空飛ぶ自由人・2

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小説『介護者D』

2022年11月28日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

前作「絞め殺しの樹」で直木賞候補となった
河崎秋子の新作。
「小説トリッパー」に連載したものを単行本化。

短大入学を機に上京して、派遣の仕事を続けてきた30歳の猿渡琴美は、
北海道で単身生活を送る父のために地元へ戻る。
名目は「雪おろしをするため」だったが、
季節が過ぎても、居残って父の介護をする。
父は長年続けた私塾を閉めた後、一人暮らしをし、
(妻は交通事故で亡くしていた)
脳血栓で体が不自由な生活をしていた。
長年教育者として生きた父は、
自分の考えが正しいと思って譲らず、
説教癖があり、
また、長年近所で「先生」と尊敬されてきた立場の上、
「ええかっこしい」の性格から、
公的サービスも補助金も、理屈をこねて拒絶し、
その結果、琴美の負担だけが増えていた。

琴美には、美紅という妹がおり、
琴美は劣等生、美紅は優等生で、
何かと比較されてきていた。

しかし、父は琴美に無神経な言葉を投げる。
たとえば、琴美の級友で昔の塾生である佐原栄子の話題に触れた時、
父は、こう言う。

「あの子はほんとによくできた子だったもんな。
いい学校出て仕事して結婚して子ども二人もいて、
立派なもんだ」

その無神経な言葉を聞いて、琴美は「ちくしょう」と口にする。

サンフランシスコに住む美紅は、
子どもを連れて帰省するが、
父の家に泊まるのはわずか1日、
すぐ東京に出て、友人とディズニーランドに2泊して、
帰国するという。

「お父さん、足悪くて生活の色んなとこで大変なんだって分かってる?
私が、それなりに、うちの色々なこととか
一生懸命やっいてるっていうのに、あんたは」

琴美が非難すると、父は美紅の味方をし、
こう言ってのける。

「だいたい、おまえに飯を作れ掃除をしろ世話をしろ、
なんて父さんいちいち頼んだ覚えはない!
ただ、雪かきが大変だからちょっと戻ってきてくれと言ったのを、
琴美は雪がとけても
独り身のまま実家でだらだら」

そんな琴美の心の癒しは、
アイドルグループの「アルティメットパレット」、
中でも推しは、『ゆな』という少女だ。
彼女のひたむきさが心の支えで、
地方での生活とコロナでコンサートに行けない今、
ネットで動画やインスタを見ることだけが
心を豊かにしてくれるのだった。

そのことを栄子は、こう言う。

「もしかして。
私、別に偏見ないんだけどさ、
琴美ちゃん、女の人が好きとか、そういう?
いいと思うよ。
今、LGBTとか別に普通だし」
「私、大学の時に心理学の授業とってたし、
そういう本何冊か読んで習ったことがあるから分かるんだけど。
ああいうアイドルに、自分の少女期の理想像とか、
願望とか投影してるとか、
そういうの、ない?」

琴美は席を立ち、栄子とは絶交する。

琴美は歳月を考える。
日本人の平均寿命から見て、父が生きるのは、あと15年。
その時、自分はいくつになっているか。
45歳
希望の光の見えない歳月だ。

その父に認知症の兆候が見え始めて来た。
進む介護を思って琴美は暗澹とする。

汚れたおむつを脱がせ、
尻や性器をきれいに拭き、
汚物にまみれたおむつを捨てるのだ。
一日に何度も。
しかも、もし父の認知症がゆっくりでも確実に進行したら、
それらの介護に口答えや抵抗をする可能性だってある。
私にはできない。
誰に指をさされて責められようとも、
それが琴美の結論だった。

そして・・・

今、現実に世間で進行しているリアルな物語

題名の「D」の意味は、
父が塾の時代につけた生徒のランク分け。
もちろんAが最優秀で、
Dは落第生である。

 



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