『「心の除染」という虚構』(黒川祥子著)という本があります。除染先進都市伊達市が、いかに放射能被害を懸念する市民たちを切り捨てていったかを克明に描いています。何度も「はらわたが煮えくりかえる」行政の対応が出てきますが、ここから一つの例を紹介します。
伊達市は、福島原発事故後、市民の声を聞くこともせず、汚染の程度に応じて、Aエリア=面的除染、Bエリア=地区別除染、Cエリア=ミニスポット除染(全体の7割)にわけ除染を進めました。この過程で、ホットスポットのあるCエリアも全面除染を求める声があがります。しかし、伊達市は“安心できない心の問題”として無視し、仁志田市長は“除染すべきは市民の心だ”と言い放ちます。
ところが2014年1月の市長選を前に、「全面除染」を掲げる対立候補が登場し、仁志田市長は追い込まれます。そして態度を一変させ、“Aエリア同様、Cエリアも除染します”との方針に転換します。
しかし仁志田市長は、市長選で勝利したのち再び態度を一変させ、“そんなこと言った覚えはない”と全面除染を拒否します。
これに対して有権者から「公約違反だ」との声が上がります。
2016年1月に行われた市民との意見交換会では伊達市のやり方に対して批判が噴出し、伊達市の放射能アドバイザーであった多田順一郎氏に対しても辞任を求める声が集中します。
これに対して多田氏は翌日以下のように言いました。
「昨日は、除染という「行政サービス」を受けられないことに不満をお持ちの方々が、なかなか賑やかで・・・
自分達の思いこみの世界に引きこもってしまった人たちは・・・かつてのオウム真理教の信者や、今日のISに身を投じる若者たちのよう」
伊達市の放射能アドバイザーにとっては市長選前は、
“良識ある有権者のみなさん”
であったのが、
伊達市長選後は、
“自分達の思いこみの世界に引きこもってしまった、オウム真理教の信者や、ISに身を投じる若者たちのよう”
と、放射能と被曝に不安をもつ人たちを「テロ集団」であるかのように決めつけたのです。
政府・行政が市民の意見を聞こうとせず、反対する市民らをどうとらえているかを端的に表している例です。
政府が「一般市民は対象外」と何度繰り返しても、「犯罪集団」と決めつけられれば「一般人」ではないのです。自分は「関係ない」と思っていても、捜査の対象となりうるし、自白や供述を求められることにもなりえます。
友人、仲間、グループの人達が捜査の対象になることもあり得るし、自白や供述を求められることもあり得ます。
何より、常時監視される生活にならないように、政府に対してものもいえない世の中にならないように、お互いを監視しないといけない社会にしないためにも、この「共謀罪」法案は廃案にしないといけません。
(ハンマー)