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小説『三千円の使い方』

2024年09月28日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

御厨(みくりや)家の人々のカネを巡る原田ひ香の連作短編集。
次女の美帆をはじめ、長女の真帆、母親の智子、
祖母の琴子の視点での6話構成

念願の一人暮らしを始めた美帆は、
先輩女性が突然リストラされたことで、
将来に不安を覚える。
恋人の大樹との間も隙間風が吹き始めている。
家を買おうと思い、1千万円の貯蓄計画を始める。

祖母の琴子は貯金の目減りを心配し、
少しでも働いてみようと思い、
コンビニの店員募集に応じてみるが、
73歳という年齢を聞いて断られる。
しかし、コンビニ店長の紹介で、
和菓子屋の団子売出店に就職する。
それを脇から見た真帆は涙する。

真帆はポイント獲得の「プチ稼ぎ」でわずか家計の足しにしているが、
消防士の夫の稼ぎでは、切りつめても月6万の貯金がやっと。
そんな時、短大時代の友達とのランチ会で、
友人の小春が豪華なダイヤの婚約指輪をもらい、
タワーマンションに住む予定、
新婚旅行もイタリアと聞いて、衝撃を受ける。
自分の婚約指輪時はチャチなもので、
新婚旅行も海外ではなかった。
真帆は、節約節約の毎日に疲れていたことに気づく。
しかし、小春から電話がかかり、
結婚辞めるかもしれないと告げる。
相手の父母に高額な生命保険に入ることを強要されたのだ。

琴子とホームセンターで知り合いになった小森安生(やすお)は、
アルバイトで貯めた金で海外に出かけるフリーター
恋人の本木きなりから、子供が欲しい、と言われて狼狽する。
子どもはコスパが悪い
費用対効果が最悪だ。
そんな時、季節労働先で一度だけ関係を結んだ女が
妊娠した、と言って訪ねて来る。
その騒動の中で、
安生は、妊娠したのがきなりであってほしかったと、初めて気づく。

智子は胃がんの開腹手術から帰宅して、
自分の気持ちの変化に気づく。
毎日毎日家事にあけくれ、
夫の食事を作る生活に疲れたのだ。
ついに、智子は夫に週一回、
夕食は自分で取ってくれ、と宣言する。
友人の千さとが離婚の危機で、
その財産の分配について、厳しい話も聞く。

美帆は大樹と別れた後、
新たに恋人になり、結婚も考えている翔平から重大な話を聞く。
翔平の美術大学の費用として、
父母が奨学金をもらっており、
その返済が突然自分に突きつけられてきたというのだ。
総額550万円。
毎月3万を返済しても、
利息を含め、20年かかる。
翔平の実家を訪ねたが、
大人になっていない人たちだと感じた。
事情を聞いた智子たちは結婚に反対するが・・・

最後の解決はほっとする。
ここに琴子の財テクが絡んでくるとは思わなかった。

翔平が言う、
会社は給料、仕事内容、人間関係、
この3つのうちのどれか一つでも良けれ続けられるが、
全部がダメなら、
精神が壊れるからやめた方がいい、
という話はうなずける。

生活することに、
お金の問題は欠かせない
日々の生活費から始まり、
突然の入院、離婚もあり、
将来的には介護費用の問題もある。
そのお金に関する話を赤裸々に綴るこの本。
身につまされる人も多いだろう。

題名の意味は、
「人は三千円の使いかたで、人生が決まるよ」
という祖母の話から来ている。

中央公論新社の「アンデル小さな文芸誌」に
2017年7月号から12月号まで連載され、
2018年4月25日に中央公論新社から刊行された。
元は「節約家族」というタイトルだったが、
本を出す前に中央公論新社の営業部から
「そのタイトルでは売れない」と言われ改題された。

発行部数は累計100万部を超え、
2023年1月に
葵わかなの美帆、山崎紘菜の真帆、
森尾由美の智子、中尾ミエの琴子
で、テレビドラマ化された。

ついでに私見を述べる。
庶民が生活に不安を覚えるようになったのは、
金利が異常に低いことが一因だ。
1990年代、銀行金利は5%はあった。
銀行に預けておけば、
自然にお金が増える、
というのが、どれほど庶民に安心感を与えたか分からない。
ところが、日銀が政策金利を下げ続け、
ついにゼロ金利に落としてしまった。
今、銀行金利は0.1%。
100万円を預けても、
もらえる利息はわずか年千円。(税金を引かれて、800円)。
これでは、生活に不安を覚えるのは、当然だ。
効果のない金利低下をもたらした日銀の責任は重い

 



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