空飛ぶ自由人・2

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小説『海岸通り』

2024年09月20日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

「嘘つき姫」で、私が才能を認めた坂崎かおるの中篇小説。
こんな引き出しも持っているという多彩な才能
「文學界」2024年2月号に掲載し、
第171回芥川賞候補に。
残念ながら選ばれなかった。

海辺の老人ホーム「雲母園」(きららえん)で
派遣の清掃員として働く久住(クズミ)渚。
清掃は天職と言えるほど得意だ。
題名の「海岸通り」は、
園の敷地内にあるニセのバス停の名前。
認知症の入居者の為にある。
家に帰りたがる入居者をこのバス停に連れて行って、
バスが来ないので諦めさす、という機能があるらしい。
そのニセモノのバス停で
来ないバスを毎日待っている入居者のサトウさん。
サボり癖のある元同僚の神崎さん。
人材不足が極まったと感じたのは、
マリアというアフリカ人を採用した時だった。
黒人だが、肌の色を言うのは禁句だ。
ウガンダで放浪のラッパーの日本人と結婚して、
日本に移住したのだという。
マリアの教育係になった久住は、
次第にマリアと心がつながり、
久住が解雇され、
アパートの家賃滞納で行き場が無くなった時には、
在日アフリカ人のコミュニティにやっかいになる。

さまざまな人物が、正しさと間違い
本物とニセモノの境が交錯する物語。                       孤独を抱えた女性達がゆるやかにつながる。
高齢者福祉、派遣労働者、
マイノリティ、外国人コミュニティ
がさりげなく織り込まれている。

バス停の時刻表が6時2分、3分、7時5分と、
素数であるのも、なにやら象徴的。

「だって私は正しくない。
 あなたも正しくない。
 この世界に正しい人なんていない。
 たぶん、絶対」
など名言が多い。

一人一人の登場人物が愛らしく、
切なさも感じられる、珠玉の中篇小説。

 



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