最近、連日のように「領土問題」がニュースで報じられ、民族排外主義を煽る格好の材料となっています。しかし、それは本当に「領土問題」なのでしょうか?
「領土問題」をめぐる韓国のイミョンバク大統領の行動や発言は、これまで「知日派」として知られてきた人物だけに不可解なものであり、韓国国内では選挙を前にした「パフォーマンス」とも受け取られています。
また、昨年末から再三、大統領自身が日本政府に対して「慰安婦」問題の解決を訴えてきたのに、日本政府の側は応えようとしないばかりか、日本大使館前に設置された少女の像(平和の碑)の撤去を要求したり、今年の5月5日にオープンした「戦争と女性の人権博物館」の展示内容を批判するなどのひどい対応に、ついにしびれを切らしたとも言えるでしょう。
こうした問題をめぐって日本と韓国との関係がぎくしゃくしている一方で、「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」というものが、米国が主導の主導の下で、日本と韓国のとの間で秘密裏に進められており、もう少しで締結されようとしていたことはほとんど知られていません。
韓国政府 韓日軍事情報協定締結を延期(6月29日(金)19時32分配信)
韓日軍事情報保護協定 「密室決定」に批判の声=韓国
韓日の軍事情報保護協定 米国の思惑は
韓国では、6月26日、この協定の締結が非公開の閣僚会議で決定されていたことが明らかになり、野党や市民団体(「平和と統一を開く人々」、「全国民主労働組合総連盟(民主労総)」など48団体)から批判が相次いでいました。
この協定の締結は、「北東アジアで北朝鮮と中国を狙ったミサイル防衛体制を築こうとする米国の意図によるもの。こうした目的の下では、朝鮮半島と北東アジアの安全保障が脅かされる」(「平和と統一を開く人々」)。
そして、6月29日に与党のセヌリ党も政府に対し協定締結を見送るよう要請し、政府が日本に署名延期を申し入れる事態となったのです。
この「協定」はイージス艦を通じて収集したミサイルの弾道情報などを相互に提供することなどを可能にするものだということです。軍事に関する情報を日本と韓国の間で共有しようとするものですから、日韓の軍事一体化を飛躍的に進めるものとなるでしょう。
オバマ政権は昨年11月以降「アジア太平洋重視の新国防戦略」を打ち出しています。それは、米軍が展開できる範囲を北東アジアから東南アジアにまで広げ、対中国軍事包囲網を拡大しようというものです。しかし、財政赤字と経済不況に苦しむ米国にとって、軍事費の増額は容易ではありません。そこで、東北アジア地域で日本と韓国の軍事協力を強化すれば、米軍が東南アジアに活動範囲を広げることが可能となります。
米韓軍事演習への自衛隊の一部参加という形での日韓の軍事交流の公然化、日本の「武器輸出三原則」の緩和、邦人救出のための自衛隊の海外派遣容認という首相発言、原子力基本法の付則に「安全保障に貢献する」という文言が滑り込まされるという姑息な改悪、など、憲法第9条の骨抜きを完成させようとする一連の動きはその現れでしょう。
しかし、この間の一連の日韓の出来事に、米国は「困惑」や「戸惑い」を表明せざるをえなくなっています。日本政府は米国が日本の味方になってくれると考えているようですが、米国は小さな島が日韓のどちらに帰属するかということには関心はないでしょう。あるのは米国の戦略にとってプラスになるかどうかということだけです。
「領土問題」の喧噪に隠れて、このような米韓日の軍事一体化の動きがあったことを見過ごすわけにはいきません。(鈴)