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小説『老害の人』

2023年09月02日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

内館牧子の小説で、
「終わった人」「すぐ死ぬんだから」「今度生まれたら」の
「老後小説」「高齢者小説」と呼ばれているシリーズの最新作。
4つの本につながりはなく、それぞれ独立した作品。

主人公は戸山福太郎、85歳。
ボードゲームメーカー「雀躍堂」(じゃくやくどう) の2代目社長。
75歳で社長を娘婿の純市に譲り、
5年間は静かにしていたが、
80歳になって、
会社に再び出るようになる。
引退時、顧問や相談役の肩書を拒否する福太郎に、
「経営戦略室長」という役職を与え、
部屋を一室与えたのが間違いの元だった。
出勤した福太郎は、「老害」の毒を発し始める。
朝、お茶汲みの女子社員を相手に、昔の自慢話を15分。
その後、若い社員たちに対して、
自慢話と教訓話と精神論。
同じ話を何度も何度も。
社員たちはうんざりしながらも、
前社長の話を拝聴する。

その福太郎が過ちを犯す。
発注先の会社のトップが表敬訪問してきたのを相手に、
上から目線の自慢話と教訓話。
相手を怒らせ、契約を白紙に戻されてしまう。

実の娘にやりこめられて、
出社は断念したものの、
老人仲間と一緒にいろいろ目論見を始める。

この老人仲間の会合が傑作で、
病気自慢に元気自慢、孫自慢、趣味自慢、前歴自慢、教養自慢の応酬
中には「死にたい」が決めゼリフの老婆もいる。
実の娘の明代は、
「老人が困るのは、自分が自慢してるってことに気がついていない」
ことだと愚痴る。
この老人仲間を「老害クインテット」として描く部分は楽しい。

その福太郎、老人仲間と一緒に
会社の自分の一室を
老人のサロンとすることを計画する。
老人たちは、
目標が出来、生き甲斐が出来たと、張り切るが・・・

これに、
純市の息子の俊が農業をやりたいと言い出して、
四代目として雀躍堂を継がせたかった
福太郎の悩みが加わる。
また、明代の娘が孫を産み、
今まで孫自慢の友人から
「孫がいない人には分からないでしょうけど」
と厭味を言われてきた明代の心境の変化も描かれる。

途中、老人談義が
登場人物の口を通じて語られるが、
筆者が混乱している感じで、
老人問題の取り扱いの難しさを感じさせる。
内館牧子も今74歳。
後期高齢者直前の人として、
老いは実感しているのだろうが、
まだまだ深く切り込んだとは言えないなあ。

老人たちが、役に立たなくなった自分を嘆き、
何とか生き甲斐をみつけよう、
居場所を得ようとするのだが、
そんな老人ばかりではあるまい。
加齢を認め、社会から相手にされなくなったことを受け入れ、
静かに歳をとっていく、という生き方をしている人もいるはず。
世の中の役目を終えたものは、
静かにこの世から去っていく。
よほど、その方が美しく、人間らしいと思うのだが。
登場人物の老人たちは、
まだまだ未練と欲に満ちているように見える。
自分の存在意義を必死に求める老人ばかりの中、
静かに引退を是とする人物登場させてもよかったのではないか。

話の中で、数度にわたる緊急事態宣言が出て来るが、
あの時の暗い、希望のない生活を思い出すと、
よくぞここまで回復したものと思わざるをえない。

本人には楽しいが、
他人が聞いて楽しくない話、というのがあり、
旅行した話、株で儲けた話、
うまいものを食べた話に並んで、
家族の自慢話というのがある。
特に、孫自慢というのは、
身内だけでやってほしい話の筆頭だ。

私は幸い、
「今が一番いい」の人なので、
「あの頃は良かった」という言葉は口にしない。
思い出は美しいが、それだけで十分。
従って、自慢話はしない。
そういう老後を過ごしたいと思う。

 



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