[書籍紹介]
期待される時代小説の書き手、
砂原浩太朗による、連作短編集。
舞台は神宮寺藩という架空の藩の江戸屋敷。
その運営は差配役の里村五郎兵衛の手に委ねられていた。
差配役は、他の人がやらない藩邸の仕事を全部引き受けるもので、
陰で(自分でも)“なんでも屋”と揶揄されていた。
差配役も架空の役職だが、
そういう役目をした人は実際にいたに違いない。
言ってみれば、庶務課長か秘書室長か。
その五郎兵衛のもとに舞い込んで来る雑多な仕事をつづったのが、
この短編集。
上野に花見に出かけた十歳の若殿・亀千代ぎみが
家臣をまいて行方不明になったのの探索、
調度品の入札に家老が介入して来た問題の処理、
厨房で雇った女が魅力一杯で、中間たちを魅了して起こす騒動、
正室の愛猫が失踪したために、総出での捜索、
そして、藩主の病気にかこつけた跡目争いのお家騒動・・・
これらの大小さまざまな問題を
才覚で乗り切る五郎兵衛が魅力的に描かれる。
四十代で、妻を亡くし、
七緒と澪という二人の娘と暮らす。
亡き妻の妹・咲乃が頻繁に出入りする。
七緒は嫁ぎ先の夫が冤罪を晴らすために
自裁して実家に戻って来た過去がある。
そして、藩邸を騒がせる江戸家老派と留守居役派の確執。
双方から声がかかる中、
澪が拉致され、
その身の安全のために
留守居役の策略に乗ったと見せて、
自身の命と引き換えにある策をするが・・・
次期藩主の若殿・亀千代ぎみが聡明で、
実は物語の背骨の部分に関わって来る。
日本橋見学に出かけた先で
若殿が五郎兵衛にもちかけた話が
明かされないまま、
最後を引き締める。
この時の秘密の保持に対する五郎兵衛の矜持が見事。
時代小説だが、お仕事小説の側面もあり、ミステリー色もある。
人物描写、情景描写など、
武家ものの短編小説でも、砂原太朗浩は見事の腕の冴えを見せる。
「いのちがけ 加賀百万石の礎」「高瀬庄左衛門御留書」
「黛家の兄弟」に続く、
砂原四冊目の本だが、
本当に藤沢周平の後継者候補かも、と思わせるものがあった。
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