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映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

2023年10月23日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

 マーティン・スコセッシ監督がレオナルド・ディカプリオと組むのは、6回目。
そこにロバート・デ・ニーロが加わるというのだから、
観なければなるまい。

題材は、1920年代初頭の
オクラホマ州オーセージ郡で発生した連続殺人事件を描く。

と言っても日本人にはなじみのない事件。
少し予備知識を持った方がいいので、
以下に記す。

大統領命令で先祖伝来の土地からの移住を余儀なくされたオセージ族は、
オクラホマの岩だらけで何の価値もなさそうな保留地に追いやられたが、
その土地の下に米国最大の油層があることが判明したことから、
白人が妬むほどの「大富豪」になる。
探鉱者が石油を手に入れるためにはオセージ族に
多額のロイヤルティを支払う必要があり、
オイルマネーを得たオセージ族は
一人当たりの資産が世界一多い部族とされた。
当時の新聞・雑誌に、
シャンデリアのある豪邸で暮らし
お抱え運転手付きの車と自家用飛行機を所有する者や、
ダイヤの指輪や毛皮のコートを身につけた
オセージ族の贅沢な暮らしぶりが報道されると、
オセージ族はもっと賢く金銭を使うべきだ、
と眉をひそめる人々も出てきた。
そこで、アメリカ政府は彼らに資産管理能力がないと一方的に決めつけ、
(何という偏見)
同地域に住む白人に財務管理をさせる後見人制度を導入した。
(とんでもない話だ)
当時のアメリカでは、
「アメリカ先住民は世間知らずで粗野な人々であり、
手にした富を浪費しないよう白人が監督する必要がある」
という見解が広く浸透しており、
政府も、アメリカ先住民は
連邦政府の保護を必要とする依存的な部族であり、
先住民に権限を持たせるのではなく
「保護する」ためとして法整備を進めたのだ。
しかし、こうした法律は、先住民の利益を守るどころか、
先住民とその先祖伝来の土地を
白人入植者たちが奪って思いのままにする手段として利用されることとなった。
後見人はあらゆる手段を使ってオセージ族の資金を着服し、
高い後見料を搾取し、
オセージ族は、生活費のような細かい支出までも
いちいち許可を取らなければ引き出すことができなかった。
さらにオセージ族と婚姻関係を結ぶことによって、
白人であってもその受益権を相続できるようになった。
彼らと結婚し、相手が亡くなれば、オイルマネーは自分のものになる。
この後見人制度と、受益権の相続ということが
結果的に何十人ものオセージ族が不審死を遂げる事件を呼んだことになる。

「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」で描かれているのは、
そうした数ある事件の一部である。

そのオセージ郡に、
アーネストという帰還兵の青年が、
叔父で地元の有力者でもあるウィリアム・ヘイルを頼ってやってくる。
帰還兵といっても、炊事兵で、戦場で戦ったわけではない。

アーネストは運転手となり、
送迎で知り合ったオセージ族の女性モリーと結婚する。
母親と4人の姉妹の次女だった。
オセージ族の周辺で不審な殺人事件が起こり、
モリーの姉のアナも銃殺される。
妹も不審な病死をし、
その夫のアーネストの弟ブライアンは、
更に末妹と再婚するが、
家を爆破される。
それらの事件の背景には叔父のヘイルの存在があり、
アーネストもその片棒を担がされる。
モリーは持病の糖尿病の治療薬としてインスリンが処方されるが、
病状は悪化するばかり。
殺人事件の犯人探しはされるが、
全容が解明されないま
オセージ族60人以上が命を奪われる事態となった。
(実際の犠牲者はもっと多いとされている)
地元当局や私立探偵が手をこまねく中、
後のFBI長官となるJ・エドガー・フーヴァーは
特別捜査官トム・ホワイトを派遣して現地での捜査を開始する。
アーネストも捜査の対象となり、逮捕されるが・・・

全編、金の亡者たちの話。
先住民を下に見ているから残酷なことが出来るという恐ろしさ。
特にヘイルは、自分のしたことに何の痛痒も感じていないだろう。
先住民を金儲けの道具にしか見ていないのだ。
それに踊らされるアーネストを演ずるレオナルド・ディカプリオのダメ男ぶり
後先考えず、詰めも甘い。
なのに、人一倍妻子を愛している、優柔不断な芯の無い男。
当初、ディカプリオは捜査官役でオファーがあったらしい。
ダメ男アーネストの方を選んだのは慧眼。
そして、ロバート・デ・ニーロの極悪非道ぶり。
更にモリー役を演ずるリリー・ブラッドストーンの背筋の伸びた姿。
三者三様で、アカデミー賞ノミネート確実。
捜査官トム・ホワイトをジェシー・プレモンスが演ずる他、
あのオスカー俳優も顔を出す。


原作は、2017年にベストセラーとなった
デイヴィッド・グランのノンフィクション小説
「花殺しの月の殺人 オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生」

(映画に合わせて、題名を変更)

「花殺しの月」というのは、
インディアンたちのいう5月の名前。
「フラワー・ムーン」が
何故「花殺しの月」になるかというと、
4月、丘陵や平原に無数の小花が咲き群れるが、
5月になると、
それより背の高いムラサキツユクサなどが、
小花にしのび寄り、光と水を奪いとる。
小花の首は折れ、花びらは落ち、枯れ、やがて地に埋もれる。
それゆえ、オセージ族は5月を
「花殺しの月(フラワー・キリング・ムーン)」と呼ぶ。


本書は、アメリカ探偵作家クラブ賞を受賞。

3時間26分
長くは感じなかった。
それは、画面に緊張感が漂っているからで、
やはり、映画は俳優の顔(表情)が決め手だと分かる。
ノンフィクションから重厚な人間ドラマを生み出したエリック・ロスの脚本も見事。
そしてマーティン・スコセッシの演出が、
サスペンスでありながら、
血の通った人間像を現出して、映画的に充実する。

金のためなら何でもする人間ばかりで、
モリー以外、同情に価する人物が登場しないが、
やはり、犯罪は誰も幸福にしない、と思わされる。

登場人物の「その後」を伝える方法がユニーク。
普通は黒画面にテロップで追記するが、
FBIの功績を讃えるる“朗読劇”という形で披露。
面白い趣向とは思うが、
それほど感心はしなかった。

なお、数十年間に及ぶ法的争いを経て、
2011年、連邦政府は
オセージ族に3億8000万ドルの和解金を支払い、
オセージ族の資産管理を改善するさまざまな対策を行うことに同意した。
そのことには触れず。

5段階評価の「4.5」

拡大上映中。

題材と長さから観客を選ぶだろう。

 



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