それ以上に問題は、「一般の団体が組織的犯罪集団に一変した場合、その構成員は一般の人ではなくなる」という金田法相の発言です。
5月29日の朝日新聞は、「住民運動「共謀罪」適用の不安」の見出しで、杉並区の小中一貫校の建設に反対する住民の運動と名古屋市のマンション建設反対の運動が弾圧されている事例を報じています。遠い昔の話ではなく、今まさに安倍政権下で起こっていることです。
杉並区の例は、自宅そばの、小中一貫校を作るために校舎の高さを2倍にする建て替え工事に反対するため、60~70代の隣人10人前後で校門前でプラカードを掲げたところ、任意の事情聴取として杉並署で数時間の取り調べを受けたといいます。さらに業者が「工事妨害だ」と東京地裁に仮処分を申し立て、「工事関係者の前に立ちはだかってはならない」などとする決定が出ました。「普通のじいさん、ばあさん」が、校舎建て替え反対を表明しただけで、威力業務妨害をする犯罪集団に一変させられたわけです。
名古屋の例は、マンション建設反対の運動をしていた男性が、現場監督を突き飛ばしたという告発を元に「暴行罪」で逮捕・起訴された話です。
いずれの例も「普通の暮らし」をしていて、地盤調査の不安や日当たり環境の悪化などを懸念して学校校舎やマンション建設に反対した「一般人」です。政府に対して反対の声を上げたがゆえに「犯罪集団」に一変させられたのです。
全国各地で市民団体を狙い打ちして逮捕や家宅捜索する事例があいついでいます。沖縄県高江のヘリパッド反対運動に対しての山城博治さん不当逮捕・長期拘留は最たるもので、罪状はでっち上げも甚だしいものです。
2015年9月には、9人でレンタカーを借りて、借り賃、ガソリン代、高速代などを割り勘して埼玉県から福島県までの原発跡地へのツアーを行ったグループを「無許可営業(白タク)」で家宅捜索・逮捕ししています。
2016年5月には、市民団体が、大阪市内の公共施設の部屋を、割引が効く所属労働組合名で借りたところ、「詐欺罪」で逮捕・家宅捜索されました。
いずれも、市民団体が詐欺集団、無認可営業団体に一変したわけではありません。誰もが日常的にやっている割り勘でのドライブや、施設から告発されたわけでもない名義詐称が逮捕・家宅捜索容疑となっているのです。市民団体が罪を犯したから捜査・逮捕したのではなく、逮捕するために罪を作ったのです。
つまり一変したのは、団体の方ではなく、政権、公安・警察の方です。
※建設反対運動も「共謀罪」捜査対象? 弁護士ら懸念(朝日新聞)
http://digital.asahi.com/articles/ASK5Q5TVQK5QUTIL060.html
※レンタカー代均等割りだけで逮捕――埼玉公安の悪質な弾圧(週間金曜日)
http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/?p=6532
※労組かたり会議室を半額制度で利用 活動家3人逮捕 大阪(産経新聞)
http://www.sankei.com/west/news/160519/wst1605190050-n1.html
“犯罪集団を未然に取り締まるならいい法律だ”と思う人は、自分は犯罪集団の側にはいないと思っています。また犯罪集団はとおい存在と思っています。しかし、政府にとっては、一般人と犯罪集団との区別などありません。政府に反対する人や工事を止めようとする団体は犯罪集団であり、取り締まりの対象です。いつ自分に矛先が向くかわかりません。
そして捜査の結果、仮に「疑い」が晴れて不起訴・無罪となったとしても、一定期間上記のような捜査をされ、拘束されるという精神的・肉体的苦痛、個人生活・社会生活への打撃ははかりしれません。冤罪の多発も心配されています。
(ハンマー)