フォトジャーナリストの森住卓さんの講演があったので聴きに行った。森住さんはいろんな写真を撮っているが、今回は劣化ウラン弾がテーマとのこと。なのでイラクのお話かと思いきや、米ソの核実験場であったセミパラチンスクとマーシャル諸島のお話に始まり、イラクのお話に入ったときには残り15分。時間的には少し物足りなかったのだが、しかしとてもインパクトのある内容だった。
セミパラチンスクでは、周囲の村々に放射能の被害が拡がり、奇形の赤ちゃんがたくさん生まれている。多くは長くは生きられず、生後数時間に亡くなった赤ちゃんはホルマリン漬けにされて病院の地下室に眠っていた。無脳症、頭が二つある赤ちゃん、目が一つしかない赤ちゃんなどの写真……。ドロン村では核実験が始められた1949年には1000人を超える人口があったのに、実験の終わった当時の生き残りはたった6人にまで減っていたのとか。もちろん生き残っている人の多くが、被爆による障害を抱えている。
マーシャル諸島でも同じ事が起こっていた。第五福竜丸の乗組員が「西から太陽が昇った」と証言しているが、ビキニ環礁の東180キロに位置するロンゲラップ島の住人も「西から太陽が昇り、手をかざすと指の骨が透けて見えた」のだとか。死の灰が降り注ぎ、急性放射線障害に見舞われた。アメリカはちゃっかりと住民を基地に連れて行き、血液採取などをしたが治療は一切しなかった。当時島外にいた住民も汚染された食物によって内部被爆し、現在も障害を持って生まれてくる子どもが多い。
と、米ソの核実験場の近くにする住民の悲惨さをさんざん見てからのイラクだった。そしてやはり、イラクでも全く同じ事が起こっていた。
劣化ウラン弾による被曝で、腹水がたまりお腹が大きく膨れあがった子ども。医者はなんとかしてやろうと針を刺して水を抜くが、麻酔もないため少女は痛みで悲鳴を上げる。
産まれてきたばかりの無脳症の子どもに衝撃を受ける森住さんに対し、医者はこう言った。「写真を撮りなさい。この子はあと数時間で死ぬ。あなたが写真を撮って世界中に発信することで、この子は産まれてきた意味を持つ」と。その無脳症の赤ん坊の写真を観た。その短い時間に写真を撮られるためだけに生まれてきた命とは……なんという絶望だろう。
現在ではスンニ・トライアングルと呼ばれる地域に劣化ウラン弾の影響が大きいのだとか。バグダッド、ラマディ、ティクリートを結ぶ三角地帯はスンニ派住民が多く、米軍への抵抗も激しい。もちろんその中には、あのファルージャも含まれる。森住さんはそれを「迂闊だった」と言った。森住さんはファルージャの住民虐殺を追いかけるのに夢中で、そこで引き起こされた夥しい核被害を見落としてしまったというのだ。
劣化ウラン弾は主に対戦車砲などで用いられる。以前観たファルージャの戦闘映像では軽機関銃やライフルの他にも、大砲弾が用いられていたし、空爆も行っていた。米軍の使用する武器のどれだけに劣化ウランが用いられているか分からないのが現状だが、かなりの程度標準装備されているというのは間違いあるまい。ファルージャにしてもラマディやティクリートにしても、大都市だ。人の多くする地域で劣化ウラン弾を用いているというのは本当に許せないことだが、信じられないことではない。使っている当の米兵がそれを「核兵器」だと思っていないし、そもそも「人を殺す倫理」など存在するわけないのだから。
2004年のファルージャ虐殺を遂行したのはアメリカの海兵隊で、沖縄の基地から派遣された。今問題になっている普天間基地も、米海兵隊基地だ。ファルージャで多くの住民虐殺を行い、大量の放射能をばらまく軍隊を「抑止力」の一言で容認できるその神経が信じられない。
「世界の中心はどこにあるか」――というのは確か辺見庸の本の中にあった一節。辺見庸をなぞれば、世界の中心は「抑止力」で普天間・辺野古を容認し日米共同宣言を作為した鳩山(そして菅)やオバマにあるのではなく、写真を撮られるためだけに生まれてきた無脳症の赤ちゃんにある。白血病に苦しみながら有効な治療を受けられない少女にある。
マスコミは永田町中心で、ファルージャどころか普天間や辺野古の住民目線すらない。日本の政府は「抑止力」と言いながら、米海兵隊はアフガニスタンやイラクで今もやりたい放題。劣化ウランによる汚染被害が拡がり、子どもは被曝による障害に苦しみ、私たちは米軍を認めることでイラクの子ども達の苦しみを容認している。なんて歪んだ世界なんだろう。
もっと世界はまともにならなくていはいけない。わたしたちの感性も、もっとまともにならなければいけない。
劣化ウラン弾に苦しめられる子ども達に容認されない軍隊を、私たちが容認するわけにはいかない。
(カラン)
セミパラチンスクでは、周囲の村々に放射能の被害が拡がり、奇形の赤ちゃんがたくさん生まれている。多くは長くは生きられず、生後数時間に亡くなった赤ちゃんはホルマリン漬けにされて病院の地下室に眠っていた。無脳症、頭が二つある赤ちゃん、目が一つしかない赤ちゃんなどの写真……。ドロン村では核実験が始められた1949年には1000人を超える人口があったのに、実験の終わった当時の生き残りはたった6人にまで減っていたのとか。もちろん生き残っている人の多くが、被爆による障害を抱えている。
マーシャル諸島でも同じ事が起こっていた。第五福竜丸の乗組員が「西から太陽が昇った」と証言しているが、ビキニ環礁の東180キロに位置するロンゲラップ島の住人も「西から太陽が昇り、手をかざすと指の骨が透けて見えた」のだとか。死の灰が降り注ぎ、急性放射線障害に見舞われた。アメリカはちゃっかりと住民を基地に連れて行き、血液採取などをしたが治療は一切しなかった。当時島外にいた住民も汚染された食物によって内部被爆し、現在も障害を持って生まれてくる子どもが多い。
と、米ソの核実験場の近くにする住民の悲惨さをさんざん見てからのイラクだった。そしてやはり、イラクでも全く同じ事が起こっていた。
劣化ウラン弾による被曝で、腹水がたまりお腹が大きく膨れあがった子ども。医者はなんとかしてやろうと針を刺して水を抜くが、麻酔もないため少女は痛みで悲鳴を上げる。
産まれてきたばかりの無脳症の子どもに衝撃を受ける森住さんに対し、医者はこう言った。「写真を撮りなさい。この子はあと数時間で死ぬ。あなたが写真を撮って世界中に発信することで、この子は産まれてきた意味を持つ」と。その無脳症の赤ん坊の写真を観た。その短い時間に写真を撮られるためだけに生まれてきた命とは……なんという絶望だろう。
現在ではスンニ・トライアングルと呼ばれる地域に劣化ウラン弾の影響が大きいのだとか。バグダッド、ラマディ、ティクリートを結ぶ三角地帯はスンニ派住民が多く、米軍への抵抗も激しい。もちろんその中には、あのファルージャも含まれる。森住さんはそれを「迂闊だった」と言った。森住さんはファルージャの住民虐殺を追いかけるのに夢中で、そこで引き起こされた夥しい核被害を見落としてしまったというのだ。
劣化ウラン弾は主に対戦車砲などで用いられる。以前観たファルージャの戦闘映像では軽機関銃やライフルの他にも、大砲弾が用いられていたし、空爆も行っていた。米軍の使用する武器のどれだけに劣化ウランが用いられているか分からないのが現状だが、かなりの程度標準装備されているというのは間違いあるまい。ファルージャにしてもラマディやティクリートにしても、大都市だ。人の多くする地域で劣化ウラン弾を用いているというのは本当に許せないことだが、信じられないことではない。使っている当の米兵がそれを「核兵器」だと思っていないし、そもそも「人を殺す倫理」など存在するわけないのだから。
2004年のファルージャ虐殺を遂行したのはアメリカの海兵隊で、沖縄の基地から派遣された。今問題になっている普天間基地も、米海兵隊基地だ。ファルージャで多くの住民虐殺を行い、大量の放射能をばらまく軍隊を「抑止力」の一言で容認できるその神経が信じられない。
「世界の中心はどこにあるか」――というのは確か辺見庸の本の中にあった一節。辺見庸をなぞれば、世界の中心は「抑止力」で普天間・辺野古を容認し日米共同宣言を作為した鳩山(そして菅)やオバマにあるのではなく、写真を撮られるためだけに生まれてきた無脳症の赤ちゃんにある。白血病に苦しみながら有効な治療を受けられない少女にある。
マスコミは永田町中心で、ファルージャどころか普天間や辺野古の住民目線すらない。日本の政府は「抑止力」と言いながら、米海兵隊はアフガニスタンやイラクで今もやりたい放題。劣化ウランによる汚染被害が拡がり、子どもは被曝による障害に苦しみ、私たちは米軍を認めることでイラクの子ども達の苦しみを容認している。なんて歪んだ世界なんだろう。
もっと世界はまともにならなくていはいけない。わたしたちの感性も、もっとまともにならなければいけない。
劣化ウラン弾に苦しめられる子ども達に容認されない軍隊を、私たちが容認するわけにはいかない。
(カラン)