空飛ぶ自由人・2

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この国民にして、この政治あり

2024年01月12日 23時00分00秒 | 様々な話題

数学者の藤原正彦氏が、
「この国民にして、この政治あり」
という寄稿を産経新聞に載せている。
傾聴すべき内容だと思うので、
その骨子を掲載する。

まず、藤原氏は、最近の政治資金パーティーでの裏金隠しについて、
「自民党の宿痾である。」と断ずる。

宿痾・・・長い間なおらない病気。慢性のやまい。

今までも政治とカネの問題で事件が起こるたびに、
自民党は様々な対応策を打ち出してきたが、
時の経過と共にきれいさっぱり忘れ去ってしまった。
今回も対応策が出されるだろうが、
どうせまた忘れられるだろう、と。
そして、その原因は国民にある、と続ける。
政治は国民の鏡であり、
「政治とカネ」は、
国民が正直と誠実をないがしろにするようになったことへの
鏡像にすぎないのだ、と。

そして、日本人の道徳性について、
過去の文献を記す。
3世紀の「魏志倭人伝」には、
「盗みや訴訟をせず礼儀正しい」と書かれ、
16世紀に布教に来たザビエルは、
「礼節や名誉を尊ぶ」と書き、
18世紀に長崎出島に来た
スウェーデン人医師ツェンペリーは、
「率直にして公正、勇敢にして不屈」と記した。
幕末に日本に滞在した米高官ハリスは、
「この国には一見したところ
富者も貧者もいない。
人民の本当の幸福の姿とは
こういうものだろう。
日本は世界中のどの国とも違い、
質素と正直の黄金時代にある」
とまで書いた。

藤原氏は、それ以上書いていないが、
私でも、
幕末に訪れた外国人たちが
日本人について記した多数の著作を集めた本で、
そのことを読んだ記憶がある。
東南アジアの国々を訪問してきた彼らは、
最後に訪れた日本で、
賄賂を受け取らず、盗みもせず、
約束を守り、
家族を愛し、子供を大切にし、
自分の置かれた環境で仕事に最善を尽くす
日本人の姿に感銘を受けたのである。
それだけではない、
日本の自然と、
それに育まれた美意識による
素晴らしい工芸品に目を見張ったのだ。

では、何故日本人がその美徳を忘れてしまったのか。
藤原氏は、戦後のGHQの罪意識扶植計画により、
日本の歴史や美徳や伝統や価値観を否定したことを挙げる。

祖国愛を根こそぎにし、
代わりに、
アメリカが盲信する
自由、平等、民主主義を植え付けた。

日本人は公的なことより、個人を優先するようになった。
そして、1990年代半ばに入って来た
グローバリズムが追い打ちをかけた。
成果主義が生れ、
競争社会となった。
その結果を藤原氏は、
次のように書く。

歴史的に世界で最も金銭崇拝から遠かった我が国が、
金銭至上主義となった。
正直や誠実は隅に追いやられ、
人々のやさしさ、穏やかさ、思いやり、
卑怯を憎む心、他者への深い共感など、
日本を日本たらしめてきた
誇るべき情緒、
そして行動規範となる形は忘れられた。

「形」については、こう書く。

慈愛、誠実、惻隠(弱者への涙)、
勇気、卑怯を憎む、
などを主とする武士道精神まで衰退したのは大きかった。
日本人は形を失ったのである。

そして、

家庭と学校で、
古くからあった日本人の情緒と形を育むことが
日本の迷走を食い止める
唯一の根本策である。

と書くが、今の日本の教育界の現状からは期待できないだろう。

藤原氏は、最後に、
高校一年の時に
宮沢賢治「永訣の朝」を読んだ時の感動を綴る。

死の床にある賢治の妹・とし子が高熱にあえぎながら言ったことば。

「生まれ変わったら
自分のためでなく
他人のためにも苦しむ人間に
生れてきたい」

賢治は
「わたしのけなげないもうとよ
わたくしもまっすぐにすすんでいくから」
と誓う。

藤原氏はこう最後に書く。

この詩を読んで感動した私は、
自分もこれからはまっすぐに生きていこう、
何が何でもまっすぐに、
と自らに強く言い聞かせた。
一篇の詩との出会いが
私の指針となった。
子供たちに
こんな経験をさせたいのである。

現在80歳の藤原氏の中に
高校1年の時の決意が宿っていることに、
胸を打たれる。

ただ、私は、日本人の中には、
深い所で、日本人の美点をなくしていないと、
信じたい。

長浦京の小説「アンリアル」には、
次のような主人公の書いた論文が掲載されている。

「天然資源が乏しい日本にとって、
国民の中に潜在的にある
勤勉さや正確さへのあくなき探求心こそが資源なのだ。
電車が一秒も遅れずにやってくる。
町工場が0.001ミリのサイズの狂いもないネジの製作にこだわる。
こうした気質は、地下に眠る天然ガスと同じくらい重要な、
日本人の中に埋蔵された資源だと思う。
これが日本人から枯渇してしまったら、
国際競争力は本当に皆無になってしまう」

この観点を忘れたくないと思う。 

 



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