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映画『3人のキリスト』

2022年07月24日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

1959年の夏、
精神科医アラン・ストーンは
ミシガン州・イプシランティ州立病院で、
自分がイエス・キリストだと主張する
3人の妄想型統合失調症患者
ジョセフ、クライド、リオンの治療にあたる。
ストーンは大部屋にいた3人を一室に同居させ、
議長を決めて討論会を開いたり、合唱したり、トランプをしたり、
当時としては異例とも言える全く新しい独創的な治療法を試みた。
最初のうち3人は目を合わせようともしない険悪な仲だったが、
次第にその関係に変化が起こり始めて・・・

という話をリチャード・ギアがストーン医師を演ずる、
ギア頼りの映画。


ピーター・ディンクレイジらが共演している。

その背景として、
学者の主導権争いも描かれる。
そもそもストーン医師は研究畑の人材で、
精神病院での敬意は得られず、
座学だけで実地を知らない大先生扱いだった。
当時は、精神病院の治療といえば、
ノボトミー手術や電気ショック、薬物投与が主流の時代。
ストーン医師の心理療法は、それに反抗したもので、
患者の背景を探り、
会話の中での自己治療を探るもの。
既存医療を実践している現場の医師達には面白いはずがない。
しかし、ストーン医師の方法が評価され、
業界紙の表紙を飾るようになると、
他の医師は手のひらを返してストーンの手柄を横取りしようとする。
冷ややかに見ていた所長は成果を知って急に協力を申し出たりする。

実話に基づく、という。
社会心理学者のミルトン・ロキーチが、
妄想型統合失調症患者に対して
実際に行った心理学的実験に基づく。
その内容は、1964年に出版された研究書
「イプシランティの3人のキリスト」に詳しい。


Wikipedia にも載っているので、
少し概要を紹介すると───。                          
ロキーチは、雑誌に掲載された2人の女性の記事から
この実験のアイデアを得たという。
彼女たちはどちらも自分のことを聖母マリアだと信じていた。
2人は精神病院でルームメイトとして同室を割り当てられたが、
互いに会話を重ねた結果、そのうち1人が妄想から抜けだし、
退院することができたという記事だった。

同じやり方を用いて妄想型の信念体系の研究をするために、
ロキーチは当時ミシガン州に10人(!)ほどいた、
自分がキリストだと主張する精神障害者のうち
3人を選び、病院の一室に集めた。
大学を中退した青年、農業を営む老人、粗暴な作家崩れ、の3人。
ロキーチの狙いは、自分をキリストと思い込む妄想の治療のみならず、
複数の人間が自分と同じアイデンティティを主張するという
「究極の矛盾」との対峙を患者たちの人格に迫ることでもあった。

3人のキリストは、
2年間にわたって隣り合わせのベッドで眠り、
同じテーブルで食事をとり、
病院の洗濯室で似たような仕事をさせられた。
ロキーチは、集団療法の一環として
彼らが直接話し合う時間を持っただけでなく、
青年の妻(青年の想像上の人物)からのメッセージをでっち上げてまで介入を行った。
この実験は地元紙に取りあげられ、
ロキーチは記事を3人に読ませたが、
彼らはそれが自分たちのことだとは気づかなかったという。

3人の患者たちは誰が本当の聖者であるかを巡って口論し、
殴り合いにまで至ることもあった。
そして、自分以外の2人は精神を病んで入院している患者であったり、
すでに死んでいて機械で操られている人間なのだと
ロキーチに説明するようになった。
また彼らは自分がキリストであるかという話を互いに避けるようにもなった。
患者の妄想がいくらかでも軽減することを期待して行われた実験だったのだが、
ロキーチが結局それを諦めたため、
3人の患者は自分がキリストであるという信念を抱いたまま実験から解放された。

えっ?

ロキーチとともにこのプロジェクトに携わった大学院生たちは、
この計画の倫理性に対してきわめて強い批判を行っている。
ロキーチは大量の不正と介入を行っており、
また患者にも相当な精神的苦痛を強いることになったからだ。
最終的に、ロキーチは自分の研究が操作的であり非倫理的だと考えるに至り、
1984年版の「あとがき」で謝罪の言葉を述べている。
「例え科学の名においてだろうと、神のまねごとをしたり、
日常生活へ夜昼なしに介入する権利が私にあるはずがない」。
また本書の最終改定版でロキーチは、
この実験が3人のキリストたちを全く治療できなかった一方、
「患者がその信念を捨てるよう操作できるという、
自分を神のごとき存在と考える私の妄想は治った」
と述べている。

何のこっちゃ。
つまり、この実験は失敗したのか。

そこまでは映画は描いていない。
そこまでやれば、
心理療法の限界を示す、
画期的な映画になっただろうに。
ラストに字幕で
「私は神を自称する彼らを治療してやれなかったが、
彼らは私を癒した」
と出るが、
そんなことでは困る。

つまり、この映画は、
原作とはかけ離れた内容となっている。
患者の一人を小人症にしたり、
妻との関係、若い美人の助手との関係など、
映画化にあたっての作り上げた話も多い。
調査した結果を助手が報告して、
「シンデレラが3人、アイゼンハワーガ2人、
デューク・エリントンが1人います」
と言うのは笑えた。

この作品は2016年に撮影され、
2017年のトロント映画祭で初お目見えしたのだが、
その後お蔵入りして、
(おそらく評判が悪くて)
2020年1月に全米公開された。
日本では劇場公開すらされず、
2022年に配信公開となった。

Netflixで鑑賞。
題名に惹かれて鑑賞したが、題名倒れだった。
そもそも原題は「STATE OF MIND」
ブログ冒頭に掲げたものは、宣伝用のもの。

統合失調症は、日本では2002年まで精神分裂症と呼ばれていたが、
今は人格の統合に障害がある人、ということらしい。
一般に幻聴や幻覚、異常行動が見られる。
発症のメカニズムや根本的な原因は解明されていない。
様々な仮説が提唱されているが、未だに決定的な定説が確立されていない。
つまり、人間の心の領域は謎、ということだろう。

有病者の人数は、世界では2300万人ほどで、
日本では71万3千人の患者がいると推計されている。
治療には、医師の気の遠くなるような忍耐が必要とされる。

 



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