこれまで以上に見えにくくなる可能性が高い。例えばオスプレイを監視する活動も制約を受けるだろう。
特定秘密に指定された情報を扱う担当者は「適性評価」の対象となり、飲酒の程度や借金の有無まで調べられる。秘密情報に触れる機会のある民間人も秘密保持を義務付けられる。日本は息苦しい社会になりそうだ。原発に関する情報も「テロ防止」の名目で秘密にされるかもしれない。
国家公務員の情報漏えいは国家公務員法や自衛隊法で禁止されている。罰則もある。新たな法の網をかぶせる必要はない。
(ハンマー)
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