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小説『真珠とダイヤモンド』

2023年07月24日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

バブルで最も踊らされたのが、
不動産業界と証券業界だが、
この小説は、バブル時代の証券会社が舞台。

1984年、萬三証券株式会社の福岡支店に入社した、
3人の若者たちが主人公。
伊東水矢子、小島佳那、望月昭平。
同期だが、水矢子は高卒、佳那は短大卒、望月は大卒なので、
2歳ずつ歳が違う。
水矢子はお茶くみやコピー取りなどの雑務をこなす最下層の事務職社員。
高卒で就職したのは、学費をためて東京の大学に行くため。
焼酎だけが楽しみな母のようにはなるまいと思っている。
美貌も野望も持つ佳那は、
入社早々資格試験に合格して営業一課のフロントレディとして働き始める。
男性社員たちの「花嫁候補」としてき存在する、
地元のお嬢さん学校出身者が大半をしめる女性社員のなかで、
貧しい家庭に生まれ育った水矢子と佳那は浮いた存在だった。
望月は営業社員。
会社や寮でいじめにあいながら、いつか実績で見返してやると思っている。
3人とも決して裕福ではない家で育ち、
いつか東京に出るという共通の目標を持っていた。

当時はコンプライアンスも何もない時代。
パワハラ、セクハラ、男尊女卑は当たり前で、
誰も不思議に思わない。
社員はノルマに追われ、成果だけがモノを言う。
日本全体がバブルで浮かれていたから、
株も土地も右肩上がりで、
「株をやらないと損をする」という風潮だった。

そして、NTT株の公開で、
一般庶民までが株に手を出す、
一つの時代の証券会社の様子を活写する。

やがて望月は良い顧客をつかみ、
ナンバーワンの実績を上げて、
本社の国際部に栄転する。
望月と佳那は結婚し、
浦安のディズニーランドの見えるマンションに住み、
後には銀座の家賃100万円の一室に移り住み、
金銭感覚が狂い、贅沢三昧の暮らしをする。
しかし、望月は仕手集団と関わりを持ち、
ヤクザにも借りを作ったことから、
一旦バブルが弾けると、
命を狙われるほど、凋落していく。

一方、貯金をした水矢子は、
念願の東京に出て、大学受験をするが、
志望の大学は落ち、
滑り止めの女子大で、周囲から浮いて、友達も出来ず、
占い師のアシスタントになって女中同然の扱いを受ける。

やがて、バブルの綻びが出始め、
破局が訪れる・・・

と、バブルで踊らされた若者たちの末路を描くのがこの小説。

佳那の姉の美紀、その婚約者で美紀に逃げられた恨みをはらそうとする医師の須藤、
長崎のヤクザの山鼻、占い師の南郷、株屋亀田、その部下の川村、
山鼻の愛人で佳那と唯一の友人になる美蘭などが周囲を彩る。

全員金の亡者で、同情すべき人間は水矢子のみ。
特に、軽薄で卑劣な望月には嫌悪感ばかり。
結局、時代の熱に流され、翻弄され、全員が不幸になる。
堅実な生き方をした水矢子だけは
幸福になってほしいと願うが、
桐野夏生は容赦ない末期を用意する。
やりきれなさに包まれ、
読後感はすこぶる悪い

ただ、旺盛な筆力で、一気に読ませるのは、さすが。

題名は、一生輝かないダイヤモンドを水矢子に、
薄汚れた真珠を佳那にたとえたもの。

上巻365ページ、下巻282ページ。
「サンデー毎日」2021年4月4日号~2022年7月10日号に連載。

 



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