空飛ぶ自由人・2

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映画『ある男』

2022年11月27日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

前半は、宮崎の片田舎の町での、ある夫婦の物語。
武本里枝は幼い子供を病気で失って離婚後、
長男を連れて故郷に戻り、実家の文具店を手伝っていたが、
最近町に流れて来て、林業に従事した谷口大祐と知り合い、結婚。
大祐は伊香保温泉の割烹旅館の次男だったが、
旅館を継いだ兄と折り合いが悪く、
家を出た末、この町に流れ着いてきたのだ。
大祐は里枝に過去を語り、
群馬の実家とは縁が切れているから、
万が一の時も連絡はしないでほしいと言う。
里枝と大祐は、新たに生まれた子供と4人で幸せな家庭を築く。

しかし、ある日夫が倒木の下敷きになって命を落としてしまう。
それから一年。
里枝は大祐のいいつけを守って
群馬の実家には連絡しなかったが、
さすがに遺骨と墓をどうすべきかを相談するため、
一周忌を迎えた時、実家に連絡した。
すぐに大祐の兄・谷口恭一が宮崎まで飛んで来たが、
そこで意外な事実が判明する。
大祐の写真を見た恭一が
「これは大祐ではない」と断言したのだ。

その後のDNA鑑定でも、死んだ夫が谷口大祐でないことは確定した。
愛したはずの夫は、全くの別人だった。
では、夫はどこの何者だったのか・・・

後半は、
弁護士の城戸の物語。
離婚の時に相談した関係で、
里枝は大祐の身元調査を城戸に依頼する。
調査の過程で、城戸は戸籍を交換するビジネスの存在を知る。
戸籍交換ブローカーであった詐欺師・小見浦と接見した城戸は
小見浦により、一目見るなり、
「あんた、在日だろう」と見抜かれてしまう。


しかも、谷口大祐の名を口にした途端、
小見浦は「伊香保温泉の次男坊でしょう?」と言ってのけたのだ。
小見浦が谷口大祐の戸籍交換に関わったことは間違いないが、
なかなか小見浦は真実をあかそうとしない。

城戸は在日三世であり、
韓国語もしゃべれず、
ハングルも読めず、
既に帰化して日本人になっているが、
底深いところで、自分の過去を消し去りたい願望を抱いている。
大祐の身元調査をする中で、
城戸の中に「他人として人生を生きること」への憧憬が募っていく。

やがて、大祐を騙るXが何者であったかが判明する。
確かに彼の生涯は過酷な運命を背負わされたもので、
過去を打ち消し、
他の人物として人生を生き直したいと思わせるものだった・・・

というわけで、他人と入れ代わった男の足跡を辿りつつ、
自身の、他人になりたい、という願望に気づくという、
二重構造の作りになっている。

原作は芥川賞作家の平野啓一郎の小説。
数年前に読んだ時、
このブログで、
「最近読んだ中では、
出色の読書体験だった。」
と絶賛している。

で、期待の映画化だが、
文字で紡いで成立した物語を
映像で再構築することは難しい、と
再認識させられた。

一番の問題は、
城戸の「他人の人生を歩いてみたい」
という秘めたる願望が
上手に視覚化されていないことだ。
小見浦による在日の指摘と
ヘイトのテレビ報道だけでは、
説得力を欠ける。
もっと立ち入った映像化が必要だった。

城戸を演ずる妻夫木聡は、
沈鬱な雰囲気の演技でそれを表現しようとするが、
なにしろ、妻夫木は在日顔ではないので、
一目で「在日だろう」と見破られるリアリティがない。
顔というものは、何よりも出自を明らかにするもので、
たとえば浅野忠信あたりが演じていたら、
説得力があっただろうに。

(浅野忠信が在日だと言っているわけではありません。
 浅野忠信は、母方の祖父に北欧系アメリカ人を持つクォーターです。
 ここでは、あくまで容貌のことを言っているにすぎません。
 念のため)

また、本物の大祐を演ずる仲野太賀は出演者の無駄使いで、
原作では、
戸籍を交換しての体感を語る場面があるが、
そこを割愛したのは、脚色者の失敗か。
その他、清野菜名、真木よう子、小藪千豊など、
どうしてこの役に起用したのか不明な配役が目立つ。
でんでん、きたろうなどは適役だが。
「大祐」を演ずる窪田正孝はなかなかいい。

脚本は向井康介
監督は『蜜蜂と遠雷』などの石川慶

5段階評価の「3.5」

拡大上映中。

 



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