空飛ぶ自由人・2

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小説『県警の守護神』

2024年06月25日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

新種の警察小説

交番勤務の桐島千隼(きりしま・ちはや)は、
管内のマンションで女性の叫び声があったという連絡を受け、
先輩警官の牧島と共に現場に駆けつける。
途中、バイクに乗っていた少年の自損事故に遭遇し、
怪我人のそばに行って介抱していた時、
やってきた後続車にはねられ、
病院に担ぎ込まれる。

数日後に目覚めた千隼が知ったのは、
事故に遭った少年は死亡、
はねた自動車は逃走中、
というものだった。
しかも、千隼が行くはずだったマンションでは、
代わりに行ったと思われる同僚の女性警官・国多(くにた)リオによる
発砲事件が起こっていた。

2か月の療養期間を経て、出署した千隼を待っていたのは、
起訴されたという知らせだった。
原告は、死亡した少年の母。
現場にいた警官(千隼のこと)が適切に行動していれば、
少年が落命することはなかっと、
加害公務員の千隼に
1億円の損害賠償を請求するという民事訴訟だった。
弁護士は丸山京子。
警察相手の訴訟に熱意を持つエキスパートだ。

千隼が驚いたのは、
パトカーを運転していたのが千隼になっていた上、
パトカーのドライブレコーダーの映像が
係員の操作ミスで消去してしまったというのだ。
病院でまだ意識がもうろうとしていた頃、
訪れた野上副署長により、
供述調書に、読まずにサインさせられてまったのが、
この結果だ。
供述調書の内容は変えられないという。

警察側の担当は、訟務係
そこにいる荒城巡査長は、
元判事で弁護士資格を持つという変わり種だった。
外部の弁護士を使わず、
荒城に担当させた事案は、ことごとく勝訴し、
内部では、「県警の守護神」と呼ばれているという。

荒城は、裁判に勝つためなら、
手段を選ばない、という男で、
事実の隠蔽、改ざんはお手の物、
場合によっては、偽の証人をでっちあげる、
ということさえやってのける。

千隼といえば、交番勤務の父親に憧れて警官を志すが、
警察官採用試験にことごとく落ち、
仕方なく、競輪選手に転身、
ガールズレースを戦い、
年間賞金女王の称号を3回も獲得、
オリンピックにも出場し、銅メダルを取った。
しかし、マスコミの注目にいやけがさし、
猛勉強して、警察官採用試験に再チャレンジして合格。
競輪選手を引退して、警察官になったという、
これも変わり種。

荒城と千隼という変わり種同士がぶつかりあう。
なにしろ、勝つためには、嘘も方便という荒城と
「警官なので、嘘をつけない」という千隼の
真正面の衝突なのだ。

というわけで、
警察の訟務係という舞台で展開する
警察ドラマ兼裁判ドラマ。

今までの警察小説には全くない新機軸
筆者の水村舟は、
旧警察小説大賞に応募して、受賞はしなかったが、
改名した「警察小説新人賞」(賞金300万円)にも応募、
いずれも訟務係が舞台という執着ぶりで、
成長を認められて受賞したもの。

千隼の事件は警察側の勝利で終わり、
他に行き場のない千隼は
荒城の下に配属され、
同じ日に起きた
女性警官発砲事件の民事訴訟を担当し、
再び丸山弁護士と対決することになる。
調査を進めるうち、
二つの事件がリンクしていたことが見えて来る・・・

警察対民事訴訟や訟務係という着眼点が目新しく、
それだけで興味を引く。
千隼の造形が面白く、
父の姿に憧れて警察官になり、
困った人に駆けつけて救うことが警官の本分としている精神の持ち主で、
刑事などめざさず、
パトカーでの巡回が最高の職務と考えている人物。
従って、嘘に嘘で固める荒城と相容れるはずがなく、
「警官だから嘘をつけない」を裁判の場でも実行してしまう。
正義感まっしぐらで機転の利かないのだが、
対する荒城や副署長、元の教官や定年間近の警官など、
嘘を平気でつき、隠蔽に走る警察幹部との対決がすがすがしい。

今の千隼に課せられた仕事。
それは、思い描いた警察官の仕事とはかけ離れすぎている。
裁判が終わっても、もう、交番に戻る資格がないような気がした。
例えば──交通違反者をつかまえて文句を言われたとき、
私は以前のように、毅然と、
「誰でも決まりは守らないといけません。
決まりを破って人を警察が見逃すことはできません」
とき言い返すことができるのだろうか。

いろいろ瑕疵はあるが、
将来を期待できる新人作家であることは間違いない。



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