空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

ドラマ『SHOGUN 将軍』

2024年09月27日 23時00分00秒 | 映画関係

[ドラマ紹介]

実は、このドラマ、
大分前に、途中まで観て、やめた。
第1話、主役のイギリス人が伊豆に上陸した時、
無礼をはたらいた村人が首をはねられたり、
若い侍が裸の遊女と交わるシーンなどで、
また、こういう日本を描くドラマか、と途中でやめた
そこへ、エミー賞での史上最多部門受賞のニュース。
これは観なければなるまい、と、
ディズニー・プラスで視聴。

日本行きのオランダの軍艦に乗船していた
イングランド人航海士ジョン・ブラックソーンは、
日本とポルトガル(カトリック国)の外交を手切れにさせ、
代わりにイングランド(プロテスタント国)と
貿易・軍事関係を結ばせる立役者となることで、
立身する野望を抱いていた。
しかし、船は伊豆沖にて難破し、
ジョンは数名の同僚と共に、網代に漂着する。
ジョンはそこで、
天下を狙う関東の大名・吉井虎長と出会い、
虎長が天下を取っていく過程を目撃することになる。

物語は、
太閤の死後、覇権争いをする大坂の五大老たちと
関東を拠点に天下統一を目論む
虎長の動きを対比させて描く。

虎長の大坂脱出や
人質たちの去就、
網代の大地震で軍を失う虎長の窮地など
サスペンス感もたっぷり。
特に、通訳を務める女性・戸田鞠子の存在が
重要な要素を占める。

ジョンは外国人で武士になった
三浦按針(ウィリアム・アダムス)がモデルだという。
虎長は徳川家康、
鞠子は細川ガラシャ(明智光秀の娘)、
五大老を牛耳る石堂和成は石田三成がモデルというが、
実際は、全く史実を無視した内容で、
戦国時代の日本を舞台に
そこに紛れ込んだイギリス人の冒険譚という趣き。

しかし、描かれるものは深く、
異文化衝突、日本人の死生観、「宿命」、
権力の虚しさ、武将たちの夢などを素材とした
人間ドラマの様相。
この深遠な内容をおバカな(失礼!)アメリカ人が
どれだけ感じ取ることが出来たのか不思議だが、
この高評価を見れば、受け止めたのだろう。
「運命」と「宿命」の違いなど、区別がついたのだろうか。
個人主義のアメリカ人にとって、
主君のためなら命を投げ出す「忠義」の心など、
理解不能だと思うが、
理解不能だから驚いて、評価したのかもしれない。

原作は、ジェームズ・クラベルによる歴史小説。
1975年に出版され大ベストセラーとなり、
1990年までに世界中で1500万部が売れた。

1980年にアメリカのNBCによって、5日連続、
合計9時間のミニテレビシリーズとしてドラマ化され、
リチャード・チェンバレン、三船敏郎、島田陽子が出演、
全米視聴率では平均32.6%を記録した。
後に2時間に編集された劇場版も公開された。


(ツタヤで借りて、第7・8話を観たが、
 今回の作品より分かりやすい。
 また、島田陽子の美しさが際立つ。) 

評価は高く、エミー賞では、
作品賞 (ミニシリーズ部門) 、
グラフィックデザイン・タイトル賞、
シリーズ部門・衣装賞を受賞、
ゴールデン・グローブ賞では、
テレビシリーズドラマ部門・作品賞
男優賞(リチャード・チェンバレン)
女優賞(島田陽子)を受賞。

テレビシリーズの後、ブロードウェイでも舞台化された。

という実績ある小説を、再ドラマ化したのが本作。
2月27日にアメリカではFXで、
日本ではDisney+ で配信され、
1980年作品を越えて、大きな評価を得た。

今回の特徴は、全編カナダで撮影され、
台詞の大部分は日本語で、英語字幕が付く。
(1980版では、
 主にジョンの視点で描かれるため、
 英語の場面が多く、
 日本語の台詞には字幕も付けず、
 アメリカの視聴者は日本語の台詞を「音響効果」のように聞いた。
 しかし、通訳役を通じて英語に言い直され、
 部分的には英語の説明が補っていた。)
これまでハリウッドで日本の時代劇が作られたことはあったが、
台詞は英語が中心。
(なにしろ、イエス・キリストさえ英語で話す。)
そのため、
俳優を選ぶ時は、役に最も適した俳優ではなく、
英語が話せる日本人俳優を優先的に選ぶことになってしまっていたが、
今回の作品では、
日本側が沢山描かれるため、日本語中心。
英語を喋らなくてもよくなったことで、
日本の錚々たる俳優陣のキャスティングを可能にした。


吉井虎長に真田広之


戸田鞠子にアンナ・サワイ


その他浅野忠信、平岳大、西岡徳馬、二階堂ふみらが脇を固める。


1980年版の俳優と比べると、
リチャード・チェンバレン→コスモ・ジャーヴィス、


三船敏郎→真田広之、
島田陽子→アンナ・サワイ、
フランキー堺→浅野忠信
金子信雄→平岳大ら。
真田広之、アンナ・サワイの演技は、
受賞を納得させる素晴らしい出來。

画面を観て驚かされるのは「金がかかっている」という印象。
壮大なロケ、豪華な装置、衣裳、小道具に至るまで、
全く手を抜いていない。
制作費は1話あたり数十億円と言われ、
10話で計100億円以上とされる。

脚本家兼エグゼクティブプロデューサーのジャスティン・マークス
彼の妻で監督補佐プロデューサーのレイチェル・コンドウは、
1980年作品のようなハリウッドチックではなく、
現代人に日本の文化が伝わるような脚本にするため、
1年以上を費やした。
最初の脚本段階は英語、それを日本語に直訳し、
別の脚本家が時代劇の言い回しに書き換え、
さらに英訳し直して字幕をつけるという
手間のかかる作業が行われた。
また真田には当初、主演を依頼したものの、
後にプロデューサーとしての参加を要請した。
エミー賞の作品賞授賞で真田広之がススピーチしたのは、
プロデューサーだから。

総指揮のジャスティン・マークス
「当初、ハリウッドがこの数十年、
日本を描く時『どんな間違いを犯したか』を
ずっと真田さんと議論しました」
と述べている。
真田広之は
「日本人が見てもおかしくない日本を描こう」
「誤解された日本を描く時代を終わらせたかった」
と語っている。
これまでにハリウッドで描かれた日本は、
時代劇、現代劇を問わず、
日本人から見ると「ヘンテコ日本」としか言いようがない描写や
舞台美術、衣装などが溢れ返っており、
「出演した俳優たちは、これはおかしい、と言わなかったのだろうか」
と思うことがしばしばだった。

真田がプロデューサーに加わったことで、全てが変わった。
旧知の着物スペシャリストを東映京都から呼び寄せたのをはじめ、
時代劇のあらゆる分野の専門家を日本から招集、
多数のキャスト・スタッフが渡航し、
日本流の時代劇作りに情熱を注いだ。
舞台美術や小道具のスタッフには、
日本の文化を理解している日本人を起用する徹底ぶりを見せた。
海外のスタッフや出演者らには、
日本の歴史や文化をまとめ日本を正しく理解してもらうための
約900ページにも及ぶマニュアルを作成。

真田ら製作陣が重視したのは、
戦国ドラマを、
究極のレベルに高めることだった。
これまで日系と他のアジア系が混同されがちだった
ハリウッドの価値観に挑戦するかのごとく、
真田はすべての日本人の役を、
日本人、または日本にルーツを持つ俳優が演じるよう提案。
キャスティングはこの方針の基に行われ、
エキストラもカナダに駐在している日本人や日系人を起用した。
登場人物の言葉使いから座り方などの細部にまでこだわり、
自ら美術、衣装、メーク、所作などを指導、
撮影現場ではあらゆるディテールが
歴史的、文化的にふさわしくなるように、
立ち振る舞いから、周りとの接し方など細かい所作まで演出指導が行われた。
セットの畳には土足厳禁、
ケータリングには日本食を用意し、
衣裳の家紋の位置から、わらじの履き方、
兵士が持つ銃や槍を全員に右手で持たせたり、
お城に農民を入れないようにするなど細かく指導し、
妥協を許さない作品作りが行われた。
真田は自身が出演しない日も撮影現場に通い、
日本の文化が正しく描写されるよう指導したと言われる。
また、不自然な日本の描写を正すために
編集作業にも加わり、
1年半かけて全ての編集、レコーディング、VFXを自身で確認した。

真田は昔から、
「日本の武士道や、日本の時代劇を
ちゃんとハリウッドで表現することができない、
俳優だけでは全てやり遂げられない、
口出せないことも多い」
と悔しがり、
「誤解に満ちた日本人像が今まで結構多かった。
僕たちの時代でそれを払拭したい」
と願っていたと言われる。
真田のたゆまぬ献身と努力が、
ようやくハリウッドで報われたとも評され、
エンターテイメント作品を通じて、
日本大使的な役割をも担う真田の
集大成的な作品となったとも称賛される。

初回エピソードの世界配信開始から6日間で
900万回の再生回数を記録した。
世界配信されたドラマシリーズの再生回数としては歴代1位である。

エミー賞では、
作品賞や主演男優賞など、25の部門にノミネートされ
業界を驚かせた。
作品賞に英語以外の作品がノミネートされたのは「イカゲーム」以来、2 年ぶり。
また、11人の日本人がノミネートされ、過去最多となった。
浅野忠信、平岳大も助演男優賞にノミネートされた。
日本人が俳優部門にノミネートされるのは
2007年に「HEROES」(2007年)でノミネートされた
マシ・オカ以来、17年ぶりとなった。

9月8日、エミー賞の授賞式に先駆けて、
技術系や美術系などの一部部門が発表され、
撮影賞や視覚効果賞などで受賞して、14冠を獲得。
9月15日、エミー賞主要部門の授賞式が行われ、
フレデリック・E・Oトーイが監督賞
真田広之が主演男優賞
アンナ・サワイが主演女優賞
そして、作品賞を受賞した。


非英語作品が作品賞で受賞したのも、
日本人が俳優賞の主要部門で受賞したのも、初めて。
作品賞、監督賞、
主演男優賞、主演女優賞、
ゲスト男優賞、視覚効果賞、
音響編集賞、音響賞、撮影賞、編集賞、
プロダクションデザイン賞、キャスティング賞、
メイクアップ賞、プロスティック・メイチアップ賞、
ヘアスタイリング賞、衣裳デザイン賞、
メインタイトルデザイン賞、スタント・パフォーマンス賞と、
同賞創設以来過去最多となる合計18冠を獲得。

作品賞受賞の時、
真田は、「日本語で」と断って、
「これまで時代劇を継承して支えてきてくださった全ての方々、
 そして監督や、諸先生方に心より御礼申し上げます。
 あなた方から受け継いだ情熱と夢は
 海を渡り、国境を越えました」
とスピーチした。
時代劇を作り続けて来た日本のスタッフに送ったメッセージだった。

第2シーズンと第3シーズンの制作が、既に発表されている。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿