[映画紹介]
映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズの軌跡をたどったドキュメンタリー。
Disney+ のオリジナルで、
11月1日から配信。
ジョン・ウィリアムズ本人へのインタビューをはじめ、
ジョージ・ルーカス監督やスティーブン・スピルバーグ監督ら
巨匠たちの証言を盛り込みながら、
ジョン・ウィリアムズがたどってきた道のりを振り返る。
監督はロラン・ブーズロー。
スピルバーグやマーティン・スコセッシ、
ブライアン・デ・パルマなど、
名だたる映画監督のドキュメンタリーを手がけてきた
ドキュメンタリー作家だ。
製作総指揮のスティーブン・スピルバーグをはじめ、
多数の人が製作に名を連ねる。
ジョン・ウィリアムズは、ニューヨーク・フラッシング地区生まれ。
後にロサンゼルスへ一家で引っ越し、
ノース・ハリウッド高校を卒業後、
カリフォルニア大学ロサンゼルス校で
亡命ユダヤ系イタリア人作曲家のカステルヌオーヴォ=テデスコに師事。
1952年にアメリカ空軍に徴兵され、
音楽隊に所属し編曲と指揮を担当。
1955年に兵役を終えジュリアード音楽院ピアノ科へ進学し、
ロジーナ・レヴィーンに師事。
在学時よりジャズピアニストとして活動。
父のジョニー・ウイリアムズはジャズ奏者。
テレビシリーズ「宇宙家族ロビンソン」(1965年)、
映画「チップス先生さようなら」(1969年)、
「屋根の上のバイオリン弾き」(1971年、アカデミー編曲賞)、
「ポセイドン・アドベンチャー」(1972年)等の音楽担当として注目され、
スティーヴン・スピルバーグ監督の「ジョーズ」(1975年)の音楽が
アカデミー作曲賞を受賞。
名実ともに映画音楽の第一人者となる。
数々の映画音楽を手がけてきた大作曲家だが、
この映画で紹介される作品は、
「えっ、これもジョン・ウィリアムズなのか、
あれもジョン・ウィリアムズだったのか」
と、認識を改めるものが多い。
中でも、「スター・ウォーズ」の音楽を担当した時のエピソードが興味深い。
「ジョーズ」で仕事をしたスティーヴン・スピルバーグから紹介されて
ジョン・ウィリアムズと会ったジョージ・ルーカスは意気投合。
当時「遠すぎた橋」の作曲も依頼されていたが、
スピルバーグが、
「『遠すぎた橋』は、ただの商業映画だが、
『スター・ウォーズ』は、傑作になる」と
やるべきだと進言したという。
通常、完成前の映画は、
「仮楽曲」という音楽をつけるのだが、
その曲目が面白い。
ホルストの「惑星」やドボルザーク「新世界」、
ストラビンスキー「春の祭典」などだったという。
ルーカスは、シンセサイダーではなく、オーケストラの音楽、
30年代、40年代の映画音楽のようなものを求めた。
その結果が、「スター・ウォーズ」の全編オーケストラの音楽となった。
それまでジョン・ウィリアムズは交響楽団を使ったことはなかったが、
ロンドン交響楽団を使えることになった。
「世界レベルのオーケストラが私の曲を演奏してくれる」と
ジョン・ウィリアムズは喜んだ。
そして、収録の日。
スクリーンに映し出される映像の前で、
初めて、あのオープニングの曲が演奏された。
ルーカスは「産声を聞いた感覚だった」と言う。
ある人は言う。
「あの大音量のオープニング。
映画かつ音楽史上で、最も有名な曲になった」
ワーグナーばりのライトモチーフを使った「スター・ウォーズ」は
80から90曲と曲数が多く、
アルバムは2枚組LPになった。
「二つの夕日」のシーンで使われなかった曲も
この映画で披露される。
最終的に使われた曲で、
この場面は最も印象深いものになった。
「未知との遭遇」の5つの音にまつわる挿話、
「スーパーマン」「レイダース」
「E.T.」「ジュラシック・パーク」などにも触れ、
あるシーンでは、音楽ありとなしの比較をする。
「シンドラーのリスト」の作曲依頼の挿話。
映画を観せられた後、ジョンは部屋を出て、
外の空気を吸った後に部屋に戻り、こう言う。
「スティーヴン、素晴らしい作品だ。
だが、私より腕の良い作曲家が要る」
すると、スピルバーグは、こう答えた。
「そう承知しているが、全員、死んでいる」と。
スピルバーグと妻のケイト・キャプショーの前で、
あのテーマ曲をピアノで奏でた時、
ケイトが泣き始め、次にスピルバーグが泣き、
ジョンも演奏しながら涙を流したという。
スピルバーグは言う
「彼はホロコーストの物語に、
音楽で敬意を払ったんだ」
50年代頃、映画音楽が変わった。
オーケストラが使われなくなったのだ。
しかし、「電子音楽に頼らない、
人間の演奏やジョンが書く曲に価値がある」と
スピルバーグは言う。
(「ミュンヘン」の一部にシンセを使ったことがある)
「プライベート・ライアン」では、
冒頭のノルマンディー上陸作戦の場面では、
音楽を逆に使わない、
という芸当もやる。
「スター・ウォ-ズ」ヤ「レイダース」
「ハリー・ポッター」などシリーズものをやるのは、
「他の作曲家にいじられたくないからね」と言う。
傑作ミュージカルは、
観客がメロディーを口ずさみながら出て来ると言うが、
まさにジョン・ウィリアムズの映画音楽がそれで、
「スター・ウォーズ」や「レイダース」「スーパーマン」
「ジュラシックパーク」「シンドラーのリスト」
「ハリーポッター」「E.T.」などで
同じ現象が起こる。
観客の心の中に、あのメロディーが埋め込まれているのだ。
ジョン・ウィリアムズがクラシック曲を作曲していることは
意外に知られていない。
ヴァイオリン協奏曲やフルート協奏曲などだ。
指揮者としては、1980年から93年まで、
アーサー・フィードラーの死後、空席となっていた
ボストン・ポップス・オーケストラの指揮者を務め、
退任後も名誉指揮者としてたびたび指揮台に立っている。
アカデミー賞作曲部門の常連。
受賞は5回だが、
ノミネートは編曲・歌曲賞を含め54回。
これを上回るのはウォルト・ディズニーの59回だけ。
アカデミー賞は年に1回だから、
54回ということは、
半世紀以上にわたる。ほぼ毎年。
すごいことだ。
2005年にはアメリカ映画協会(AFI)が
「スター・ウォーズ」の音楽を
“史上最高の映画音楽”の第1位に選出。
最後にある人は言う。
「この世にオーケストラが存在する限り、
彼の音楽は演奏される。
ベートーヴェンやモーツァルトのように」
映画の最後をしめくくるジョン・ウィリアムズの言葉は
次のようなものだった。
「命には限りがあるが、
音楽には限りがない」
現在92歳。
「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」をもって
映画音楽からの引退を示唆したものの、
これをすぐに撤回。
あの頭脳からもっと沢山の音楽が生み出されるのを待つばかりだ。
受賞歴
アカデミー賞5回(作曲賞4回・編曲賞1回)
エミー賞3回
グラミー賞31回
英国アカデミー賞7回
ゴールデングローブ賞4回
作品一覧
映画音楽(テレビドラマとテーマ曲だけのものを除く)
1961年『秘密諜報機関』『独身アパート』
62年『ダイアモンド・ヘッド』
64年『殺人者たち』
65年『勇者のみ』
66年『スタンピード』『おしゃれ泥棒』『シャイアン砦
『おれの女に手を出すな』『美人泥棒』
67年『プレイラブ48章』『哀愁の花びら』
『ニューヨーク泥棒結社』
68年『裏切り鬼軍曹』『屋根の上の赤ちゃん』
69年『華麗なる週末』『チップス先生さようなら』
70年『哀愁のストックホルム』『ジェーン・エア』
71年『屋根の上のバイオリン弾き』(アカデミー編曲賞)
『11人のカウボーイ』
72年『ポセイドン・アドベンチャー』『おかしな結婚』
『ロバート・アルトマンのイメージズ』
73年『ロング・グッドバイ』『トム・ソーヤの冒険』
『キャット・ダンシング』『ペーパーチェイス』
『シンデレラ・リバティ/かぎりなき愛』
74年『コンラック先生』『続激突!/カージャック』
『タワーリング・インフェルノ』
75年『大地震』『アイガー・サンクション』
『ジョーズ』(アカデミー作曲賞・グラミー賞受賞)
76年『ファミリー・プロット』『ミズーリ・ブレイク』
『ミッドウェイ』
77年『ブラック・サンデー』
『スター・ウォーズ』(アカデミー作曲賞・グラミー賞)
『未知との遭遇』(グラミー賞受賞)
78年『フューリー』『スーパーマン』(グラミー賞受賞)
『ジョーズ2 』
79年『ドラキュラ』『1941』
80年『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』(グラミー賞受賞
81年『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(グラミー賞)
82年『E.T.』(アカデミー作曲賞・グラミー賞受賞)
『バチカンの嵐』
83年『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』
84年『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』『ザ・リバー
86年『スペースキャンプ』
87年『イーストウィックの魔女たち』『太陽の帝国』
88年『偶然の旅行者』
89年『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』
『7月4日に生まれて』『オールウェイズ』
90年『アイリスへの手紙』『ホーム・アローン』『推定無罪』
91年『JFK』『フック』
92年『ホーム・アローン2』『遥かなる大地へ』
93年『ジュラシック・パーク』
『シンドラーのリスト』(アカデミー作曲賞・グラミー賞)
95年『サブリナ』『ニクソン』
96年『スリーパーズ』
97年『ローズウッド』『アミスタッド』
『ロスト・ワールド/ ジュラシック・パーク』
『セブン・イヤーズ・イン・チベット』
98年『プライベート・ライアン』(グラミー賞受賞)
『グッドナイト・ムーン』
99年『スター・ウォーズエピソード1/ファントム・メナス』
『アンジェラの灰』
2000年『パトリオット』
01年『A. I. 』『ハリー・ポッターと賢者の石』
02年『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』
『マイノリティ・リポート』
『スター・ウォーズエピソード2/クローンの攻撃』
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』
04年『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『ターミナル
05年『宇宙戦争』『ミュンヘン』
『スター・ウォーズエピソード3/シスの復讐』
『SAYURI』(ゴールデングローブ賞受賞)
08年『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』
11年『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』『戦火の馬』
12年『リンカーン』
13年『やさしい本泥棒』
15年『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』
16年『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』
17年『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』
19年『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
22年『フェイブルマンズ』
23年『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』
クラシック曲
交響曲第1 番(1966)
ヴァイオリン協奏曲(1974)
フルート協奏曲(1980)
トランペット協奏曲
チューバ協奏曲(1985)
オーボエ協奏曲
チェロ協奏曲(1994)
ファゴット協奏曲 "Five Sacred Trees"(1995)
ハイウッドの幽霊チェロ、ハープ、オーケストラの遭遇(2018)
このブログの中で、
50年代頃、映画音楽が変わった。
オーケストラが使われなくなったのだ。
と書いたが、
私は、映画音楽はやはりオーケストラが一番だと思う。
当時の映画音楽は、
雄弁に物語を進めていた。
だから、
今でも、「ベン・ハー」や「十戒」、
「アラビアのロレンス」などの映画音楽を
心から愛している。
そして、ジョン・ウィリアムズの音楽も。