goo blog サービス終了のお知らせ 

空飛ぶ自由人・2

旅・映画・本 その他、人生を楽しくするもの、沢山

小説『墨のゆらめき』

2024年02月15日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

新潮社(書籍)とAmazonのオーディブル(朗読)の共同企画で、
全篇の朗読が先行して配信された後、
書籍を刊行。
三浦しをんが、この共同企画のために書下ろした長篇小説。

ホテルマンの続力(つづき・ちから)は
宛名書きを依頼するため、
筆耕士の遠田薫のもとを訪れる。
おんぼろの自宅で
書道教室を経営する遠田は、
驚くほどのイケメン。
しかし、性格は破天荒で、
真面目な続とは、合うはずがない。
しかし、この異なるタイプの二人が交流を深める中、
のようなものが生まれて来る。
子どもの手紙を代筆したり、
男との別れの手紙を書いてやったり。
しかし、ある日、筆耕者リストから外してくれ、
とのメールを遠田から受け取って、
訪ねていくと、
その理由を巡る、
遠田の過去を聞くことになる。
それは、続には、
思いもよらない人生だった・・・

主人公の二人が超魅力的。
これは、男の友情物語、というより、
男の愛情物語と言えるかもしれない。

主人公の続は、人が語りかけやすいという特長があり、
遠田との関係もそれが深いところで存在し、
遠田が人生を語る背景になる。

脇の人物も魅力的で、
特に、遠田が飼っている猫のカネコ氏
存在感を発揮する。
書道教室に通う子供達も良い。

ホテルの宴会場で行われる
披露宴やパーティーの
案内状の宛名を書く筆耕士というのは、
小説に初めて登場するのではないか。 (たぶん) 

中に出て来る漢詩、

君去春山誰共遊
鳥啼花落水空流
如今送別臨渓水
他日相思来水頭
(おまえがいなくなった春の山で、
 俺は誰と遊べばいいんだ。
 鳥は鳴き、花は散り、川はむなしく流れるばかり。
 いま、谷川のほとりでお前の旅立ちを見送っている。
 会いたい思いが募った時は、またこの川辺に来よう)

が素敵。
友との交流、その別れの気持ちとは、
そういうものだろう。

 


演劇『罠』

2024年02月14日 23時00分00秒 | 演劇

昨日のブログで紹介した
タワーホール船堀に行ったのは、

この芝居↓を観るため。                                                                                                    

劇団フーダニットの公演。

「フーダニット(whodunit) 」とは、
「Who [has] done it?(誰がそれをやったか)」
の口語的な省略形。
簡単に言うと、「犯人は誰だ」。
誰が犯罪を犯したのかという謎に焦点を当てた、
複雑な筋書きのある推理小説を指す。

バリエーションに「ハウダニット(Howdunnit )」がある。
こちらは、犯人とそ犯罪行為が最初から明らかにされており、
捜査官が真実を突き止めようとする過程と
犯人がそれを阻止しようとする姿が描かれる。
倒叙ミステリと呼ばれる。
「刑事コロンボ」シリーズや「古畑任三郎」もこのジャンルに属する。

その「フーダニット」を名前にした劇団。
江戸川区を中心に活動するミステリ劇専門の劇団だという。                                                                            タワーホール船堀について調べている時に、
イベント紹介で見つけ、
興味深かったので、観に行った次第。                                              

演目の「罠」は、
フランスのロベール・トマの出世作。
1960年パリで初演され、大評判に。
映画化は2度されており、
日本でも初演以来、
テアトル・エコー、PARCO プロデュース、
松竹、日本テレビ、俳優座プロデュースなど
多くの舞台が創られ、
2~3年に1度、
どこかで上演される人気作。
この劇団でも3度目の上演だという。

フランスのリゾート地、シャモニー付近の山荘、
窓からアルプスを望む一室が舞台。
新婚3ケ月のカップルがバカンスのため訪れていたが、
些細な夫婦喧嘩から妻のエリザベートが
家を飛び出し、
行方知れずになってしまう。
夫のダニエルは警察に捜査を依頼するが、
担当した警部は、
じきに帰って来ますよ、と取り合わない。
しばらくすると、
修道院で保護したと言って、
シスターが妻を連れて来る。
驚くダニエル。
妻とは似ても似つかわない女だ、
とダニエルは断言する。
警部立ち合いのもと、
その前に立ち寄ったベニス旅行のことを訊くと、
すらすらと答える。
ダニエルの身体的特徴についても知っている。
状況証拠はどれもこれも
現れた女が妻であると印象づけるものばかり。
しかし、ダニエルは強固に妻ではない、と主張する。
女がニセモノなのか、
それとも、ダニエルの頭がおかしいのか。
そのうち、二人の結婚に立ち会ったという浮浪者の絵描きが現れ、
奥さんはブロンド、つまり、今の妻とは
別人だったと証言する。
絵描きは銃で撃たれてしまう。
また、二人を診断したという医師が現れ、
今の妻という女に山荘で会ったという。
一体真実はどこにあるのか・・・

セットは一つ
登場人物はわずか6人
(もう一人、セリフのほとんどない役が1人。)


典型的な「ウェルメイドプレイ」
俳優の都合か、
男性の役を女性が演じたりしていた。
(神父→シスター、浮浪者のじいさん→女性)
10周年記念公演では、
消えた妻、消えた夫の2ヴァージョンで上演という、
粋なこともやっている。

大変よくできた脚本で、
誰もが怪しく、誰もが真実を語っているとは思えない中、
新たな殺人が起こり、
事件の取り調べは二転三転、
緊張感漂うセリフの応酬が続く。
そして、ラスト5分、
衝撃的なクライマックスが・・・。

このラストの展開で、
あれ? と思った。
何かに似ている
そうか、2022年の中国映画で、
昨年Netflixで配信された
秀作「妻消えて」だ。


あの映画でも、
失踪した妻とは別人が「あなたの妻よ」
と現れ、二転三転する展開。
そして、驚愕のラストが。
この「罠」が元ネタだったのか。

「罠」は日本で付けた題名で、
元のフランス語原題は、
「一人の男のための罠」が正式名称。
これでは、分かる人には分かってしまうか。

なお、劇団フーダニットの過去の演目を見ると、
ギルフォード「六人の令嬢」、
刑事コロンボのルーツ「殺人処方箋」、
アガサ・クリスティ「ホロー荘の殺人」「ナイル殺人事件」、
ロベール・トマ「8人の女」など多彩。

ミステリ専門劇団というのは、珍しく、
他に聞かないので、
追いかけてみるかもしれない。

 

 


船堀タワー

2024年02月13日 23時00分00秒 | 名所めぐり

昨日は、浦安駅までバスで行き、
東西線で葛西へ。
そこからバスで北上し、
新宿線船堀駅へ。

駅から1分のここ↓を目指します。

その前に、ここ↓で、

腹ごしらえ。

充実ランチ。

繁盛していました。


さて、改めて、ここへ。

タウンホール船堀

正式名称は江戸川区総合区民ホール
1999年にオープンした区立の文化複合施設。

内部は吹き抜けで独特な空間。

 ビルの地下1階から地上7階には、

イベントホール・ バンケットルーム・映画館・ 展示室・ 
結婚式場・17の会議室などの諸スペースがあり、

レストランやショップ群も営業しています。

展示室。

ホールが二つ。
客席数756の大ホール


客席数260の小ホール

地下には映画館「船堀シネパル」が。


座席数148と126の2スクリーン。

作品選びは独特。


家族連れの向けのプログラムが多いようです。

上から見たところ。

船みたいだな、と思ったら、
やはり、船を模したようで、
水辺都市・江戸川区にちなんで
「区民の乗合船」をコンセプトに。

115メートルのタワーがあり、
通称「船堀タワー」


災害が発生した際に状況を確認できる施設として防災目的で建てられ、
タワーの頂点には360度を見渡すカメラがついています。

展望台は入場無料

展望台を一般公開しているタワーとしては
都内3位の高さで、
1位の東京スカイツリー、2位の東京タワーと並べて、
都内(東京)三大タワーの一つに数えることもあります。

7階からこの専用エレベーターで。

分速105メートル
1分足らずに展望台に着きます。

展望エレベーター運行時間は、
午前9時から午後9時30分まで

眼下に荒川が。

遠くに東京スカイツリー。

低いので、プライバシーを守るため、
双眼鏡や望遠レンズの使用は禁止されています。

タワーの影。

遠く東京湾が見えます。

曲がる荒川。

これは公式写真。日によっては富士山も。

5時間後、もう一度タワーに登って、夜景を。

その間、どうやって時間をすごしたかというと、
小ホールで上演された芝居を観ていたのです。
そのことは、明日、書きます。

2020年8月1日から
「江戸川アラート」として
区内新型コロナ新規陽性者数が
前日を上回ると赤、


同じなら黄、
下回れば青にライトアップ。


今もやっているかどうかは不明。

 


小説『嘘』

2024年02月11日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

絵本作家の里谷千紗子は、
絶縁状態にあった
認知症の父親の世話をするために、
一時的に故郷に戻って来た。
5年ぶりに再会した父の孝蔵は、
厳格な教師だった面影はなく、
千紗子に会っても「どなたかな?」というほど衰えていた。

千紗子は旧友の久江と飲みに行った帰り、
久江の車が男の子をはねてしまい、
飲酒運転で公務員のクビがかかっている
久江に頼まれて、
男の子を引き取るはめになる。

ケガは軽いようだったが、
少年は記憶を失っていた
少年は父母と遊びに来た時、
橋からバンジージャンプをして川に流され、
久江の車と遭遇したようだ。
捜索を伝えるニュースでは、
9歳と言っていた。

全身に虐待の跡があったことから、
千紗子は、少年の両親を訪ね、
とんでもない鬼親であることを確認して、
少年を自分の子どもとして育てる決意をする。

千紗子は、
5歳の息子・純を水難事故で失った過去があり、
夫婦で乗り切ろうとする夫の努力に反して
立ち直ることが出来ず、離婚した経緯がある。
その純の身代わりに、拓未(たくみ)と名づけられた少年との間に
偽の親子関係が築かれていく。

拓未に対して、偽りの過去の記憶を植え付ける一方、
日がな一日仏像を彫り続ける孝蔵と拓未の関係は良好で、
「おじいちゃん」「お母さん」「拓未」という
疑似家族は、絆を深めていき、
幸福感が三人を包む。

しかし、孝蔵の症状は増々進み、
また、ニセモノの親子関係にも危機が迫っていた・・・

と、絵に描いたような作り話だが、
すいすいと読ませる力はある。
三人の幸福が長続きしないことは
最初から見えているのだが、
破綻した後の展開は、
世の中の冷たさと理不尽さを見せつける。
拓未の実の親がとんでもない奴だと読者は分かっているだけに、
千紗子と拓未の幸福が守られるよう祈るのだが、
世間はそれを許さない。
そして・・・

周囲を彩る人物も多彩で、
特に孝蔵の幼馴染の医師・亀田の存在が麗しい。
背景に過疎の村や認知症の症状などが存在する。

終章の最後一行で、
「ああ、そうだったのか」という
感慨を持つと共に、
題名「嘘」の意味が判明する。
解説の『良い結果をもたらす嘘は、
    不幸をもたらす真実よりいい』
という言葉は、なかなか深い。

ミステリ、SF作家の北國浩二の作品。

近く、杏主演で「かくしごと」という題名で
映画化されるという。


既に同題のアニメもあり、
もっと他の題名はなかったのか。
脚本・監督は関根光才。
6月7日公開。
成功するかどうかは、
ひとえに子役の人選にかかっている。


映画『瞳をとじて』

2024年02月10日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

「ミツバチのささやき」などで知られる
スペインの巨匠ビクトル・エリセ
31年ぶりに撮った作品。

冒頭、ある邸宅を訪れた男が、
死期の近いユダヤ人の富豪から
人探しを依頼される。
富豪の血を引く中国人の少女を探し出して、
連れて来てほしいというのだ。

というのは、映画の中の映画で、
この映画「別れのまなざし」の撮影中に
主演俳優フリオ・アレナスが失踪したために、
未完に終わってしまったのだ。

それから22年。
「別れのまなざし」の監督だったミゲル(英語名はマイク)が
「未解決事件」というテレビ番組に招かれて、
失踪事件について語る。
取材後、ミゲルは過去にゆかりのある人物を次々と訪ねて、
昔を語り、倉庫で過去の文物を探る。
それは、親友でもあったフリオと過ごした
青春時代を追想するものであった。

ここまでがおよそ3分の1。
ほとんどが1体1の対話で、
やや冗長。

マドリードから長距離バスでミゲルが戻ったところは、
スペイン南部の寒村で、
そこでミゲルは漁業をしながら、
近所の住人とだけ交流の
隠遁者の生活をしている。

ようやくドラマが動き出すのは、
番組を観た視聴者から、
「失踪した俳優とそっくりな人がいる」
という連絡だった。

訪ねて行ったところは、
修道院が運営する高齢者養護施設
そこでフリオと思われる男は
建物の修繕などをして雇われている。
男は船乗りとして、世界中を回っていたらしく、
病気で施設に来た時には、
過去の記憶を失っていた
面変わりしているものの、
ミゲルが男はフリオだと確信したのは、
「別れのまなざし」で使用した
中国人少女の写真を持っていたことだった。
ミゲルはフリオと出会った水兵時代の写真を見せたり、
水兵独特の結び方をさせたりして
記憶を取り戻させようとするが、
うまくいかない。
フリオの娘アナを呼び寄せ、会わせても、
男の記憶は戻らない。
そして、最後の手段として、
ミゲルがしたのは・・・

ここで、最初の「映画の中の映画」が
登場する、巧みな構成。
この場面は、なかなかスリリングで、
興味をそそる。

アメリカ映画だったら、
もっと違う描き方をするだろうと思うが、
監督は古い映画手法に固執する。
たとえば、多発されるフェイドアウト。

フェイドアウト・・・
場面切り換えの手法の一つ。
「暗転」や「溶暗」といった方が分かりやすいだろうが、
場面を急速に暗くして次の場面につなぐ。
逆に暗闇から次の場面を徐々に明るくしていくのがフェイド・イン。
画面に次の画面が重なって、
前の画面と入れ替わるのがオーバーラップ。
ディゾルブともいう。
端から次の場面を出て来て、
拭うように次の場面につなぐのがワイプ。
黒澤明が多様し、その影響で「スター・ウォーズ」などに引き継がれた。
これらの場面転換は、
既に過去の遺物とも言え、
今は、カットでつなぐのが主流。

前半部分での1対1の対話での切り返しも過去の手法。
おそらく巨匠ビクトル・エリセは、
新しい映画を観ていないか、
観ていても、切り捨てているのだろう。
それはそれで立派なものだが。

映画そのものは、古い手法によるので、
今の手法を見慣れた観客には、少々もどかしい。
ただ、ストーリーラインである、
失踪した俳優の探索と
過去の回復というテーマは魅力的だ。
その回復のために
映画を使う、というのも、なかなかのもの。
ただ、最後はその結果は見せることなく、
映画は終わる。
フリオの表情の変化だけでも見せてくれればよかったのだが。

169分という時間は、さすがに長い
前半にあんなに時間を取る必要はないのでは。

ただ、真ん中に当たる監督の隠遁生活は、
ビクトル・エリセの日常ではないかと思うほど魅力的だ。

その仲間との交流で
「ライフルと愛馬」を歌うシーンが出て驚いた。
ハワード・ホークス監督、ジョン・ウェイン主演の
西部劇「リオ・ブラボー」(1959)の中で
ディーン・マーチンとリッキー・ネルソンが歌う。


ただ、歌詞の字幕が「ライフルとポニー」と出ているのは、
いただけない。

「ライフルと愛馬」を聴きたい方は、↓をコピーしてお使い下さい。

https://youtu.be/2FEbBUPO5OU?t=10

「ミツバチのささやき」で
当時5歳で主演を務めたアナ・トレント
フリオの娘アナ役で出演。
「私はアナ」と、当時と同じセリフを口にする。

冒頭とエンドロールで
印象的に映される双頭の彫刻は、
ローマ神話の神、ヤヌスの像
一つの顔は未来を、もう一つの顔は過去を向いており、
なにやら象徴的
ヤヌスはアルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスの
短編小説「死とコンパス」出てくる。
エリセはこの物語を映画化するために脚本を書いたことがあるという。

フリオの今の名前、ガルデルは、
人気絶頂で飛行機事故によって急逝してしまった
アルゼンチンの国民的英雄で
伝説のタンゴ歌手、カルロス・ガルデルに由来。
フリオがよくタンゴを歌っていることから彼につけた呼び名。

手法は古いが、
なかなか味のある映画だった。

5段階評価で「4」

TOHOシネマズシャンテで上映中。