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「ハイ・ライフ」芝居評

2006年02月17日 | 芝居小屋
小雪まじりの中、流山児★事務所の「ハイ・ライフ」を鑑賞。
すでに2年前くらいの再演をスズナリで観た事があるのだが、一部配役が入れ替わっているということで、期待して行った。再演時は雑誌テアトロでベスト1になったり、新聞の演劇欄で好評だったり、実際見た者としても、痛快無比の久々のヒット作!という感じだったのを記憶している。

で、今回は劇小劇場に舞台を移してだったが、この劇場、横長で、前後は空間がないんだよね。だから序章は左右の動きばかりだったし、寝転んで男らが悪巧みを話すシーンは全然見えない! 肝心なとこなのに。物理的にスズナリの方が合ったハコだった。

俳優陣は、単純で無骨なワル、バグに塩野谷正幸。牧場の夢をぶら下げられて悪事に誘われるシーンで、相手に背を向けながらも、表情などが魅せる(しかし、この表情も横長のため、見えた観客は一握りか)。

それから、若杉宏二は前回観た知的障害者ドニーの役から、主犯格ディックの役に。前回はこの役、千葉哲也が演じていて、ちょっと抜け目のない小悪党でイキな感じで演じており、塩野谷とのコンビも剛と柔で良かったのだが(特にラストは2人に乾杯!という感じだった)、今回の若杉は、良くも悪くも真っ当な悪党という感じ。ラスト前、仲間に啖呵をきる凄みはこの人ならではだが、普通のシーンは塩野谷とトーンがかぶる。

3人目、美形の女たらし役の小川輝晃はまさにビリー役にはまった。以前は、単にハンサムガイという演技だったが、今回は、実はゲイでドニーを誘惑するという難しいいシーンで、ベタっとしたいやらしさや、小ずるさが随所に出て成長していた。あとは、銀行のシーンで真面目な青年ぶっても狂気がでてしまうという芝居ができればなお良くなると思う。

ラスト、今回初参加の保村大和がドニー役。この人、演技巧者なのだろうと思うのだが、演出上変わったのか、本人のアイデアなのか知らないが、中盤、全裸のシーンは舞台の流れをぶち切ってしまった。裸は飛び道具だし、折角の男たちのハードボイルド感が出てきたのにオジャンだ。まして風呂に片手でイチモツを隠して入る人間がいるか?リアルさ無くすんだったらはなっからやらないほうがいい。再演ではやっていないのだから。

このあと、塩野谷がドニーの顔をバスタブに沈めたことで、バグの冷酷さが出て、ハードな空気が戻ってきたのが救いだった。これがなければ、芝居は緩みっぱなしになってしまっただろう。

個人的には再演時の若杉のドニーが「ユージュアル・サスペクツ」のケヴィン・スペイシーのようで好きだった。障害があるとはいえ、どこかにキレというか、危うさを秘めていたように思う。

やっぱり芝居はアンサンブルだと感じさせられた。個性とスタンドプレーは別物なのだというのを見せられた一夜だった。

コメント
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