大阪府立高校学区撤廃と府下全域の学テ、大阪市内小学校区の撤廃

　１月３０日の大阪府と大阪市の府市統合本部で教育基本条例の修正案に関する議論が行われ、橋下市長、松井知事、維新の会特別顧問の堺屋太一氏らが府教育委員会メンバーに恫喝を加えるようなやり方で、維新の会の主張をごり押しした。松井氏らは「政治決定だ」と、教育委員らの反対意見を排除していった。
　２月２日には、大阪市教育委員会が橋下市長の主張を「丸のみ」する形で、大阪市教育基本条例案を了承した。
　これを受けて議会に提出されることになる大阪府教育基本条例、大阪市教育基本条例は、いくつかの留保はあるものの、首長による目標設定、首長による教育委員の罷免権、高校校区の撤廃、ＳＡＢＣＤの５段階評価と最低評価の教職員の分限処分、３年連続定員割れ高校の統廃合、大阪市内小学校区の廃止など、教職員への統制・支配と学校間の競争という大阪維新の会の基本路線はそのまま引き継がれている。
　
　特に子どもたちに影響を与えるのは、高校の学区撤廃だ。松井知事は抵抗する教育委員らに対して、「政治決定だ。議会で議論を尽くせばいい」といい、２０１４年の実施にこだわったという。
現在４つに分かれている学区が撤廃されると、１０７校の普通科高校がすべて序列化されてしまう。生徒たちはその中から「行ける学校」を探さなければならなくなる。これが進路指導や学校選定に与える影響は計り知れない。

　橋下市長は「学区を撤廃すれば情報戦になる」と述べ、生徒が府内全域での偏差値を把握するために、全中学生に府統一テストを実施することを表明している。橋下氏は「受験はいままでと変わらないが、自分がどの学校にいけるか把握したうえで進路を決定しないといけない。今までは序列化や点数化はだめといっていたがそんな建前はやめましょう」と露骨に語っている。
　高校の序列化とともに、学テの点数で全中学生を序列化する。そしてそれぞれ「行ける学校」を選定させ、自分のレベルを思い知らせる。橋下氏の目的は「グローバル人材」を育てることだから、一握りのエリートを抽出するのには効率のいい「システム」かもしれない。トップの高校に行った生徒には「海外留学奨学金」など手厚い補助を行う。そして最下位レベルの高校は廃校にして切り捨てていく。

　しかしこんな制度が本当にいい「システム」なのだろうか。中学校での最大の関心事が偏差値と自分の序列というような生活が。思春期に入って最も心理的にも不安定な時期に、進路の不安と受験に失敗することの恐怖、焦り、重圧がよりいっそう中学生を追い込み、学校現場の困難を増幅させるのではないだろうか。さらにトップ校に入れた一握りの「エリート」以外は屈辱感、劣等感を植え付けられる一方で、自分より下のレベルの高校と高校生を見下していくようになるのではないだろうか。

　市条例案では、小学校区の撤廃も盛り込まれようとしている。小学校区が撤廃されると、小学校段階からの選別と序列化が進んでしまう。地域に根ざした学校が、入学者が少ないというだけで廃校にされる。すでに橋下氏は市内小学校の１／３を統廃合するという方針を出している。
　そんなことよりも「こども会」はどうなるのだろうと思う。春の町内運動会はどうなるのだろう。多くの地域では、同じ地域・町内会の子どもが同じ小学校に通うということを前提にして年間行事や役員のもちまわりなどが組まれている。当然のことながら、地域の行事と小学校の運動会は重ならないように調整される。安全な通学路が設定され、集団登下校の実施やシルバーの「見守り隊」などの協力もお願いしている。保育園、幼稚園、小学校間の交流などもある。
　
　教育基本条例は、学校教育の問題だけでなく、地域社会全体を覆してしまう重大事案だ。　

※大阪府立高学区１４年度撤廃　教育条例案大筋決着（読売新聞）
http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20120131-OYO1T00247.htm?from=top
※「全中学生に統一テスト」府立高の学区撤廃で（産経新聞）
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/120131/waf12013111320008-n1.htm
※教育基本条例案：府教委、抵抗及ばず　学区撤廃、橋下・大阪市長と松井・大阪府知事の「鶴の一声」で（毎日新聞）
http://mainichi.jp/kansai/news/20120131ddn041010009000c.html
※橋下・大阪市長：学区撤廃で、「全府で学テ」　中学生を対象（毎日新聞）
http://mainichi.jp/kansai/news/20120131ddf001010013000c.html
※大阪市教委、橋下市長の主張「丸のみ」決着…教育条例案了承（読売新聞）
http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20120203-OYO1T00212.htm?from=top

（ハンマー）