<まやかしの可視化>
現行可視化制度は、世論が要求した可視化制度とは全く異なっています。それは、可視化の対象とする犯罪が限定されていること、及び可視化は逮捕後の取り調べ過程に限定され、却って冤罪を生む可能性を大きく秘めていること、だからです。
「取り調べ全面可視化77%」(「日本経済新聞」夕刊、2017.5.25、警察庁発表)。見出しだけを見る読者は、まるで全犯罪の取り調べが可視化の対象とされているかの如き錯覚を覚えます。しかし、記事を注意深く読むと初めて、可視化の対象が裁判員裁判の対象となる罪状だけであることがわかります。つまり、第一審が地裁管轄の重罪犯罪である死刑または無期の禁錮・懲役に該当する罪(外患誘致、殺人、傷害致死、強盗致死、現住建造物放火、強姦致傷死、身代金目当ての誘拐、等)に限定されています。したがって、この裁判員裁判の対象となる犯罪は、全犯罪の3.1%に過ぎず、警察が任意同行と逮捕した総件数から言えば、0.36%という計算もあります(原田宏二・元北海道警察警視長)。
しかも、可視化されるのは、逮捕後の取り調べ以降からである、というところに重要なポイントがあります。つまり、逮捕前の任意同行の段階では可視化は行われない、ということです。任意同行は、「任意」同行だから断ればよい、というものではありません。断れば、職場であろうとどこでも警察が押しかけるし、「任意」同行に「応じなければ逮捕する」ぞと脅し、同意すると今度は、警察は被疑者をさんざん搾り上げ、被疑者がとうとう諦めて「自白」すれば、逮捕ということになり、警察と検事の前で「自白」する場面だけが可視化されることとなります。
仮に、被告が公判で「自白」を覆しても、裁判所は従来から、公判の証言よりも検事の面前での調書(検面調書)を信用することが圧倒的に多く、「任意」同行からの過程を知らない裁判員もまた、可視化場面を信用することとなります。かくして、可視化は、無罪証明ではなく、しばしば冤罪を生み出す有力な武器ともなりうるのです。
念のため、共謀罪との関係でいえば、それは可視化の対象ではありません。(岩)
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